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神殿に巡礼に行きたい。
両親にはそう話した。僕もソフィも表面上は今でも敬虔な信徒なので、ありがたいことに特に反発を受けることはなかった。
「そうか、お前たちももうそんな歳か‥‥」
などと父は呟くが、多分そこまで深い意味はない。父はそういう人だ。
「そうね、あなたたちがいつかそう言うと思って‥‥と、言いたいところだけど本当は思ってなかったから特に何かの備えをしているわけじゃないわ。せいぜいお腹を空かせながら貧乏旅行してきなさい」
そしてさらに適当かつ酷薄なことを言うのは、母である。ていうか巡礼のこと、旅行って言ったか。もしかしてこの人、僕よりよっぽど信仰薄いんじゃないか。
急な話だしあまり期待はしていなかったのは確かだが、実際援助が無いと思うと気が重い。巡礼自体は珍しいことではないが、道中の食事や寝床のことを考えると、いち農民がおいそれと出来ることでもないのだ。
「大丈夫。それくらいの苦難があった方が、神のお膝下に辿り着いた時の喜びは大きいと思うから」
けれど巡礼と言った以上、僕は建前の返事をしなければならない。苦行こそが喜び、楽して神様にお会いしようとするとかナメたこと言ってんじゃねえ、的な考え方が蔓延している以上、「しんどいので無理ポ」とは言えないのである。
「苦しいのが喜びとか、息子が変態でお母さん悲しいわ‥‥」
「せめてもうちょい建前とか見せる努力しません?」
「わたしはお兄ちゃんと2人きりになれるなら全部幸せ。巡礼とか二の次」
そして建前を粉砕するソフィは相変わらず超絶可愛かった。父と母も、「あー、あんたはそういう子だもんねー」みたいな顔をしている。
そんな感じで、僕らは特に障害やドラマを発生させることなく、ちょっと出掛けるノリで家を離れて巡礼の旅へと赴くことになるのだった。