監視役は従妹?
昼休みの時間。
教室にいたぼくは、クラスメイトの白川灯里に話しかけれられた。
「あんたにお客さん」
「ぼくに? だれ?」
「下級生の女の子。モテる男はつらいね」
灯里は長身のすらりとした身体を震わせて笑い、ぼくの肩をぽんと叩いた。
ぼくは灯里に礼を言い、教室の扉に向かった。
きっと桜井さんかな、と思ったぼくは、期待を裏切られた。
「兄さん?」
そこにいたのは従妹の夕だった。
夕がぼくの教室に来たのなんて、はじめてだ。
「どうしたの、夕?」
「ちょっと話がしたくて」
「珍しいね」
「来ないほうがよかった?」
ちょっと不安そうに夕が言う。
ぼくは両手を広げて微笑んだ。
「まさか! 大歓迎だよ」
「大歓迎されるってのもなんか変だけど」
と、夕が言う。
いつのまにか、灯里が背後に来ていた。
「へえ、あんたの妹?」
「従妹だよ。夕って言うんだ。そうそう、こっちはクラスメイトの白川灯里」
といって、夕に灯里を紹介すると、灯里は珍しいものを見たという感じで夕を質問攻めにしていた。
そして、
「ねえ、夕ちゃんから見て、こいつってどんな人?」
「えっと、だらしない人ですね」
「あらら、ひどい言われよう」
灯里が面白そうに言うと、夕が慌てて付け加えた。
「でも、頼りになる優しい人です。……っといまのは聞かなかったことにしてください!」
夕は顔を赤くして言った。
最近、夕が冷たかったので、こんなに率直に褒められると、なんとなく慣れない。
ぼくは早口で言った。
「それで、話って?」
「桜井さんのことです」
「桜井さん?」
「あの子、毎日のようにこの教室に来ているんでしょう?」
「そうだけど」
「兄さん、あの子とは付き合ってないんですよね?」
「まあ、うん」
「だったら、あの子がここに来るのをやめさせるべきです」
夕はきっぱりとそう言った。
ぼくは穏やかに聞き返した。
「どうして?」
「だって、兄さん、迷惑じゃないんですか? 好きでもないのに、毎日あの子につきまとわれて」
「迷惑だって思ったことは一度もないよ」
「そうだとしても、おかしいですよ。桜井さん、今日も来るんでしょう」
なんだか夕はすごく強い口調だった。横を見ると、灯里が面白そうにぼくらを眺めている。
ぼくが口を開く前に、後ろから軽やかな明るい声がした。
「せ、ん、ぱ、い! なにしてるんですか?」
「夕と話してる」
ぼくがそう言うと、桜井さんが「あれ」という顔をした。
「これは珍しいですね」
「あたし、あなたに文句を言いに来たの」
と夕が冷たい声で言う。
「わたしに文句、ですか?」
「学校の教室でまで、兄さんにつきまとうのはやめてくれる? 兄さん、迷惑してる」
桜井さんはくすりと笑った
「わたしに嫉妬しているんですか?」
「嫉妬? なんであたしが、あんたに嫉妬しなきゃいけないの」
「あなたの大好きなお兄さんをとらないでほしいってことでしょう?」
「そ、そんなこと言ってない」
「こんな文句を言いに来ても、逆効果ですよ。だって、先輩がわたしに迷惑してるなんてありえないんですから」
桜井さんは一瞬の迷いもなく言い切った。ぼくも思わずうなずく。
夕はたじろぎ、なんだか泣きそうな感じになった。
ぼくがフォローの言葉を言う前に、桜井さんは優しく言い聞かせるように夕に言った。
「羨ましいんだったら、夕さんもわたしと同じようにすればいいんです」
「同じように、ってどういうこと?」
「昼休みにこの教室に来ればいいじゃないですか」
さらっと桜井さんは言う。
どうしてそんなことを言うのか、とぼくが驚いているうちに、灯里が割り込んできた。
「それ、いいね。桜井ちゃんとこいつの従妹、一緒にいると面白そう」
ただ面白がっているだけなのが明らかな無責任な発言だったが、桜井さんはうなずいた。
「灯里先輩もそう言ってますし」
以前会ったときは相性が悪そうな二人だったが、いまは意見が一致している。
桜井さんはくすくすっと笑った。
「ね、夕さん。このまま、わたしと先輩が仲良くしているのをほうっておいていいんですか?」
夕はむっとした顔になった。つまり、あっさりと桜井さんに誘導されたのだ。
「そ、そうですね。あたしが、兄さんと桜井さんを見張ればいいんですものね」
「どうしてそうなる?」
というぼくの言葉は無視された。
「明日からお昼ご飯持ってここに来ますから!」
というと、夕は一瞬でいなくなった。
桜井さんは終始、笑顔だった。
ぼくはため息をついた。
「桜井さん。なんであんなことを言ったの?」
「だって、わたし、夕さんのこと好きですもの」「
「どうして?」
と聞くと、桜井さんは唇に人差し指を当てた。
「だって、先輩の従妹ですし」




