観覧車のふたり
観覧車といえば遊園地にあるものだけれど、ときどき繁華街のビルの屋上にも設置されていたりする。
そういうのは飾りみたいなもので、あまり客が乗っているのを見たこともないし、景色だってあまり良くはないと思う。
でも、そういう変わったものを目にすると無視することができない人もいる。
何が言いたいかと言えば、桜井さんはこういうものが大好きなのだ。
「せ、ん、ぱ、い! あれ乗りましょう!」
「ぼくは高いところ苦手なんだけど……」
ぼくの言葉を気にもとめず、桜井さんはぼくを観覧車の乗り場まで引っ張っていた。
学校からの帰り道の途中、ターミナル駅の乗り換えで、ばったり桜井さんと出くわした。
そして「ちょっと遊んでいきましょう」と言われ、現在に至る。
「ぜんぜん待たずに乗れましたね!」
「平日のこの時間に、観覧車乗ろうなんて人は多くないよ」
「あ、だんだん高くなってきました。どうです、怖いですか?」
「思ったよりは平気だね」
小学生のときは高いところが本当に嫌いで、落ちて死ぬところを想像して泣いていたりしたけれど。
いまは流石にそんなことはない。
と思っていたら、桜井さんが静かになり、顔を青くしていた。
「……どうしたの?」
「実はですね、わたしも高いところが、ほんのちょっぴりだけ苦手なんです」
「ほんのちょっぴりって顔じゃないけど」
「いいえ! 本当にちょっぴりだけです」
「苦手なら、なんで観覧車に乗ろうなんて言ったのさ?」
「だって、なんとなく楽しそうじゃないですか。それに、先輩が怖さで震えているところ見たらもっと楽しそうだなって」
「どっちかといえば震えているのは桜井さんに見えるけど?」
桜井さんは何も言わず、目を固くつぶり、僕の手を握った。
そして、僕のとなりにすわり、肩を寄せた。
「ごめんなさい。ちょっとだけこうしてていいですか?」
「いいよ」
「先輩と二人きりって悪くないと思って観覧車に乗ったんですけど、無理しないほうが良かったですね」
顔を赤くしたぼくを見て、桜井さんが青い顔のまま、くすっと笑った。
「冗談ですよ、先輩」