静寂の向こうに
『初日から遅刻とは見上げた根性だな。』
「すいません…」
『まぁいい、お前の事はよく知ってるが、念の為IDと志願書を見せろ。』
当初からブレイヴ・フラッグを利用する気だった俺は学生時代から訓練施設を見学したり、そのまま食堂へ入り浸っていたので、門番の兵士達には俺の顔はすっかり馴染んでしまっている。
でもジーク?って名前の教官の話は聞いた事ないんだよなぁ。
『…よし、じゃあ訓練所は分かるな?その手前の路地を左に入って、橋を渡った先の奥の風車の下にある小屋に向かえ。
そこで適性検査を行う。』
「適性検査?
俺それ聞いた事ないんですけど。」
『今年から始めたからな。
何でも“来る大きな戦争に備えてより正確な戦力値を把握しておく為”だと言ったか。
とにかくその小屋だ。詳しくはそこで説明があるから早く行け。』
「分かりました。ありがとーございまーっす」
『ったく、生意気なやつだ』
挨拶もそこそこに言われた小屋を目指す。
───ここレオセイル帝国城は城門を潜った先はほぼほぼ軍の人間が使う施設や食堂、武具屋などで埋め尽くされており、娯楽や一般の商店はその外の城下町に集中している。
そんな中、兵士達の精神状態を配慮してか下宿先や寮は城下町の方にあるらしく、その為休日はこの城内で人を見る事はほとんどない。
そして、今日は平日のはずなのだが───
「…なんか全然人いないな…。
ブレイヴ・フラッグって休日扱いなのか?
いつも祭りみたいに城下町とか騒がしくなるのに』
まぁいいや、細かいことは俺が気にする事じゃないし。
不自然なまでの静けさに違和感を覚えつつも、言われた路地を左折する。
そういやこっちの方は来た事なかったなぁ。
まもなく例の風車が見えてきた。
小さな池にかけた煉瓦橋に風車小屋。
物々しい城内の中に於いてやや場違いとさえ感じる、穏やかな場所だと思った。
その荘厳な空気に気圧されつつも、慎重に扉のベルを叩く。
「すみません、今日から入隊予定のエヴァンス・スカイグレーですが…」
まもなく奥の方から声がした。
『ああ、入ってくれ。』
低く、貫禄の伴った初老の男性の声。
言われるがまま、扉を開く。
そこで、全てが真っ暗になった───