空のブランコ
自分の書きたいものを書いてみた
齢はまだ、六つ程だろうか。少年は、公園の隅に一つだけあるブランコに座って、それをこぎながら広場で遊ぶ自分と同じ年ぐらいの子供たちを眺めていた。
視線が上に上がったかと思うと、次の瞬間、体が後ろに引っ張られ地面を眺めている。その繰り返し。子供たちが見えるのはその間のほんの一瞬だ。ギシギシと木製の柱が軋み、ロープがこすれるのが手に伝わる振動で分かった。
サンサンと照る太陽が木漏れ日となって差す広場ではなにやら大がかりな鬼ごっこが始まっていたが、たいくつそうな彼を誘いにくるものは誰もいなかった。まるでなにもないかのように、ブランコに近づくものすらいない。
頭上をブオーンと飛行機の通る音がした。少年の白いマフラーが、風に大きくなびく。この公園は、時々頭上を飛行機が飛んで行く。ちょうどこのジャングルが彼らの通り道にあるのだろう。それを眺めるのがここ最近の彼の日課になっていた。
彼はブランコを足で止めると、後ろに大きくのけぞって空を仰いだ。ジャングルの木々に生い茂る葉の隙間から、飛行機の緑色の腹が、一機、一機と先程のに続いて通り過ぎていった。
そうだ、と少年は勢い良く上体を起こして立ち上がると、ブランコの向かいにある掘っ立て小屋の方へと、広場を突っ切って行った。彼の髪を畏怖の目で見つめる子供たちをよそに、ジャングルの木でできた扉を開けて、いつもの手作りキャンバスを床から拾い上げた。額からはぽたぽたと床に汗が落ち、それを軽く袖で拭いながら、机の上から二、三本の羽ペンと黒チョークをつかんで髪に刺した。インク瓶の蓋をしっかりと閉めてポケットに突っ込むと、彼はそこをあとにした。
ジャングルの奥へと向かう途中、公園の端にある崖の側で危ない危ないと笑いながら騒ぐ子供たちがいたが、いつものことだ、彼は大して気にもしない。近づくなと言われると、子供はそこに近づく。立て看板の意味がまるでない。
彼は、ため息交じりにぶつぶつと不満を呟いた。ここ最近のことだ、崖が崩れやすくなったのは。耳を澄ませば、彼には毎晩島の崩れる音が聞こえた。この公園も、いつか全部下界に崩れ落ちていくのかもしれない。
そんな子供達を尻目に、草をかきわけていった彼はもう通い慣れた石のトンネルの前にたどり着いていた。ジャングルの木の根に隠れたそれの、地面へと飲み込まれていく階段をキャンバスを抱えてゆっくりと降り始める。湿気と油の臭いがトンネルの奥のほうから臭ってきた。久しぶりだ、向こうにいくのは――そう思った彼の次の一歩に合わせて、ファサッと、目を覆う前髪が先程とは逆の方向になびいた。
「あ……、風が変わる」