さくら
その年の十二月二十四日は金曜日で、ちょうど二学期最後の日だった。
あと三か月ちょっとでぼくは高校三年生になり、桜井さんは二年生になることになる。
同じ学校にいられるのも、あと一年ということだ。
「前も言いましたけど、同じ大学に行けばもっと一緒にいられますよ?」
隣の桜井さんがからかうように言う。
いま、ぼくらは二人で、ターミナル駅のビルの上に展望台にいた。
もう日は沈んでいて、目の前にはぼくらの住む地方都市の夜景が広がっている。
ここは完全にデートスポットで、周りにいるのはカップルばかりだった。
ぼくと桜井さんも、恋人同士に見えているかもしれない。
「先のことはわからないから」
ぼくがつぶやくと、桜井さんは少し不機嫌そうにぼくを見つめた。
「わたし……先輩と一緒にいたいんです。この意味、わかりませんか」
「それは……」
「今日だって、先輩からわたしのことを誘ってくれて期待しているんですよ?」
少しいたずらっぽく桜井さんは笑ったけれど、その瞳は不安そうに揺れていた。
ぼくはわざととぼけてみせる。
「高所恐怖症のぼくをからかえるっていう期待?」
「違います! だいたい高所恐怖症はわたしも同じで……」
桜井さんは窓の外の景色を見て、ぶるっと震えた。
長い綺麗な黒髪が揺れる。
「怖いなら、来たくないっていえばよかったのに」
ぼくが笑うと、桜井さんは頬を膨らませて、ぼくをにらんだ。
「先輩が誘ってくれたのに断るわけないです。それに、ここに来れば……わたしたち、カップルに見えるかもしれないなって思ったんです」
「カップルに見えてほしいの?」
「そういうわけじゃなくて……っ。今日の先輩は意地悪です!」
ぼくはいつもどおりで、むしろ桜井さんがいつもの調子が出せていない感じがする。
なんだか緊張してそわそわしているように見える。
髪先を指でいじり、桜井さんが目を伏せた。
ぼくは意を決した。
「ぼくは桜井さんと彼氏彼女に見えてほしいと思っている」
「それって……」
「桜井さんのことが好きってこと」
桜井さんは黒い瞳を大きく見開いた。
そして、みるみる顔を真っ赤にする。
「先輩のほうから言ってくれるなんて思いませんでした」
「そのためにここに誘ったんだし」
「そうだったんですね」
クリスマスイブに雰囲気の良い場所に誘ったのは、べつに偶然じゃない。
ぼくは緊張して桜井さんの返事を待った。
桜井さんはくすっと笑った。
「わたし、これで先輩のことをもっとからかえるようになりましたね」
「ええと、返事は……?」
「今日からわたしは先輩の彼女ですよ?」
桜井さんの言葉を聞いて、ぼくは顔を赤くした。
そう。
ぼくと桜井さんは彼氏彼女ということになる。
桜井さんがぴょんと飛び跳ねるようにぼくに近づいた。
そして、正面からぼくに抱きつく。
びっくりするぼくの唇に、桜井さんが人差し指を当てる。
「こういうことをされても、先輩は拒否できないわけですよ!」
「もともと拒否するつもりなんてないけれど」
「そうですよね! 先輩もうれしいでしょう?」
嬉しいのはそうだけれど、このままだとからかわれる一方だ。
ぼくは反撃に出た。
「さくらさんも嬉しいんだよね?」
さくらさん、という言葉を聞いて、桜井さんがぴたりと動きをとめた。
桜井さくら、というのが目の前の少女の名前だった。
桜井さんは、いや、さくらさんはぼくに抱きついたまま、上目遣いに僕を見つめた。
「その名前で呼ばれると恥ずかしいです。桜井っていう苗字に、さくらって名前、変じゃないですか?」
「可愛いと思うけど」
「そう、ですか」
さくらさんは目を伏せて、耳たぶまで顔を赤くした。
「先輩に呼ばれるなら、悪くないかもしれません」
さくらさんはそう言って、瑞々しい赤い唇を、そっとぼくに近づけた。
●作者からのお知らせ●
これにて「ぼく」と「桜井さん」の物語はいったん完結です!
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