第十篇 館の異変
夜空を眺めていた熊沢は、急に
「ところで、バイクはいつ come here?」
「明日には来るんじゃない?」
飛蝗は、眠そうに言った。
「明日って、もう12時回ってるから、todayでしょ!?」
「……さっきの話、やっぱ無かったことにならねぇか? 流石に鬱陶しいな」
飛蝗は熊沢にそれだけを放って、就寝した。
翌朝。飛蝗が起きると、紅が
「大変。くまたんが、何かブツブツ呟いてるんだけど……」
案の定、飛蝗の予想通りだった。
「鬱陶しいのかなぁ……。嫌われてるのかなぁ…」
部屋の隅っこで意気消沈している熊沢。
(謝るべきか?)
そう思い、飛蝗が熊沢に謝ると、熊沢は笑顔になり
「良かったぁ……」
と先程とは全く異なる態度を取り、
「クレナイ宅配便はまだですか?」
と、紅に聞く。無論、バイクの件である。
「すぐ来るよ」
紅が言い切る前に、ドアが勢いよく開き、バイクが到着した。
「判子お願いします」
「印鑑ですか」
熊沢は朱肉に右手の肉球を付けて、紅が出した受取書に
「ここで、いいんかん?」
と言い捺すと、
「イ(ン)カン! 右だったぁー」
と叫んだ。
「何で日本語なんだよ……」
呆れる飛蝗が熊沢に言った。
「あれ? 黄金の国、ジパングをお知りで?」
「今頃、黄金の国、ジパングなんて言ってるのお前ぐらいしかいないだろ」
すると、熊沢は
「いますよ。世界の記述で」
「東方見聞録かよ!?」
飛蝗の激しいツッコミだが、熊沢は冷静だった。
「実は、兄貴の熊沢書店で売ってまして」
「模写?」
「さぁ~」
熊沢のこの一言で、飛蝗はこれ以上追求することをやめた。
「今のって、そんなに面白かったの?」
と、紅が言うと熊沢は図に乗って、
「スゴく面白いボケだったんですよ」
「どこがだよ」
と、飛蝗のツッコミ。
「アルミ缶の上にある蜜柑」
「……。朝から、そんなつまらないギャグを聞きたくないんだけどさ」
飛蝗の厳しい発言に、熊沢はまた隅っこで落胆。日本語の分からない紅だけが、窓から差し込む朝日を浴びていた。
バイクで廊下を爆走中。
「くまたん、変じゃない?」
異変に気付いた紅が言うと、熊沢は
「バイクを2人乗りしてるのに、サツが現れないことが?」
熊沢はバイクのハンドルを握り、紅は熊沢の後ろに乗っている。飛蝗は、ハンドルの真ん中に付いている前消灯の上に乗ってというか、しがみついている。
速度計の針は、60km/hを軽く振っていた。
「廊下が長すぎるよ!」
紅がサイズの合わないぶかぶかなヘルメットを右手で支えながら叫んだ。
「確かに……。言われてみればそうですね」
熊沢は、いつもの如く冷静であった。
(言われてみればって、気付いてなかったってことかよ……)
飛蝗は熊沢に呆れるばかりであった。
廊下は何処までも真っ直ぐに永遠と続いていた。
「♪~【自主規制】~」
陽気な熊沢は、歌いながら永遠と続く廊下を走る。
「♪~【自主規制】~」
20分経過。
声が嗄れた熊沢は、黙り込んだ。
「階段だよ!」
紅が指差した先には、2階と1階を繋ぐ階段に似たようなものがあった。
「ターンライト!」
熊沢は、バイクを傾けて右折。階段をバイクで爆走。
To be continued…
『路地裏の圏外 ~龍淵島の財宝~』もよろしくお願いします。
登場する紅達は、丁度この話辺りです。




