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二話:情報屋

 しばらく手紙があった空を見ていたが、お腹が空いていたのを思い出して今度こそ立ち上がった。遮るものはもう何もなく、手紙が残していったであろうペンダントを掴んで部屋を出た。

 

 ギィギィと不快な音を立てる木製の階段を降りて食堂となっている一階に行った。今日のオススメはオムライスらしい。しかし、ルリはオムライスを横目にモーニングメニューの中で一番安いチーズレタスサンドウィッチを頼んだ。

「おや、ルリちゃん、今日はサンドウィッチなのかい?」

「あまりお腹は空いていないし、久しぶりに食べたくなっちゃって。」

宿のおかみさんは「そうなの?」と少し不思議そうにしていたが、ルリがにっこり笑って「おばさんの料理いつも美味しいからここにきてから朝ごはんが楽しみなんです。」と言うと嬉しそうに厨房に入っていった。


 もちろんルリはお腹が空いていた。朝から奇妙なことがあったからよけいに。それでも三日連続で頼んでいた今日のオススメを頼まなかったのには、ちゃんとした理由があった。


「おまたせしました。どうぞごゆっくね。」

 チーズレタスサンドウィッチを受け取り、ルリは食堂の隅にある席についた。そして片手でサンドウィッチを持ちながら持ってきたペンダントを眺めた。


 下半分の長い八面体で、透き通った緑色の石。それを金の金具で細い茶色の皮の紐に繋げられているシンプルなものだ。怪しい点はどこにもなく、(強いて言うならルリの手元にどうやって現れたのかだが、あの手紙を見てしまえばそこに関しては何も言えない)シンプルなデザインでルリの好みの雰囲気だった。あの手紙があったことが本当のことなら、きっとこのペンダントはそのうち何かに役立つのだろう。一方的な使命とやらの押し付けのせめてものお詫びかもしれない。ひとまず身につけておけばよいだろう、と皮の紐が捻れないように気をつけながら首にかけた。

 

 パクパクっとサンドウィッチを食べ終え、その足でルリは食堂から続く階段を降り、地下一階にある簡易的な情報屋に行った。まさか自分が情報屋を利用する日が来ようとは思わなかったと思いながら少し薄暗く秘密めいた空気の漂うところに足を踏み入れた。

 受付でどのような要件で、どのような人材を求めているのかと尋ねられたので、「調べ物で、知識が多く行動範囲が多い方がいいです。」と答え、待合椅子に座る。受付の人がしばらく何か資料をパラパラと見た後、ルリを再び呼んだ。


「三番扉へお進みくださいませ。」


 ルリが受付に背を向け3と書かれた扉へ入ったことを確認すると、受付の男は受付の奥へ引っ込んだ。そして「ようやくかぁ。お知らせしなくては。」と呟きながらサッと荷物をまとめて従業員用出口から外へ急ぎ足で出て行った。


「ようこそいらっしゃいましたね。ここにお客が来るのは本当に久しぶりですよ。支店長なんてお客が来なさすぎて本部で仕事をさせられてるんですよ。支店長は本部勤務の時と変わらないと嘆いておりましてね。お客様がいらっしゃったことを知らされたらどんなに喜ぶことか!毎日まだ来ないのかと催促が来ますからきっと店の者が今に知らせに行くでしょうね。ーーおっと長々と話しすぎてしまいました。どうぞおかけください。」

そこにいた若くほっそりとした男は、よほど嬉しかったのかルリが視界に入るや否や早口に喋った。勧められた椅子にルリが腰掛けると、「それでどのようなご用件なのでしょう?」とこれまた早口で尋ねた。

「ええと、調べていただきたいことがあるのです。」

「もちろんそうでしょうとも!情報屋へ来るのはなにかを調べてもらいたいものだけですから。それで、どんなことなのです?」

久しぶりのお客が何を依頼するのだろうと少し前のめり気味に先を急がせる。

「後に導かれし者、太陽の乙女について。それから、この世界に五つの秘宝が眠っているという伝説があるか。あるとしたらどんなものか。」

「へぇ?太陽の乙女?聞いたことないですね。世界に秘宝があるっていう伝説はきっとたくさんあのでしょうが、んー、何か限定できるようなものはないのですかね?」

「水、命、時、日、月、に関係することだと思うのですが、それはたしかではないのでなんとも言えません。」

「そうですか。では十万五千リーでよろしいですかね。前金は五万リーで、成果が出なければ二万五千リーは返しましょう。」


 高い。高すぎる。十万五千リーも払ってしまったら二ヶ月くらい貧乏生活決定だ。ルリはそう思ったが、情報は何よりも高いと聞いたことがあるし、物知りであろう情報屋の人でさえ知らないことだったのだから高くつくのは仕方ないのかもしれないとも思った。この先楽に使命を達成するためだと思えば安いだろう、と自分に言い聞かせる。いつのまにか出来上がっていた契約書類に目を通し、震える手で同意の意を示す血印を押した。こんなにも高い買い物をするのは十七年間生きてきて初めてのことなのだから、震えもするだろう。


「なるべく早めにお願いしたいのですが、どのくらいの時間がかかるのですか?」

「そうですねぇ。二十日くらいかかってしまいますね。ちょっと遠出をして調べてこようと思っておりますから。」

「わかりました。二十日後にここへ来れば良いのですか?」

「いや、その必要はないですよ。情報屋は初めてですね?」

「え、ええ。」

「なら楽しみにしているといいですよ!間違ってもお金をとってばっくれることはないから安心してくださいね?お買い上げいただいた情報はしっかりとお届けしますから。そうでなくてはお客が逃げてしまいます!あ、逃げる客もいませんけどね。」


 情報屋の男はそれ以上詳しく教える気はないらしく、「本日はご依頼ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。」と話を終わらせてしまった。前金だという五万リーを払って部屋を出るしかなかった。血印の契約書を使ったから契約違反をされる心配はないのだが、なんだか納得ができない。彼の名前も知らないし、ルリが名乗ることもなかった。依頼内容以外のことを聞かれなかったのだ。

 だが、こういう場所では偽名を使う人が多いだろうから名乗るという行為はたしかに無駄なのだろう。それに、依頼する理由なんかは知ってもなんの利益にもならないし、それ以上プライベートな追求をするのは職権乱用にあたることもあるかもしれない。そもそも情報屋という仕事は法律違反ギリギリなのだ。


 朝ごはんを安いものにしたかいがなかった、何百リーの出費を惜しんだって大して意味がなかった。そう心の中でいいながら宿を出た。ルリは既にお腹が空き始めていることと、情報屋での消化不良なモヤモヤが抜けきらずなんとも言えない気持ちだったのだ。

 しかし情報屋の人というのはどの人もあんな風なのだろうか。随分個性的な人だったなぁと思いながらブラブラと街をあるいていたその時だった。


「さてさてさて、ショーを始めましょうか。」


声の主はとても楽しげで、しかし背筋がゾクリとする。そんな声と共に爆発音が聞こえた。後ろを振り向くと、そこに見えたのは激しい土埃と一部が吹き飛んだ家。所々に移る火。パニックに陥る人々。そして、その中心に立つ目を仮面で隠した男だった。男はニヤリと笑うと「皆さんお楽しみのようだねぇ。」と声を上げた。


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