ファーストキス・・・?
━━戌井総純という名前だと、先生から聞きました。
戌井君の家は私の家と同じく、村外れにあり、私の家とは多少離れて離れていますが、フェンスが近くにあって、フェンス伝いに行けば割りとすぐ自宅にも帰れるので、ちょうど良かったです━━
総純の家の前に立つ理子。理子の家と同じく古い木造一軒家。呼び鈴などはないので、引き戸をノックする。
「ごめんくださ〜い。学校の同級生の者です。プリントを届けに来ました!」
シ〜ンとしている。雨戸も閉められ、誰か住んでいるようにも思えない。
「ごめんくださ〜い!」
ノックする理子。
何の音沙汰もない。
雨戸が微かに動くが、理子は気付かない。
わずかに空いた隙間から、誰かが外を見ているようである。理子は下を向いて気付かない。
(私は誰もいないかも?と思い。落ち込む気持ちもありましたが、正直どこかホッとする気持ちもありました)
━━先生は、戌井総純君がどういう性格をしていて、どういう生徒なのか?といったことは何も教えてくれませんでした。というよりも、戌井君が中学に来ていた期間も短く、どういう生徒かほとんど記憶がないとのことでした。中学校担任の先生なので。
小学校の時は来ていたらしいのですが、小学校担任の先生は辞めてしまい、どういう生徒なのか、全く引き継がれてないとのことでした。
戌井君が学校に来なくなってから、家庭訪問など先生自身も何度か訪れたみたいですが、いつ行っても留守だったそうです。もっとも居留守だったのかも知れませんが━━
「ごめんくださ〜い」
何の音沙汰もない。
雨戸が空いた隙間から、やはり誰かが外を覗いているが、理子は気付かない。
踵を返す理子。
(私はこの時、背後から何か視線を感じたというか、何か不気味なオーラを感じた気がしました。
同時に、私は何か引き留められている気もしました)
総純の家の方へ振り替える理子。
引き戸の前で深呼吸する。
理子が引き戸をノックしようとした瞬間、ガラッと引き戸が開く。
「あっ」
思わずつんのめる理子。
その先には人間がいる。
その人間に覆い被さるように理子も倒れてしまう。
「うわっ」
その声は、可愛いらしいオーラを纏っている、男の子の声。まだ声変わりをしていないかのようである。
(その際、私の唇とその子の唇が重なった気もしましまが、よく分かりません。それよりもただ倒れてしまった恥ずかしさでいっぱいで、すぐに立ち上がりました)
━━総純君はそこに一人で住んでいるとのことでした。なんでも中学に上がった頃から、なぜか両親に暴力を振るうようになり、激しさが増したため、隔離する形でこの家に一人で住むようになったとのことです━━
「ごめんなさい」
慌てて立ち上がる理子。
「いててっ」
声を発した主は、可愛いらしい顔をした男の子。
(えっ? まさかこの子が・・・?と思いました。そんな家庭内暴力をしているような子にはとても思えませんでした)
男の子は立ち上がる。
「あの・・・戌井総純君ですか?」
「あっ・・・はい・・・」
(私もそんな背の高い方でもありませんが、私よりさらに背が低く、弱々しい子でした。なんでこんな子が家庭内暴力? ・・・謎でした・・・
それよりも、私のファーストキス・・・だったんでしょうか)