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形のない約束  作者: 紅月 遥香
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始まりの約束

この物語は地球から始まる。

「あなたとは何ですか?」

僕は答えられなかった。自分に何もないと思っていたから。


 昔は勉強が人よりもできた。そのおかげだろうか、人がよってきて友達がすぐにできた。それが“僕”だった。しかし授業の難しさが僕に追いついてくる。気づけば勉強のできは周りと同じくらい、または追い越されていた。僕は勉強というみんなより優れていた『力』を失った。高校2年生ぐらいになって。だから勉強以外の物事に目を向けてみた。何もなかった。冷静に自分を見返しても何もなかったのである。今まで僕は何のために生きてきたのだろうか?幼いときの自分に問い返したい。

クラスの子と話してみても話が続かない。それは僕がつまらないから。相手が質問してくれても一言で終わらせてしまう。いつしか独りになっていた。最初はつらかった。でもだんだん慣れていってなんともなくなった。でも、でも、求めたいときもあった。

『力』が欲しかった。誰にも劣らない『力』が。小さなものでもいい。自分を証明できるのなら。そうすれば人が寄ってくると思っていた、友達ができると思っていた、、、、、。でも、今は、、、、。


 

 話は高3の4月から始まる。

桜の咲く季節。新しい学年、新しいクラス。皆希望を抱いている。そして大学受験を視野に入れている。僕は何も変わらない。クラスに知り合いはいない。今まで通り、別によくできるわけでもないが勉強だけしていればいい。それだけである。何も感じなかった。少しも心は高まらなかった。どうせクラスの人と戯れたって独りになるのだから。

時々会う部活の仲間とは話せた。共通の話題があるから。でも、「新井斗真」として話せない。本当の自分のまま話せなかった。今の何もない自分を見られるのが嫌だったから。高1の自分、あの生き生きとした時代の「新井斗真」を演じた。それは次第に自分の心へ大きく響いていくのだった。学校が嫌いになっていった。

4月末、僕はもう疲れ切っていた。勉強するのも精一杯になってきた。スマホゲームに逃げるようになっていた。それをしていると自分が強いと感じたから。敵が次々に倒されていって。

教室に入るのが嫌になった。周りで楽しそうに話している声、笑い声、それらは僕をからかっているかのように聞こえた。僕は耳を塞いで独りを保った。部活の仲間にも会わないようにした。遠回りしたり、早く帰ったりしてできるだけ逃げた。偽物を演じるのがもう嫌だったから。これ以上やったら、壊れてしまう。

すぐに、今すぐにでも『力』が欲しい。こんな高校生活から脱却したい。みんなが描くような普通の生活を送りたい。どこで僕は道を踏み外してしまったのだろう。今まで勝ち組だったのに。幼いときがうらやましかった。『力』があったあのときが。

 

 悲嘆に暮れた僕はいつもより俯きがちに地下鉄の駅の連絡通路に向かった。別の電車に乗り換えるために。塾の帰りのため夜遅く、人の気配は少なかった。僕は何も考えずただただ、蛍光灯で明るいが静かでだだっ広い連絡通路を地面を見て歩いていた。今の生活から逃げたいという気持ちが歩く早さに表れていた。そのときだった、僕は“ドン”と何かにぶつかった。おそらく人だろう。僕は体勢を崩してしまい後方へと倒れた。幸いリュックを背負っていたためリュックから地面に付き頭は打たずなんともなかった。

「すみません」 僕はそう言ってから立ち上がり顔を上げた。相手は私立っぽい学生服を着た女子高校生だった。彼女も同様に後方へ倒れていた。

「こちらこそ、すみません」

そう言って彼女は立ち上がった。が、1歩歩くと彼女は横に転んだ。

「大丈夫ですか?」

とっさに言葉が出た。当たりどころが悪くて骨折したのかもと心配した。僕の頭の中は慰謝料系のことでいっぱいだった。

「すみません、大丈夫です、少し焦っていて、、、、」

そう言って彼女は立ち上がる。身体に異常はなさそうであった。

「あの~~、これ持っててもらってもいいですか?」

彼女のリュックを急に渡される。

「いいですけど、、」

急いでいることもなく、また申し訳ない気持ちでいっぱいだったのですんなりと了承した。リュックを受け取る。それは、、思わず声を上げそうになるほど重かった。きっとそういう時間割の曜日だったのだろう。そして彼女はすぐに駆けていった。連絡通路にあるトイレへ。それはもう、漏れそうな感じで、、。その子供っぽさを見て僕は久しぶりに笑顔を浮かべていた。

彼女は戻ってきた。なんとなく足が目に入り、膝を少しすりむいているようだった。2回目に転んだときだろうか?

「ありがとうございます」

そう彼女は言ってリュックを受け取ろうとするが、

「家まで持っていきます、迷惑かけたので」

そう僕は自然と言っていた。そういうことをする人じゃないけれどもそう言った。自分が久しく人の役に立てると思ったからかもしれない。意外にも彼女は全く断ろうともせず「お願いします」と笑顔で言った。とても自然な笑顔だった。

変える方向は同じだった。彼女が降りる駅は僕の2つ前だった。電車では話をした。とは言っても彼女の話を聞いていただけなのだが。彼女は高3で、制服に若干見覚えがあると思っていたら、僕の高校の目の前の女子校に通っていた。そこはとても偏差値の高いことで知られている。彼女は親と離れて独り暮らしをしているらしい。その高校に通うために。他にもいろいろと話をしてきた。僕は最低限度の受け答えしかしなかった。関係性を持ちたくなかったから。後から“つまらない”と思われるのが嫌だったから。だから着飾ろうとしないで最初から自分でいた。何もない自分でいた。つまらないやつだと思われて終わる。それが僕の理想だった。ただただ手助けしたいだけだった。関係性を持ったってどうせ独りにされる。それはもう、、、、うんざりだった。

話を聞いているうちに駅に着き、そして彼女の家の前についた。

「ありがとうございます!」 そう言って俺からリュックを受け取った。

「それじゃあ」 と言って帰ろうとすると「待ってください」と手を捕まれた。力強く。彼女はためらわず、一言放った。

「友達になってください!」

僕は驚いた。こんな話せない人にそんな言葉をかけるなんて、頭がおかしいと思った。

「なぜ、、ですか?」

「優しかったからです」

そう自然とした笑顔で言った。そして続ける。

「男の子の友達が欲しいなあ~って思ってたんです。女子校だから。」

そんな単純な理由だった。友達になってくださいと言われたのはうれしかった。でもどうせすぐに独りにされるのは目に見えている。後からつまらないと思われるのは嫌である。

「僕は中身のない人間です。だから友達にならない方が、、、」

「わかってます。それでもいいんです!」

お見通しだった。彼女は笑顔を見せた。ーーーーーー。僕はうれしかったのだろうか、断れなかった。そして口先だけの友達となった。ラインを交換した。

「さようなら」

「さようなら、、」

どうせまた独りになる。そう思いながら夜の道を歩いて行く。彼の足取りはいつもより軽く見えた。でも俯きなのは変わらない。

 

 最初はただの形のない約束だった。

たまたま出会った女の子との生活が始まる!?

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