運命とは
「きゃっ!」
「す、すまん、大丈夫か?」
学園の廊下の角を曲がろうとしたときに、うっかりぶつかりそうになり、ふらついた私の腰に手をあて支えてくれたのは背の高い男性。
「はい、ありがとうございます、こちらこそちゃんと見ずに…アーノルド様?」
お礼を言おうと顔をあげると、そこにいたのは私の婚約者だった。
「ああ!フリージアだったか! まさにこれは運命の出会いだ! 結婚しよう!」
なにを言い出すのか…と、思う人もいるだろう。
キラキラと輝く水色の髪を横に長し、同じく輝く水色の瞳に蕩けるように見つめられる。
曲がり角での偶然の出会いね。
「…ア、アーノルド様。支えてくださってありがとうございます。しかし私達は既に婚約者です。そして、本日会うのはこれで13回目ですよ」
これ以上近づかれてはと、彼の胸を押し返し距離をとる。
「そんなに会えるなんて、やはり運命だな。怪我がなくてよかった。フリージア、放課後また会おう」
「…はい」
私の腰に手を回し、腰まである髪をすくいあげ口づけして去っていく。
姿勢のよい歩き姿に、整った甘いマスクの彼は、私達二人の会話を聞いていただろうにも関わらず、すれ違う女子生徒たちから熱い視線を送られている。
そう、彼は私の婚約者アーノルド・クレイ。
この国の侯爵家長男である。
親同士仲がよかったため、5歳の時に顔会わせだけしてすぐに婚約者となった。
そんな私は同じく侯爵家長女、フリージア・ソル。
アーノルドも私も16歳で、この春から同じ王立学園に通い始めた。学習の基礎は各家庭で学ぶのが基本の貴族社会。16歳からの2年間を更に学びたいもの達が、分野ごとに分かれて学ぶことができるのがこの王立学園である。
私は社交での繋がりを作るために淑女クラスと、侯爵家に嫁いだあとも役に立てるように法律クラスを、アーノルドは騎士クラスと経済クラスを受講し、たまに法律クラスも聴講している。
入学して1ヶ月、同じ目標をもつ友人や尊敬できる講師の先生方に恵まれ、とても充実した日々を送っていた。
そして、先ほど彼に伝えた通り、私が今日、婚約者のアーノルドと会ったのは13回目。
そのうち3回は登校のお迎えや同じ授業を受けるために必然で、あとの10回は彼曰く運命の出会いらしい。
らしい、というのは学園に通いはじめてから、いや、その前から結構な頻度で偶然アーノルドと会うから。
私がたまたま入ったカフェや、不定期に訪れる王立図書館、そして今のような学園の廊下での出会い…
これって運命っていうのでしょうか?
読んでくださりありがとうございます。
二作目に挑戦してしまいました…
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「金の目の王子が覗くのは令嬢の妄想」
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