番外編…カレンの恋 上
私は伯爵家長女、カレン・ベイリー。
歳の離れた兄が一人いるんだけど、小さな頃からそれはもう構われ過ぎたせいで、ただでさえキツい見た目なのに、兄に対抗するためキツい性格にもなってしまった自覚はある。
だから年頃になってお茶会に誘われてもうまく振る舞えない私を心配して、お母様が学園に行くことを勧めてくれたの。
学園の淑女クラスでは、貴族としてのマナーも学べるし、横の繋がりも増える。上級クラスに進めばこんな性格で結婚できなくても、王宮の女官や侍女の仕事につけるかもしれないし、私にはその方が合ってるかもなんて、軽い気持ちで入学したわ。
入学してみると、さすが淑女クラスなだけあって、皆名家の令嬢、もしくは権力と繋がりを持ちたい裕福な平民。
特に侯爵位以上の令嬢なんかは、通う必要ないんじゃない?って言うくらい、すでに知識も振る舞いもできていたわ。
友人くらいは出来るかなと思って、お茶会で一緒になった令嬢に話しかけてみたけれど、このキツい見た目のせいか、大人しそうな子達は口数が減ってしまうし、キツそうな子達には敵対心を持たれるし…
ある日紅茶の産地について、自分の知識を披露しながら会話する授業で、つい言い合いになりそうになったところで
私は天使に出会ったのよ。
「どちらの紅茶も美味しいけれど、好みが分からない客人をもてなすなら、産地の気候に合わせたらどうかしら。冬なら、北の産地のマッターリを、夏なら南の産地のスッキーリを。現地の人が好むだけあって、気温に合っていると私は思うし、天気の話や地方の話に繋げやすいんじゃないかしら」
そう言って、睨みあう私達のあいだにゆっくりやって来て「はい!」と、紅茶をすすめられたのは、フリージア・ソル侯爵令嬢。
艶のあるウェーブの桜色の髪に、キラキラと宝石のような瞳。
トゲトゲしてる私達の空気を読んで遠巻きに見ていた令嬢と違い、あえて空気を読まずに颯爽と舞い降りた。
…天使? 天使がここにいるわー!!
と、心のなかで叫ぶ私の視界には、同じく顔を呆けさせた、先程まで睨みあっていた令嬢が映る。
思わず目が合い、今度は二人して笑顔でフリージアさんに話しかけた。
険悪だったこのテーブルの空気が一気に華やぐ。
水面下で今度はフリージアの気を引く争いが勃発してたけれど。
その後も、幸い(?)婚約者も友人もいない私は、誰に構うことなくフリージアさんにくっついていた。
私の直接的な話し方にも気分を害すことなく、気がつけば一番の親友になってフリージア、カレンと呼びあうようになったわ。
そんなある日、フリージアの婚約者がいる騎士クラスの、模擬試合を見学に誘われたの。
フリージアの婚約者は、フリージアのことを溺愛するあまり、同性である私まで遠ざけようとする男。
フリージアはあまり自覚がないようで、見てる分には面白いけど、フリージアとの時間は私も譲れないわ。
ベンチに座って見学し、休憩になるとフリージアは飲み物とタオルを届けに行ってしまった。
フリージアの婚約者は先ほど準決勝で敗退していたので、怪我をしていないか心配なようで、彼女にしては珍しく走っている。
まぁ騎士を目指すわけでないのに準決勝まで進む婚約者は優秀な方だろう
あぁ、走っていてもフリージアは可愛いわね。
一人になった私がしみじみしていると
「君は? 誰かの応援じゃないの?」
突然声をかけられた。
ーそれが彼との出会いだった。
騎士服で短髪の、少し軽そうな男性。
第一印象はたいして良くもなかったわね。
「友人についてきただけですわ」
「ふうん」
「失礼ですがあなたは?」
「王宮騎士団所属で、ノエルだ。今日は講師として来ているよ。ちなみにこの後優勝者と戦う予定」
「それはそれは。どうぞ準備運動でもしてきてくださいませ」
ちょっと言い方がきつかったかしら。
でも突然馴れ馴れしく話しかけてくる人には、この対応で十分ね。
「…へぇ。僕にそんなこというなんてね。では、勝利の女神に誓おう。君のために勝ってくるので、どうか名を教えてくれませんか」
「な!! なにをっ、」
急に跪いて、手をとってくるなんて、反則だわ。
「カ、、いえ。あなたが勝てたら言うわ!」
私は赤くなっているだろう顔を隠そうと、言うだけいって、フリージアのいる方へと走って逃げた。




