暗黒の魔物の棲みかに、儚い恋
村の商店街。理子が買い物をしている。
八百屋に来ると、「いらっしゃい!」と、威勢の良い声。
「こんにちは」
八百屋のおっちゃんに挨拶する理子。
「いらっしゃい」
と、今度は優しい声。
ちょこんと、おばちゃんに頭を下げる。
(この店にも何回か来て、私も立派な常連さんになりました)
店内を物色し、カゴに野菜を入れて行く。
おばちゃん、理子がかぼちゃを入れるのに気付く。
「この間もかぼちゃ買ったね。かぼちゃ好きなの?」
「あ・・・はい」
赤面する理子。
「恥ずかしい・・・」
と呟く。
「そんなことない。かぼちゃは栄養の宝庫だからね」
理子、カゴに入れた野菜をおばちゃんの所に持って行く。
おばちゃん、野菜の入ったカゴを受け取り、
「その歳で家族の料理作ってるなんて、立派だね」
「いえ、そんな・・・」
笑顔のおばちゃん。
「あの・・・囲炉裏で作る料理って、やっぱり鍋ものというか、煮込み料理が中心なんですか?」
「う〜ん。焼き料理とかもできるけど、やっぱりごった煮みたいのが多いかなぁ」
「そうですか・・・分かりました。ありがとうございます」
笑顔でお辞儀する。
「理子ちゃんだっけ?」
「あ、はい」
「ちょっと待ってて」
優しさ溢れる笑顔が向けられる。
━━おばちゃんは囲炉裏で作るいろんな料理のレシピを、何枚かの紙に書いて渡してくれました━━
(これは本当に助かりました)
総純の家の調理場。
野菜を切っている理子。料理を作りながら話す。
「不思議だね」
総純は囲炉裏の前で座っている。
「自分でもどうしてかわからないんだ・・・。もちろんお父さんもお母さんも大好きだし、こうして独り暮らししてるのも寂しい」
「だよね・・・」
「中学通い始めた時、実は隣に座ってた生徒の顔を見たとたんに殴っちゃたんだ」
「えっ?」
「なぜだか怒りみたいのが沸き上がって来て、両親の時と同じだ、って思って、僕は慌ててそのまま家に帰ったんだ」
「・・・・・・」
(やっぱり何かの病気・・・?)
暗闇の魔力を辛うじて掻い潜って来た光が、家の中をわずかにオレンジ色に染める。
「あ、暗くなる前に薪をくべないと」
外に出る総純。
総純が戻って来ると、理子は出来上がった料理を用意して待っている。
かぼちゃなど、いろんな野菜のごった煮。
「うわっ。美味そう」
「ありがと」
笑顔の理子。
「こっちこそ! いつもありがとう」
「食べて食べて」
がつがつと食べ始める総純。
「美味い美味い」
「お風呂・・・好きなの?」
(いつも私が家に帰ると、総純君はすぐお風呂に入っているらしいので)
「うん。やっぱり普段精神的に安定しないというか・・・お風呂に入ると落ち着くんだ」
「お風呂良いよね。この村には温泉沸いてないのかな」
「湧き水はあるけど、温泉はないみたいだね」
「掘れば何とかありそうだけど」
「勝手に掘ると、村長に怒られちゃうよ」
「・・・そうなんだ・・・」
━━この村の掟というか条例(?)は、ほとんど村長が決めてるみたいで、一応形だけの村の議会のようなものはありますが、ほとんど機能してないみたいです━━
暗黒の魔力が増している━━。
(総純君との話が楽しくて、気付くとすっかり暗くなってました)
外に出る理子。
「どうしよう」
「送って行きたいけど、僕は外には絶対出てはいけないと言われてるんだ・・・」
「ご両親に?」
「うん」
「でも絶対って・・・」
「何回か外に出た時、いつも野菜を運んでくれる運送屋の兄ちゃんから、両親が凄く怒ってたって聞いて・・・」
「・・・・・・」
「はい。ランタン持って行っていいよ」
「ありがとう。私に何も無いようお祈りしてて」
暗闇の中の道標を受け取る理子。
「大丈夫だよ。り・・福田さんに何かあったら、料理食べれなくなっちゃう」
「何それ?」
苦笑して
「じゃまたね」
と、去って行く理子。
(理子って言いかけた?「理子ちゃん」って言おうとしたのか、まさか「理子」って呼びつけ?・・・この時の私は多分ニヤニヤして、気持ち悪い女の子に見えていたでしょう)
フェンス伝いに歩いている理子。
理子の後ろを暗黒の使い魔が付けているかのような、不器用な雰囲気。
(気付くと後ろからガサガサと、草が揺れるような音が聞こえた気がします)
怯えるように駆ける理子。
(ガサガサという音が後を付けているようで、私が走る度にどんどんその音が大きくなるようで、怖くて仕方ありませんでした)
必死に走る理子。
木々の隙間から、血のように不気味な赤が覗いている。
血のオーラを纏った満月が━━。