居心地の悪い電車
何かがおかしい。
乗り慣れた電車。行き先はいつもどおりの高校。
何も変わったところはないはずだ。
なのに、この違和感は何なのか。
午前七時四十五分の地下鉄は、それなりに混んでいたけれど、満員というほどではない。この街の地下鉄は、毎年大赤字だった。
「どうです、外の風景は?」
軽やかな声がした。振り返ると、そこにはセーラー服を着た女の子が立っていた。知り合いだ。うちの学校の後輩。名前は桜井。
桜井さんは長い髪を指先で少しいじり、それからいたずらっぽく笑った。
ぼくは肩をすくめた。
「地下鉄の窓の外には、何の風景もないと思うよ」
「そうだとしたら、先輩は何を見るべきだと思います?」
「真っ暗な線路を見つめるぐらいなら、そのへんにぶら下がっている広告でも眺めているよ」
「最高のカラダ! ヌード初披露!」
「は?」
「先輩もああいうのに興味あるんでしょう?」
桜井さんはびしっと週刊誌の中吊り広告を指差した。グラビアアイドルと思しき女性が、胸の大きさを強調するような姿勢をとっている。
「うん。まあ、興味がない、とは言えないかもね」
「うわー、ああいう雑誌買って、じっとり舐め回すように見ているんですね! いや、舐めているんですね!」
ぼくは否定しようと口を開きかけ、そして気づいた。さっきよりも妙な感じが強くなっている。
なんだろう。誰かに見られているような。
「でも、ですね。ここではあまり、先輩が変態であることは暴露しないほうがいいです」
「どこにいても暴露しない方がいいだろうね」
「変態であることを認めると?」
「認めないよ」
「いやいや、でもですね、先輩は少しおかしな行動をとっています。周りにもそう思われていますよ」
桜井さんの方がよほど不審者らしいと思ったが、たしかに周囲はぼくを見ていた。
きりっとしたスーツ姿の若い女性は冷ややかな目で。どことなく大学生っぽい女性はくすくす笑いながら。他校の女子生徒は困ったような顔をしている。
全員が女性だった。
ようやくぼくは気づいた。
「先輩、ここは女性専用車両です!」
桜井さんはそう言って、くすりと笑った。