〜娘の願い〜
梅雨明けの湿気の重みとねっとりした暑さが身体にまとわりつき、体力を奪っていく。そんな状況をすれ違いざまに言いふらしたくなるほどの暑さだが、その欲望を遮るように窓越しからは風が轟々と吹き荒れ窓を叩く。とてもじゃないが外出する気になれない。だが、男には外で女と会う約束をしていて、どうしても外に出なければならない。彼女は、ほっといても意地を張って待ち続けるだろう。男は怠さを感じながら重力を逆らうようにマットレスから背中を離した。
重い。
空気も、動けば動くほど湿気を感じた。段々に汗ばんだ背中から服が嫌な感じに離れた。汗はションベンの薄めたやつだ。やっと、洗面所にたどり着き鏡を見る。そこには切れ長の目に整った顔にセミロングのアッシュブラックの髪色。ぐったりしていなければ完璧だった。今時主流ではない、ひねるタイプの水道をひねり荒く水が吹き出したので顔を洗うのに抵抗があった。蛇口からは青と白の塊ができていた。
そんなこともあり、外出する時に引越しのことも含め、不動産のチラシも見つつ足早に嵐の中を走り約束の場所『ヘラ・メン』個人経営のカフェに来た。
窓越しからは丸いテーブルが等間隔に並んでいる。さすがに台風の中、客数は少ない。人影が二組と・・・
黒い服に漆黒のパーマがかったゴワゴワのボブ。窓越しから顔は確認できないが、彼女に違いないだろう。
彼はカフェ店内のルートを頭に描き、シュミレーションをイメージする。よし。
彼は扉を開け、店内に入った。
「漆闇くん!!!」
やはり彼女だった。
彼女は立ち上がりキラキラ見た目で彼を見ていた。