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閉じられた学校(せかい)

まさしくマッドサイエンティストの様相を呈している父は唐突に言う。

「それから理子、いよいよ今日から学校だぞ」

「えっ? 学校・・・?」

「村長にあって話は通してある。今日は私と学校に行って、手続きすることになってる」

「今日って、随分急だね・・・」

「学校に行かないわけにはいかんだろ。その犬はヒモで家の中で繋いでおきなさい。幸い周りは誰も住んでない。まず気付かれることはないだろう」

「そっか。学校か・・・」

子犬の頭を撫でて語りかける。

「ごめんね。私が帰ってくるまでおとなしく待ってて」

(学校と聞いて、それまで鬱屈してたこともあって、私は幾分かウキウキしながら父と出かけました)


理子は柱に結んだヒモを、子犬の足にくくりつける。

「ごめんね。首輪がないから・・・」


行ってらっしゃい、とでも言ってるかのような、キャンキャンという鳴き声に見送られ、二人は家を出ていく。



━━この村には、学校は一つしかありませんでした。もちろん子供人口が少ないためで、大まかに、小学校低学年、小学校高学年、中学校と3つのクラスに分かれています。それぞれだいたい5人くらい、全校生徒は約15人くらいです。高校はありません━━


父と理子が歩く先に、古い木造校舎が見えてくる。いかにもど田舎の・・・といった雰囲気だが、理子の表情には幾分か明るさが見える。

(なんだかんだ新しい友達ができるかも知れないと思うと、楽しみだったんだと思います)


校長室で手続きを済ませ、帰る父を校舎の外まで見送る理子。

「私は家に戻って仮眠取ってからまた取材に出かける」

「大変だね」

「夕食は作らなくていい。今日も帰るかわからんからな」

理子、どことなく暗い表情になる。

(あんな父でも、やはりいないと寂しいという想いがありました)

「わかった。じゃあまたね」

理子は手を振るが、父は何のリアクションもせず去って行く。


ふーっとため息をつき、踵を返す。

「どんな子たちがいるんだろ」

幾分かの期待を胸に、校舎の中に入って行く理子。


担任の女性の先生は理子を紹介する。生徒たちは特に何のリアクションもない。

(今日の今日ということもあり、私は心の準備もありませんでしたし、ありきたりの自己紹介だったからだと思いました)


休み時間、転校生に対する質問タイムもない。


給食もない。生徒はそれぞれ弁当を持って来ているが、理子にはない。

(急な話だったので、もちろんお弁当も用意してませんでした)

昼休み、教室は生徒たちだけ。2、3人のグループごとに食べている。

(先生は職員室で食べているようでした)


理子は所在なさげオーラを醸し出しながら、何も食べず座っている。誰一人声をかけるものもない。

(ほぼ外部から遮断された世界で、子供の数も少ない、となれば、人付き合いがあまり得意でない子ばかりだったのかも知りません)


帰りの会で、担任の先生は生徒たちに呼び掛ける。

「今日は戌井君に誰かプリント届けてくれる人はいませんか?」

誰も手を挙げない。

「じゃあ私は絶対届けたくないって人?」

誰も手を挙げない。

「じゃあ、届けても届けなくても、どっちでも良いって人?」

誰も手を挙げない。


「あなたたちは存在してるんですか?」

生徒たちはノーリアクション。

「今日のプリントは、近々行われる、この学校の一大ビッグイベント、校内宿泊会のお知らせだから、誰か届けてくれないと困るんだけど?」

生徒たちはノーリアクション。

「このままノーリアクション続けたら全員退学にします!」

(えっ? って思いました)


「誰か届けてくれる人?」

誰も手挙げない。

「分かりました。全員退学です。以上!」

先生は教室を出ていく。

理子はただただ呆然としている。

何ごともなかったかのように、それぞれ下校する生徒たち。

(ここまでノーリアクション貫き通すとは、ある意味立派!と思いましたが、私はあわてて先生を追いかけました)


廊下を歩いている先生の背中に声をかける。

「先生!」

先生は振り向き、

「あ、福田さん」

「あの・・・本当に退学なんですか?」

「びっくりしたでしょ?」

苦笑しながら答える。

「冗談よ冗〜談」

「冗談・・・?」

「あの子たちもそれわかってるから」

「そうなんですか?」

「このやり取り、毎度お馴染みだから」

「お馴染み・・・」

「こういう環境だからね。ほとんどの子は家業継いで、外には出ないから。自分の世界を広げようとか、そういう意欲が育たない。内弁慶の子ばかりなの」

「そう・・・なんですか・・・」

「気にしないで。福田さんみたいな転校生が、この学校に新たな風を吹き込んでくれたら良いんだけど」

「そんな・・・」

「頑張ってね」

笑顔でエールを送る先生。

「は、はい・・・」

行ってしまう先生の背中に、決意の声をかける理子。

「私が行きます!」

「えっ? 」

「戌井君・・・? の所に」

(先生はほんの少し考えているようでしたが)

「分かりました。じゃあお願いね」


━━普通の学校なら、遠足や修学旅行になるんでしょうけど、おそらくこの村は、あまり村民を外に出したくはないんでしょう。なので修学旅行ならぬ、校内宿泊会になるのです━━


(戌井君は、中学入学してすぐ登校拒否してしまったそうです。この時の中学2年生は、私と戌井君、二人だけでした。そういうこともあり、興味が湧き、行くことにしたのです)



先生に書いてもらった地図をたよりに、家を探している理子。

(私の家と同じく、かなり村の外れにあるようでした。一体どんな生徒なのか、不安というか心配というか、そんな気持ちでした)


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