時計塔の暇つぶし
ぼくと桜井さんは学校の中央にある時計塔の一番上の階にいた。
時刻は七時半。秋も半ばをすぎて、そろそろ肌寒くなってきたころで、もうあたりは真っ暗だ。
ちょっと古風な造りの時計塔のベランダから、校舎を見下ろすと、もうほとんどの教室の明かりが消えている。
高いところは苦手だが、これぐらいなら平気だ。
気がつくと、隣に桜井さんが立っていた。
「こんな遅くに呼び出してどうしたんですか?」
「桜井さんが遅くまで残っているって聞いたから、暇つぶしに呼んだんだよ」
「暇つぶし、ですか」
桜井さんは表情を曇らせた。
「暇つぶしでも呼んでくれるのは嬉しいですけど。どうせ家に帰っても誰もいませんし。でも、もっと別の言い方、ありません?」
「暇つぶしは暇つぶしだよ」
「照れ隠しなんてしないでくださいよ。わたしが大好きだから一緒にいたい、とか言ってくれてもいいんですよ?」
「言ってほしい?」
桜井さんは首をかしげた。
「うーん、先輩がそう言うこと平気な顔して言う人だったら、わたしは一緒にいないですね」
「だろうね」
桜井さんは中学生のころ、とてもモテたそうだ。見た目は抜群の美少女で、立ち居振る舞いも大人びていて上品だから、男子から人気でないほうがおかしいとは思う。
「今も毎日のように告白されますよ?」
「そりゃ結構」
「こないだはバスケ部のキャプテンの藤なんとか先輩にも告白されました」
「ああ、藤本か。それはすごい。頭脳明晰、スポーツ万能の人気者だよね」
「ま、断ってますけどね。あの人、美人の彼女が欲しいだけでしょうし」
「たしかに、桜井さんが彼女だったら自慢できるだろうね」
ぼくが何気なく口にすると、桜井さんはにやりと笑った。
「先輩、いま、わたしのこと褒めましたよね」
「客観的な事実を述べたにすぎない」
「照れなくてもいいんですよ! だから、暇つぶしなんて言わないでくださいよ」
「実はさ、桜井さんを呼んだのは暇つぶしなんかじゃないんだよ」
「え?」
桜井さんが固まった。
ぼくは腕時計で時間を確認し、それから空をめがけて指を指した。
大きな火の塊のようなものが上がり、ぱっと広がって明かりをともした。
そして、同じものが次々と空に上った。
「花火、ですね」
「毎年、この時期に隣の市の公園で花火大会をしているんだよ」
「綺麗……」
しばらく桜井さんはぼんやりと空を見上げた後、つぶやいた。
「もしかして、これを見せるために呼んだんですか?」
「どうせ遅くまで学校にいるなら、と思って」
「先輩」
「なに?」
「ありがとうございます。」
そう言うと、桜井さんは少し照れたように微笑んだ。




