表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/87

09、散らばり続ける、ともしびの下に-04

 ……朝九時にJR大阪駅のホームに集合と言われましても。

 東堂くんはちょっと、張り切りすぎじゃないんだろうか。いくら大事な友達に全力で頼られたからとはいえ。

 とはいえ、ぶつくさ言っていたわたし自身も。早起きして化粧も済ませ、阪急電車の座席に腰かけている。終点の大阪梅田駅から、JR大阪駅までは徒歩十分もかからない。

 そろそろ街はクリスマスの色に変わろうとしている。同じ車両に乗り合わせた人たちも、どことなく愉しそうだ。

 クリスマスかー。

 楽しみにしていたのは、いつ頃までだったかなあ。社会人になってからは、日々の出勤だけで精一杯になったような気がする。

 ふと蕾ちゃんから言われた「年末調整」という言葉を思い出した。サンタクロースよりも、そっちの仕事を片付けるほうが大事になっちゃったよ。

 どうせプレセントをくれる人も、いないもん。

 ……そんなことを考えていたら、なんだか段々と滅入ってきた。これから折角、東堂くんとケンちゃんと一緒に京都に行くのに。

 腕時計を見ると待ち合わせの時間まで、まだ一時間以上もあった。

 東堂くんのことは笑えないな、と思う。

 自分でも気がつかないうちに、彼らと出かけることを楽しみにしていたに違いないのだ。

「お茶でもしてから、待ち合わせ場所まで行こう」

 阪急百貨店の地下入り口には薬局がある。その扉の向かい側に、喫茶店があったはず。そこのコーヒーが飲みたくなった。

 百貨店の南北に延びるコンコースは、毎年十一月後半になるとクリスマスをデザインしたイルミネーションが飾られる。

 それを眺めてからJR大阪駅に行っても、充分に間に合うよね。

 あれこれと考えながら、お目当ての喫茶店に着く。

 コーヒーを注文してから、ようやく。わたしの休日がはじまったような気がする。


 切符を買っていると、東堂からショートメールが来た。

「8番線ホーム。一番、後ろにいる」

 早いよキミたち、と笑ってしまった。それでも、うかうかしてはいられない。

 この寒い日に男ふたり、吹きっさらしの中で待ってくれている。人混みをかきわける足は、自然と速くなる。

 登りのエレベーターも急ぎ歩く。登りきったとき、きつねのお面をかぶって真っ赤なイアーウォーマーを着けたケンちゃんがいた。

「茉莉さん、おはようございます」

 頭を下げたケンちゃんのイアーウォーマーは、ふわふわの綿毛を集めたみたいに見える。ボタンを全部留めた紺色のダウンジャケットから、赤色のコーデュロイのシャツがのぞいていた。細身のチノクロスのパンツと、紺色のスニーカーがよく似合う。

「試験なのに、その恰好でいいの」

「はい」

 ケンちゃんが照れ臭そうに、体を揺する。

「東堂くんは?」

 尋ねると、彼は人差し指で「後ろ」と示した。振り向くと、手のひらで顔を半分覆った東堂がいる。

 ボタンを全部外したキャメルカラーのフード付きロングコートと、濃いめのグレーのスキッパー。ロングコートの両脇に焦げ茶色のベルトが見える。リュックを背負っているのだろう。それとデニム生地のワイドパンツに、真っ赤なスニーカーという恰好だ。

「気づいてくれないんだもんなあ」

「後ろにいるからじゃないの。そっちこそ人が悪いよ」

「あっは、ごめん」

 東堂は、片手にコーンスープ缶を持っている。どうやら中身は空っぽらしい。缶を振りながら、わたしとケンちゃんを交互に見つめた。

「茉莉ちゃんの職場以外の服装を、はじめて見た。ケンちゃんは、まあ。店の延長っぽい感じだけど」

「そうですねえ。ぼくは普段とあんまり変わらない」

「わたしだって東堂くんの私服のセンスなんて、全然知らなかったよ。いつもスーツにネクタイだもの」

「そうだな。職場以外の場所で会う同僚の姿って新鮮な感じがして、いいな」

 おきつね男子が、わたしを見てうなずく。

「そのワンピース、似合っていますよ」

 ちょっと暗めの赤色の地に、大ぶりの白い花柄があしらわれているロングワンピ―スは去年購入したものだ。それに今日は、紺のハーフコートを合わせた。黒いタイツと、同じ色のハイカットスニーカーは格別に気に入っている服装だ。

「次の電車で行こうか」

 東堂が言う。わたしとケンちゃんは、彼の後ろに立って電車を待った。木枯らしのつめたさが、いつもよりもきつく感じる。

「さすがに寒いね、この時期にもなると」

 見上げた相手が、わたしの目を見て笑みをこぼした。

「それは『手を握ってくれ』の意味か。いつでもどうぞ」

「遠慮しておきます」

「遠慮すんなよ、職場じゃないんだから」

「結構ですーぅ。ケンちゃんの手の方が、あったかそうだもん」

 ほどなくして電車到着のアナウンスのあと、京都行き新快速電車がやって来た。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ