村の掟
朝、父が帰って来る。
「あ、お帰りなさい」
二人分の手付かずの煮込み料理が置いてある。
「昨日の晩御飯のだけど、これ朝食にしていい? これ温めるね」
「すまなかったな・・・」
「ううん。しょうがないよ」
理子のその言葉は、どことなく悲しみのオーラを纏っている。
囲炉裏の側で、マッチを手に取る理子。
「ん?」
父の視界に何か見覚えのないものが入る。奇異の眼差しを向け、次第に表情を曇らせる。
理子はマッチに火をつけるのに手間取っている。
「あれ? つかない」
やっと火がついたと同時に、怒声が炸裂する。
「理子!」
「熱っ」
予期せぬ怒声は、火のついたマッチを理子の太ももに落とす。
「これは何だ!?」
父の怒りの視線は、波状攻撃となって子犬を襲っている。
しかし、そんなことどこ吹く風と、クゥ〜ンと可愛さオーラを放っている新たな入居者。
(この時の私は、父が何でそんなに怒るのか、わかっていませんでした。私の太ももには、この時火傷した跡が微かにですが残っています)
「何だ?って言われても・・・弱っててかわいそうだったから連れて来たの」
「この村の最大の忌避事項にお前は触れたんだぞ!」
「き、ひ・・・?」
「この村には、動物を村内に絶対に入れてはいけない、という掟があるんだ」
「えっ?」
「あのバカ高いフェンスはそのためにあるんだ。動物を絶対に中に入れないためだ」
「えっ・・・だって、このワンちゃん、普通に村の中にいたよ」
「何?」
会話の内容がわかるわけもなく、クゥ〜ンと鳴く子犬。
「・・・まさか掟がなくなったのか?」
そんなはずは無いと、予想外の出来事に出くわし、動揺しているマッドサイエンティストは自分に言い聞かせる。
「まぁいい。何故それほど動物を入れてはいけないのか?・・・これだけは誰に取材してもわからなかったんだ」
何か思い付いたかのように、フフフとほくそ笑む。
「逆に良かったかも知れん」
(父が不気味に笑うのはいつものことですが、やはり怖いです)
「理子!この子犬は村民の誰にも見つからないようにしろ。もちろん誰にも言ってはいかん」
不気味な笑いに呆然としながらも、微かに頷く理子。
(なぜ高いフェンスがあるのか?という謎は解決しましたが、なぜ動物を入れてはいけないのか?という新たな謎ができた感じです)
「動物がいたらどうなるのか?これで分かるというものだ」
ワーハッハッ!という高笑いの中、理子は子犬を見つめ、抱き寄せる。
それに答えるかのように、クゥ〜ンと鳴く子犬。
(この子犬の身に何が起きるのか?不安で不安で、私はただ抱きしめました)