隠された宝
「宝探し、という言葉を聞くとわくわくしません?」
「ちっともしないよ」
「またまた、先輩ってば、無関心なふりをして、ホントは興味があるんでしょ?」
。
ぼくがのんびり図書室で本を読んでいたら、桜井さんがやってきて、一枚のパンフレットをぼくに押し付けた。
赤い文字で「七町高校の隠された秘宝」とでかでかと書いてある。
「なにこれ?」
「生徒会が作ったんだそうですよ。なんでもこの学校に大判小判の金貨が隠されているので、それを探そうって話だそうです!」
「へえ! うちの学校にそんなお宝があるの!?」
「あるわけないですよ」
桜井さんはにやっと笑ってぱんとぼくの肩を叩いた。
「これはですね。そういう設定のゲームです。暇な生徒会がこの学校のどこかに賞品を隠した。わたしたちがそれを探すっていうゲームです」
「わたしたちって……」
「もちろん、先輩も探すんですよ、わたしと一緒に」
「えーと、見つけたら、なにかいいことがあるの?」
「近くのケーキ屋のタダ券十回分がもらえます」
「ラーメン屋とか牛丼とかじゃなく、ケーキのタダ券……?」
「生徒会長のお姉さんが働いているケーキ店なんだそうで、オレンジのタルトがおいしいんだそうですよー」
ただの宣伝なんじゃないかと思ったが、僕は黙っていた。
「まあ、ただの宣伝ですよね、先輩」
「あえて言わなくても……」
「でも、このくだらないゲームにわたしは乗ります。なぜならわたしは甘いものに目がないからです!」
「ぼくは帰ってもいい……?」
「タダ券もらったら、先輩も一緒にケーキを食べに行きましょう。ね?」
桜井さんが上目遣いに、ちょっと不安そうにぼくをのぞきこんだ。
ぼくは肩をすくめた。
「見つかれば、ね」
「あ、探してくれるんですね!」
「あー、うん。実を言えば、ぼくも甘いものは好きだから」
桜井さんと一緒に、お菓子を食べに行くというのも悪くないな、と思った。
校庭の隅を一陣の風が吹き抜ける。
「ちなみに場所のヒントとかはあるの?」
「あるんですが、まったく見当がついてないんですよねー」
「そりゃまた、時間のかかりそうな……」
「いいんです。時間がかかればその分だけ先輩が右往左往する姿を楽しめますからね!」
「桜井さん、もしかして全部ぼくに探させるつもりなんじゃ……」
「バレました?」
桜井さんがくすくすっと笑い、ぼくの腕をつかんだ。
「さあ、さっそく探しに行きましょう。まずは校庭隅の雑木林です!」
「なんでそんなとこから……」
「わたしの勘です!」
桜井さんがくるりと踵を返し、図書室の扉へと向かう。
彼女の制服のスカートの裾がふわりと翻った。