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後輩とぼく ―あるいはどうして美少女にぼくは振り回されているのか―  作者: 軽井広@北欧美少女コミカライズ連載開始!
第一章

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豪華客船と桜井家

 ぼくはおどおどと周りの様子をうかがった。

 男性陣はビシッとしたしたブラックスーツに身を包み、女性たちは華やかなドレスで着飾っている。


「楽しんでますか、先輩?」


 桜井さんはぼくの隣にやってくると微笑んだ。

 ぼくが出ているのは立食形式のパーティーで、おまけに世界最大級の豪華客船「ハーモニー号」の船上で開かれている。

 ぼく自身もスーツ姿だけれど、パーティーに出たことなんてないし、なんだか居心地が悪い。


「こういう席に出るのは初めてだから面白いといえば面白いね。でも、緊張するな」

「ふうん。でも、美人の女性のドレス姿をじっくり眺めたりしていたんでしょう?」

「そんなことしないよ。たしかに美人の人は多いと思うけどね」


 そう言ったあと、ぼくは桜井さんに目を向けた。

 桜井さんは鮮やかな青色のドレスをまとっていた。袖なしのワンピースで、スカート部分の丈も短いし、けっこう露出度が高い気がする。


「カクテルドレスっていうんですよ、わたしの着ている服の種類。知ってました?」

「知らなかった。けど……」

「けど?」

「よく似合っていると思う」

「もしかして見とれちゃいました?」

 

 くすくすっと桜井さんが笑う。

 見とれていたというのは本当だけれど。


「パーティーに出るときって、いつもそういう服装なの?」

「そうですよ? だってドレスコードありますし」

「いや、なんというか、大胆な服装だなって」

「あっ、この服はですね。先輩が一緒だから、特別製です」


 特別製というのはたぶん本当で、桜井さんはお金持ちのお嬢様なのだ。

 桜井さんの父親は有名な企業の経営者一族で、付き合いで家族もこういう場に出ているのだという。

 ついでに、どういうわけかぼくがおまけで呼ばれている。


「似合ってるって言ってくれて嬉しいです」


 桜井さんはぼくに一歩近づいて、上目遣いにこちらを見た。

 ほんのりと赤い桜井さんの頬を見て、ぼくも自分の顔が熱くなるのを感じた。

 桜井さんは小さな手をそっとぼくの胸にあてた。


「先輩」

「なに?」

「わたしって、けっこうモテるって知ってました?」

「けっこう、というか、かなりだよね」


 桜井さんは学校では美少女として有名で、ちょっとしたアイドルだった。

 つまり、こういう社交の場でも同様に見られていると思ったほうがいい。

 ということは、だ。

 ぼくは顔が青ざめるのを感じた。


「わたしたち、恋人同士に見えるかもしれませんね」


 いたずらっぽく桜井さんは笑ったが、ぼくは笑い返す気にはなれなかった。


「そうだとしたら、ぼくは出席者の男性陣から目の敵にされるってわけだ」

「はい。わたしは口説かれたりとか、言い寄られたりとかせずにすみます」

「そんなことだろうと思ったけど」

「先輩がいると便利です!」

「ぼくは便利グッズってわけ?」

「いえいえ。頼りにしているんですよ」


 桜井さんはグラスを手に取ると、それを高く掲げた。


「乾杯としましょう、先輩」

「乾杯だったら、さっき会の始まりと同時にしたよ」

「わたしと先輩の、二人で行う乾杯です」


 桜井さんは「乾杯」と小声でつぶやくと、ぼくもそれに応えた。

 ぼくらはグラスの飲み物を飲み干した。もちろんノンアルコールだけれど、いちおうシャンパン風の発泡飲料だった。


「ここは嫌なところです。こんなパーティー、ホントは出たくないんです。出席者はみんな偉そうにしているし」

「なら、出なければいい」

「そういうわけにはいかないんですよ。父はわたしをパーティーの飾り物の一つとして利用するつもりですし」


 グラスをテーブルに置き、寂しそうに桜井さんは笑った。

 いろいろとしがらみがあるんだろうな、とぼくは思った。

 桜井さんは家族とあまり仲がよくないらしい。はじめて会ったときの桜井さんの孤独そうな、冷え冷えとした表情を思い出す。

 桜井さんは歌うように言った。


「先輩、わたしを守ってくださいね」

「何から守るの?」

「わたしが怖れるすべてのものから」

「そんなことができるのかな」

「そこは『絶対に守ってみせる!』って力強く言ってくれるところでしょう?」

「そんな無責任なことは言えないよ」

「そう、ですか。そうですよね」


 桜井さんはうつむいて黙ってしまった。

 ぼくには桜井さんが何を怖れているのかわからないし、桜井さんを守る力なんてないかもしれない。

 だから、ぼくは桜井さんを守ってみせるなんて言えないけれど。


「でも、もし桜井さんを泣かせるようなやつがいたらぼくは許さないし、ぼくは力を尽くして桜井さんを助けるよ。そんなことしか、ぼくには言えないけれど」

「本当ですか」

「本当だよ」

「約束ですよ?」

「うん」


 ぼくがそう言うと、桜井さんは本当に嬉しそうに笑った。

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