脚本「独女白書」
○カラオケボックス・外観(夜)
○同・店内(夜)
忘年会の二次会。15人ほどのサラリーマンたちが飲んでいる。
『これが私の生きる道』を熱唱する岩本かす美(35)。一緒になってマイクを握る瀬戸美砂保(38)。曲に合わせて踊る鬼島しのぶ(31)。
全員完全に出来上がっている。男たち数人はパンツ一丁になっている。
かす美「もりあがってるか~い?」
一同「イエ~イ!」
寝ている係長の広い額に“肉”と書く美砂保。爆笑する同僚たち。かす美、美砂保、しのぶが一緒に踊る。
○六本木・ミッドタウン(夜)
アイドルKの巨大ポスターの前。ポスターにへばりつく美砂保。それを見て笑うかす美としのぶ。
美砂保「K~、わたしのK~、あいしてるぅ」
しのぶはケータイで写真を撮る。かす美は爆笑する。
○××マンション・全景(朝)
○同・かす美の部屋(朝)
テレビの前で朝のニュースをやっている。かす美は弁当を作りながらテレビをチラチラ見ている。テレビ画面に“いて座の今日のラッキーカラー・ピンク”と出る。
卵焼きに紅ショウガを入れるかす美。
○××会社・全景
○同・リフレッシュコーナー
美砂保としのぶが手作りの弁当を食べている。そこへかす美がやってきて
かす美「ういっすー」
美砂保「おつかれちゃん」
しのぶ「おちかれー」
かす美、ピンク色の大きなハンカチに包まれた弁当を出す。
かす美「っつーか、昨日のことナンも覚えてない」
美砂保「あたしも」
しのぶ「ホレ」
しのぶがケータイで撮った恥ずかしい写真をいくつも見せる。
キャハハと笑い転げるかす美と美砂保。
かす美「ちょっとコレ、ちょーヤバくない?」
美砂保「嫁にいけない」
しのぶ「ガハハ」
三人顔を見合わせて
かす美・美砂保・しのぶ「ま、いっか」
○同・オフィス・営業二部(夕)
サラリーマンたちが仕事している。
かす美がデスクでケータイで話している。
かす美「はい、大丈夫です。明日までに見積をお作りしてメールさせていただきます。
いえ、こちらこそいつもありがとうございます。失礼いたします」
ケータイを切って、またかけるかす美。
かす美「あ、遠山さん?いつもお世話になっております~。今、大丈夫?……」
かす美のデスクには養命酒が置いてある。かす美のデスクの向いに美砂保が座っている。
美砂保はパソコンに向かいデータを作成している。
隣の島にはしのぶがいる。英語で書かれた書類を読んでいる。
午後六時のベルが鳴る。ベルサッサの三人。
○銀座・歩行者天国
和服姿で歩くかす美と美砂保。
通りすがりの人たちが振り返る。
歌舞伎座の前までくる二人。立ち止まってニヤリとする。
“歌舞伎そば”の前に行列ができている。そこに並ぶかす美と美砂保。
○歌舞伎そば・店内
かき揚げそばを食べるかす美と美砂保。
かす美「やっぱりココのお蕎麦が一番だね!」
美砂保「うん、たまんない」
かす美「しのぶちゃん、今頃海に潜ってるかね?」
美砂保「今日は沖縄って言ってた」
○海の中
タイトル・沖縄
ダイビング中のしのぶ。インストラクターをしている。数人の生徒を連れている。サンゴに小魚が集まる。
写真を撮るしのぶ。イキイキしている。
上に上がるサインを出すしのぶ。生徒たち、OKサインを出す。海上へ上がるしのぶたち。
○歌舞伎座・全景
○同・中
中村勘三郎、勘九郎、七之助が演じている。瞳を輝かせて見ているかす美。
温かい眼差しで見ている美砂保。
歌舞伎が一番盛り上がる。
掛け声をかけるかす美。
拍手をするかす美と美砂保。
○銀座・歩行者天国
かす美と美砂保が歌舞伎のマネをしながら歩いてくる。
そこへ、反対側から松本純一(38)が歩いてくる。かす美と純一、目が合う。
かす美・純一「あ」
美砂保、かす美と純一を見比べる。
○銀座の公園(夕)
公園の中を並んで歩くかす美と純一。
かす美がベンチに座ろうとすると、純一がサッと白いハンカチをひく。
ちょっと驚くかす美。
ゆっくりとハンカチの上に座るかす美。
隣に腰掛ける純一。
純一「元気そうだね」
かす美「おかげさまでー」
純一「結婚したんだ」
かす美「知ってます」
純一「かす美は?」
かす美「恋愛お休み中」
純一「モテそうなのに」
かす美「モテないんです。仕事デキルから」
ちょっとひく純一。
かす美「子供は?」
純一「まだ」
かす美「奥さんカワイイ?」
純一「コワイ」
笑うかす美。
純一「なんで別れちゃったんだろ、俺たち」
かす美「やめよ、その話。不毛だ」
純一「かわんないね」
かす美「あんたもね」
○リフレッシュルーム
美砂保としのぶが弁当を食べている。
そこへかす美がやってきて
かす美「んちゃ」
美砂保・しのぶ「んちゃ」
かす美、男物の白いハンカチを膝に乗せる。ハンカチを見る美砂保。
かす美「やっちゃった」
美砂保「やっぱり」
しのぶ「なに?なに?」
美砂保「昨日じゅんじゅんに会っちゃったんだよねー」
しのぶ「えーマジでー」
美砂保「二人きりにした私が悪かった」
かす美「フリンだよ、フリン」
しのぶ「自分で言うな」
美砂保「まだ好きなの?」
かす美「好きなワケないじゃん」
美砂保としのぶ、顔を見合わせる。
弁当とパクパク食べる三人。
しのぶ「でもいいなーHできて。最近してないもん」
美砂保「えーどれくらい?」
しのぶ「んー二週間?」
爆笑するかす美と美砂保。
弁当の横のお茶が湯気を立てている。
○かす美の部屋(朝)
テレビのニュース“いて座のラッキーカラーは黒”と映し出される。
○大手町オフィス街
黒のスーツで颯爽と歩くかす美。
ケータイが鳴る。出るかす美。
かす美「はい、岩本です。お疲れ様です。えっ本当ですか?すぐ戻ります」
地下鉄の入り口に走り込むかす美。
○オフィス・営業二部
テレビの前に集まる同僚たち。ワイドショーでアイドルK逮捕の話題。
走ってテレビの前にくるかす美。
かす美「まずい、まずい、まずい……何やってんだよK!」
部長(50)がかす美に気づいて
部長「おいっ岩本!大至急キャスティング呼んで打ち合わせだ!」
かす美「はいっ」
部長「あとはお前さんに任せた」
かす美「わかりました」
同僚がかす美に注目している。
かす美のデスクの電話が鳴る。派遣(25)が電話をとる。
派遣「岩本さん、クライアントからです」
振り返るかす美。冷や汗が出るかす美。
美砂保としのぶが見守る。
かす美「かけ直すって言って」
うなずく派遣。
かす美のバッグには白いハンカチが結びつけてある。
テレビのワイドショーでアイドルKが警察署に連行される映像が出る。
画面を見ながらケータイをかけるかす美。
<終わり>