第十三篇 母親の魔法を乗り越えて
事態は急を要していた。永久廊下は黒煙のみで、すぐにでも酸欠で倒れてしまいそうだ。幸い炎はまだここまで達していないが、奥の方で、黒煙が時々赤く染まっているように見えた。
「ここを塞ぐしかないか……」
飛蝗はそう考えた。ここでは、十分な水を得られそうにもないし、第一、時間が無い。
熊沢が次々と部屋の扉を開け始めた。
「何をやってんだ!?」
飛蝗はそう言ったが、すぐに理由が解った。
「なるほどな……。熊にしては、良い作戦だな」
館の扉は正しく開けないと部屋に通じない。それを逆手にとったのだ。つまり、扉の向こうは部屋ではない。では、何処か。答えは分からない。しかし、異空間という可能性がある。火の手が永久廊下から扉の中に行く可能性がある。ここからは、運が物を言うのだ……
街。フラワーショップ・紅にて。
揉めに揉めるお母さんとお祖母ちゃん。熊沢の兄が
「大変です! 山奥で火事です!」
と、叫び2人を店の外へ。
「あの煙って、……」
お祖母さんは足が竦んだ。
「20年前と同じですね……」
熊沢の兄がそう呟いた。
お父さんが軽トラックを爆走させて、花屋の前で急停車し、扉を乱暴に開けて紅のお母さんに近づき
「あの火事、20年前に焼けた館があった所じゃないのか!? フロールがあそこにいるんだろ!?」
激怒するお父さんだが、お母さんは冷淡に
「だから?」
頭に血が上ったお父さんは
「お前の爺さんのあとを追わせる気か!?」
そう言い放って、軽トラックに乗り、急発進させた。
「私の気持ちなんて、誰も解んないくせに!」
お母さんは、早々と宙に印を描き、その場から消えた。
「……あたしゃ、あの人に間違った対応しかできなかったのかねぇ……」
お祖母さんは、その場に座り込んでしまった。お祖父さんが着いた頃には、お祖母さんは大粒の涙を流していた。
森を爆走する軽トラック。
隧道は通れないため、迂回して、山を駆け登る。
途中、栗鼠山が助手席側の少し開いた窓の隙間から軽トラに飛び乗った。
館は炎に包まれ、崩れていく。崩れる音は、まるで館の悲鳴のようであった。
紅は自分の魔法を信じ、闘っている。
炎は螺旋階段までも焼き払い、熊沢は其の場凌ぎのバケツの水を撒くことと応援しかできない。
「お嬢ちゃん、頑張って下さい!」
熊沢の声援と
「自分の力を信じて、打ち克て!」
飛蝗の声援が紅に届く。
「勝つよ!」
紅が前へ進む。それと同時に魔方陣も前へ。
扉が先程より大きく開く。
差し込む光も次第に大きくなる。
「くまたん、バッタくん、行くよ!」
「おぉ!」
「頑張れ!」
そして、扉が開いた!
「さぁ、皆の所に帰ろうよ」
紅が振り向いた。
熊沢と飛蝗は、駆け足で紅の方へ。
そして、光の溢れた外へ。
To be continued…
次回、紅頭巾Ⅱの最終回です。