第八篇 視覚の麻痺
館内を駆ける紅、熊、飛蝗。
「バイクだ!」
飛蝗が言うと、熊沢は
「紅マジック、プリーズ!」
彼らは窮地に陥っていました。数時間前、紅達は見事な花火を見終わり、二階へ。紅が寒気がすると言ったのですが、飛蝗と熊沢は何も感じませんでした。だけど、その数分後、熊沢に見たこともない虫が集ったのです。
「もしや、あの羊羹、賞味期限切れだったのか!?」
オーバーリアクションの熊沢に飛蝗は
「賞味期限が切れてるとか切れてないとかいう、そういう問題じゃないと思うけどさ……」
「……キレてないですよ」
「何にでも突っ込むと思うなよ」
呆れる飛蝗くんです。
「蜻蛉?」
紅がその虫を指差して言いました。しかし、飛蝗は
「俺には、蜉蝣に見えるんだけど……」
「って、蜻蛉と蜉蝣の違いが分かんないんですが……。私には、雛に見えるんですが……」
と、熊沢。
「ってことは、何? 頭の上で雛が舞ってるってことは、気絶してるってこと?」
飛蝗が言うと、熊沢は精一杯のウインクをした。ちなみに、蜻蛉はトンボ目の昆虫の総称のことです。蜉蝣はカゲロウ目の昆虫の総称であり、形は蜻蛉に似るが、小さくて弱々しいのである。夏の夕方、群れで水辺を飛ぶとのことだ。また、蜻蛉とも書く。なんとも紛らわしいですね。
「じゃあ、あの絵は?」
紅ずきんが廊下に飾ってある一枚の絵画を指差して、
「林檎だよねぇ?」
「えっ? 檸檬じゃなくて?」
吃驚する飛蝗に、熊沢は
「あれは、どう見たっても、デフォルメで人が首吊り自殺をしている絵ですよ~」
その直後、鳥肌が立ち、妙な気配に襲われた。まるで
「全員の視覚が麻痺してる……!?」
飛蝗くんは、天井から吊るされたものを見て、
「あれは、シャンデリアだよなぁ?」
だが、熊沢は首を横に振る。
「蛍光灯に見えるけど……」
紅ずきんは、2人(1匹と1頭)のどちらの言い分にも賛同せず、
「何にも無いよ」
紅、熊沢、飛蝗は顔を見合わせた。その直後、背後から物凄い足音が響いてくる!
「……逃げようよ」
紅が言わなければ、全員、足が竦んで動けなかった気がした。背後から迫ってくるのは、ゾンビ!?
「捕まったらアウトだ! 熊沢、バイクだ!」
飛蝗が叫ぶと、熊沢は紅に
「紅マジック、プリーズ!」
紅は杖を持たず、人差し指で宙に印を書く。
ゾンビとの距離は差し詰め10メートル。廊下を駆け、廊下の角に直面。
「角を曲がってすぐ、部屋に逃げ込むぞ」
飛蝗が指示をし、逃げ込んだ部屋は、中央にグランドピアノが置いてある以外は特に特徴のない部屋であった。部屋の扉に紅が魔法をかけて、開かないようにした。だが、この後の展開は、予想通りにお決まりのパターンだった。
「この部屋から逃げた方がいいな……」
と飛蝗。紅が扉に再び魔法をかける。
すると、案の定、ピアノが急に鳴り始めたのです。
「あっ、音出ますよ」
その声に、飛蝗と紅は唖然とした。
ピアノが急に鳴り出したのは、現象ではなく、ただ単に、熊沢が鳴らしたからでした……。
「空気読め」
飛蝗のツッコミを無視した熊沢は、何故か森のくまさんを弾き始めす。
「くまたんって、ピアノ上手なんだね」
と、紅。飛蝗は溜め息をつくだけです。
「他に何が弾けるの?」
紅が聞くと、熊沢は
「第九」
「……って、マジで!?」
驚愕する飛蝗を余所に、熊沢は、交響曲第九番を弾き始めた。が、数秒で
「ここまでだけど」
「スゴーイ」
紅は熊沢に拍手を送った。照れる熊沢に、飛蝗は「バイクは?」とだけ言った。
To be continued…
麻痺の表現として、「ですます調」とか「だである調」「話口調」とかが混ざって、面倒なことになった気が……。
おそらく、混ざるのは『紅頭巾2』のみだと思いますので、というよりも、この違和感はこれっきりにしたい。