第十二篇 燃え上がる館で
炎に追われる紅達。
「くまたん、あそこ!!」
紅が指差した先には、螺旋階段がある。
「ラジャー!!」
熊沢は、バイクをウイリーさせ、急旋回。
「曲がるなら、曲がるって言えよな!」
飛蝗は必死に前消灯にしがみつくが、
「あぁ……、眩暈が……」
バイクはぐるぐると螺旋階段を下り、広い空間に出た。そこは、部屋というよりも、古びた遺跡と言っても過言ではないぐらい、壁一面に文字が書かれていた。そのなかに、巨大な扉のようなものがあったが、熊沢の力でもびくともしなかった。また、床に何やら魔方陣のようなものが描かれていた。
「察するに、マジックパワーですかね。何らかの魔法で扉が開いて、脱出できる仕組みですかね?」
熊沢はバイクの手入れをしながら言った。
「こんな魔方陣、初めて見たんだけど……」
不安を抱く紅。すると、熊沢はすかさず、
「Nothing venture nothing have!!」
「それを言いたいだけだろ?」
飛蝗が言ったが、熊沢はバイクのタイヤに空気を入れ始めたため、飛蝗はカチンときて、
「That's disgusting. Have it your way!」
「……Let's forgive and forget!」
熊沢は回螺器を片手にそう言った。
「……なんて言ってるの?」
紅が聞くと、自ずと言い争いは静まった。ちなみに、訳すと、飛蝗は「もううんざりだ。勝手にしろ」と言い、熊沢は「水に流しましょうよ」と言っていた。
しばらくして、熊沢が
「フレイムがこっちに来るのは、大分先ですかねぇ?」
と、言った。黙っていた飛蝗は、これに対して
「仮令、大分先であっても、時間がないことには変わりない。もう逃げ場は無い……」
「お嬢ちゃん、あなたのマジックを今、庶民が求めています」
熊沢は紅に向かって言った。そのため、プレッシャーなのか紅は震える手を押さえ、
「……頑張ってみるよ!」
魔方陣の中央に立ち、杖で宙に描く。
(前向きさも変わって無いんだな……)
と、飛蝗は感じた。
魔方陣が輝く。紅ずきんは、小さな杖で宙に描き続ける。
「こう見ると、魔法ってスゲェよな……」
熊沢は、感心する飛蝗に向かって、
「でも、魔法って、一種の化学反応でしょ?」
「……多分間違ってないかもしれないけどさ、今言うか? 空気を読め」
飛蝗は熊沢の足に体当たりした。
扉がガタガタと音を立て、開こうとしている。少し開き、光が差す。
しかし、紅が思わず叫び、その場に尻餅をついた。
「お嬢ちゃん、大丈夫!?」
熊沢が紅のもとに駆け寄った。
「大丈夫だよ……。でも、扉が閉まっちゃった」
熊沢が手を差し伸べて、紅は立ち上がった。
「抑、館にかけられた魔法って、誰の魔法なんだ?」
飛蝗が訊いた。それに紅が答えた。
「お母さんだよ」
(フロールの母親って、確か……)
飛蝗は大体のことを理解したようで、
「おそらく、最後の関門ってところだな……。試してるんじゃないか?」
「マザーマジックにクレナイマジックが勝てば、開くってことみたいですね」
熊沢は魔方陣から外へ。
「クレナイ's マジックじゃなくて?」
と飛蝗が突っ込むと、熊沢は
「細かいことは気にしない、気にしない」
紅は再び小さな杖で、宙に描く。しかし、対抗する魔法の威力が一枚、二枚いや、それ以上の上手であり、杖に負担がかかる。
「さて、俺達にもやるべきことができたぞ……」
飛蝗の声で熊沢は後ろを振り向いた。
「スモークが遂にここにまで来ましたか……」
「このままだと、一酸化炭素中毒で死ぬぞ!」
「Even though I die from carbon monoxide poisoning, I have few regrets about my life.」
熊沢は両手を広げ、天を見上げた。
「……"私が一酸化炭素中毒で死んでも、人生に悔い無し"って、俺達のやるべきことを全てやってから言えよな」
飛蝗は階段を上り、後から熊沢が追う。
To be continued…




