謎の村
━━水力村・・・
全ては私と父が、この村に引っ越して来た時から始まります。
人口約70人程の小さな村。この村を、某オカルト雑誌読書を惹き付ける存在たらしめているもの・・・
それはまるで結界のように村全体を囲っている、50センチほどの石垣の上に、更に2メートルはあろうかというフェンスです。かなり異様な光景でした・・・
このようなフェンスに囲まれていては、物理的にも外界との接触はほぼ遮断されているといって良いでしょう。というか実際遮断されてました。
標高400メートル程の山。その山腹から山頂辺り、大部分をフェンスで囲むとは、かなりの労力が必要だったでしょう。
山全体は鬱蒼としていて、外見からはそのフェンスは見えません。
昔の山城のような感じと言ったら良いのでしょうか、人が住めるスペースをいくつか作り、そこに村民が住んでいます。
まるで都市伝説に出て来そうなこの村・・・
かなりの謎に包まれているこの村を研究するため、民族研究者である父と私は引っ越して来たのです。
もちろん最初は断られました。それでも研究熱心な父はアプローチし続けました。そしてようやく、村民になるのなら、という条件付きで、村長から許可が降りたのです━━
(村民になれば、村の秘密というか、何か外部に漏れてはまずい事も、隠し通せると踏んだのか、真意はわかりません。もちろん父は研究成果を公表するつもりでしょうし・・・)
禍々しさ漂う・・・
あらゆる生き物の侵入を拒絶する、漆黒の城壁がそびえ立っている。
フェンスの中は、フェンスの何倍もあろうかという、高い木々。"暗黒"が棲んでいる。およそ人が住んでいるようには思えない。
その前に、"期待"と"不安"が立っている。
「ガーハッハッ!来たぞ、ついに来たぞ、理子!」
"期待"は高笑い。
"不安"は・・・
目に涙を浮かべている。
駆ける理子。暗黒の棲みかから逃げるように・・・息も絶え絶えになりながらも、必死に逃げる。
しかし、"期待"の高笑いはより一層大きくなる。
その"不安"が起こした行動は、徒労に終わる。
強大な暗黒の手のひらの中で、踊らされているだけ。暗黒の巨大な手に掴まれ、暗黒の棲みかに引き戻される。"不安"の悪あがきはかえって暗黒にとっての調味料となり、暗黒は満足気に食す。
(私は不安が大き過ぎて、何か不気味なものに飲み込まれてしまったかのような感覚に襲われたのです)
「私は楽しみで仕方がない。郷に入っては郷に従え。理子、最初は戸惑うかもしれないが、直に慣れるさ」
理子の"不安"を感じた"期待"は、気休めを言う。
"不安"はただただ怯え、何も答える気力はない。
(父と二人、初めてそのフェンスの前に立った時、私は父とは真逆の想い──不安──しかありませんでした。父は目をギラギラさせ、本当に期待で胸をいっぱいにさせていたんでしょう。でもその期待が恐怖に浸食されるのに、それほど日数はかかりませんでした)