…side アーノルド
初めて会ったのは忘れもしない5歳。
母に連れられて母の友人のソル侯爵家に行ったときだった。
まだ他家への挨拶をしたことがなかった私を、練習として連れてきたのだと思う。
緊張しながらも、家で家庭教師から学んできた通りにきちんと立ち、紳士の礼をした。
そして顔をあげ、相手のソル夫人と目を会わせたあと、そのドレスの裾に隠れているフリージアを見つけたのだ。
夫人に促され、おずおずとドレスの後ろから出てきた彼女を見たとき、自分の体に雷が落ちたのかと思うほどの衝撃が走った。
今よりも子供らしい、ぷにぷにとした触り心地の良さそうなほっぺたをピンクに染め、ふわふわのピンクブラウンの髪には小さな花の髪留め。ぱっちりとした瞳はまっすぐに私を見つめていた。
緊張しながらも淑女の礼を見せてくれたフリージアに、一瞬で恋に落ちた。
彼女は僕の運命の人だ
幼かった私がその時何を話したかはあまり覚えてはいないが、とにかく彼女のことが知りたいと、好きなものや嫌いなものなど、個人情報を聞きまくった気がする。
まだ淑女教育を受け始めたばかりのフリージアは、5歳の私に警戒心を見せることなく、素直に自分の事を話してくれた。
その後、両親にフリージアと結婚したいとせがみ、いくら仲がいいからとはいえ早すぎると渋るお互いの両親を説得し、自分がフリージアを幸せにするためにできることを提示し、18歳の成人までに再度お互いの意思を確認することを条件として婚約を結んでもらった。
婚約契約書の控えはわたしの部屋の鍵のかかる引き出しと、一つでは不安なので私の味方をしてくれる祖父母の家の金庫と、いつも持ち歩く鞄に、3枚にわけて大切に大切に保管してある。
それからの私はフリージアを幸せな花嫁にするべく自己研鑽し、コネとしての婚約でなくフリージアにも恋に落ちてもらうべく、愛をささやいたり、贈り物をしたり、物語のような行動をしたり出来ることを思い付くままに実行していった。
私はフリージアが視界に入る度に何度でも恋に落ちたし、最初の頃よりもっと愛しく思うようになっていった。
多くの出会いがある学園に入学する頃には、愛らしい性格はそのままに、見た目は誰もを魅了する美しい女性になってしまい、フリージアに懸想する者が増えて、とても焦ったものだ。
出来る限り自分が側に付き、婚約者の存在をアピールしていたが、クラスが離れている時は気が気ではなかった。
女性しかいない淑女クラスはともかく、法律クラスは私も選択してもよかったのだが、フリージアが将来の私達のためにと学んでくれているのだからと、自分も将来のフリージアを守るため泣く泣く騎士クラスを選択した。
法律は家庭教師から既に学ぶことはないと言われていたのもあるが、それはフリージアには話していない。
フリージアが仲良くなったベイリー嬢のお陰で、離れていても少しは安心していられるようにもなった。
ベイリー嬢からは私と同じようにフリージアを守りたい意思を感じる。
最初の頃は、お互いがフリージアを独占しようと水面下でもめたが、学園では男の私ではついていけない場所もあるため、今はフリージアへの思いを信じて預ける形をとっている。
たまに嫉妬してしまい、帰りの馬車でフリージアに対して暴走してしまうが…。
フリージアに私と同じくらい私のことを好きになってもらいたい。
そして夏休み明け、編入生を見て、衝撃を受けた。
これこそ、運命の出会いだ。
そう、私とフリージアとの。
しかし、もう同じ学園に入学してしまっているので、今さらどちらかが編入生になることはできない。
さらに、フリージアと離れるなんて考えられないから、1度他の学園に移籍することも考えられない。
そこで私はあることを考えたのだった。
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「金の目の王子が覗くのは令嬢の妄想」
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