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たちきす  作者: 鷹玖
3話 「オエステ・九条」
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3話 「オエステ・九条」 その1

 火曜日の朝。

 なぜか両腕が重い上にだるい。

 ゆっくり目を覚ますと、僚の両腕を枕にして、僚に抱きついて寝ている2人の妹が居た。

 狭いベッドは非常に窮屈だ。


「よくこんな狭いところに入ってきたな」


 僚はそうつぶやきながら、起こさないように、両腕を抜く。


「痛っ!」


 2人の頭を支えていた腕は痺れていた。

 感覚がなくなっている。


「これじゃ着替えられないな」


「どうしたの? お兄ちゃん」


「どうしたも、こうし……」


 上半身を起こした由加は、ブラジャーを着けていなかった。


「ちょ、おま」


「え? や、見ないで!」


 なんだかいつもと違う反応だな。


「兄貴、もしかして腕が痺れてる?」


 美加も起き上がりながらそう云う。

 なぜか美加もブラジャーを着けていない。


「お前たち、ブラを着ろ。丸見えだぞ」


「そんなことより、ごめんなさい、お兄ちゃん、腕が痺れて動かせないでしょ?」


「私たちが着替えさせてあげる」


「な、いいよ自分でするから」


「そんなこと云って、無理だよ。その腕じゃ!」


 そう云って、2人はパンツひとつで兄のジャージを脱がせていく。


「や、まって、ちょ」


 あっさりと脱がされる上半身。続いて妹たちはジャージを下げようとする。


「え?」


「なんか引っかかるね」


 朝な上に、ほぼ全裸のパンツひとつで、脱がしにかかる少女が2人も居たら、下半身は当然な状態になっていた。


「や、おにーちゃん!」

「い、妹に欲情しないで!」

「仕様がないだろ! 朝なんだから!」

「朝だけな問題?!」

「そうだよ、朝だからだよ!」


 なんとか動かない腕で、着替えることに成功した僚は、家を出る。

 妹たちが、ガッツポーズをしている理由がよく判らなかった。


   ◆


 教室に入ると、阿部と目があう。


「おはよ……」


 阿部はすぐにプイっと横を向く。

 僚はそれでも阿部の席の前に立ち、


「悪い、阿部。昼休み、ちょっと付き合ってくれないか?」


「え?」


「悪いけど、よろしくな」


「え、ええ」


 阿部は曖昧そうな返事をした。


    ◆


 校舎裏まで連れてこられた、阿部は、心臓がバクバクいっていた。


(なにされるんだろう……)


 なぜか、なにかをされる方を心配している。


「ごめん、ちょっとほかの人が居ると、出来ない相談なんだ」


「ええ」


「実は、阿部に触ってしまったようなことを、隣のクラスの野田にもしてしまったんだ」


「え?」


「ああ」


「そっち?」


「……そっち?」


 阿部は告白されるものだと思っていたようだ。


(キスまでいった相手に告白もなにもないよね)


 阿部はこれが能力の時との差なんだと思った。


 僚にはまったくその気がなかったので、阿部の反応の意味が判らなかった。


「ああ、ええ、ああ。や、こっちの話」


 阿部は必死で誤魔化した。


「野田さんって、あの大人しそうな娘よね」


「ああ」


「あの娘の喫茶店でアルバイトしているんだよね?」


「ああ」


「そこで触っちゃったの?」


「触ったのは別のところだけどな。で、昨日なんだけど、野田の部屋で、迫られちゃったんだよ」


「なっ!」


「じ、自慢しているんじゃないだよ! 判るだろ? お前が俺にしたようなことさ」


「な、なにを云って!」


「相談出来るのは、お前しかいないんだ」


「え?」


「いったん、俺の能力で好きになった娘が、解除された例ってお前しかいないんだよ!」


「……」


「なぁ、頼むよ」


「キス……」


「え?」


「キス、すればいいんじゃないの? 私としたみたいに」


「したんだよ。キス?」


「え? それじゃ、解除されたんじゃ?」


「それがされてないんだよ」


「え? どうして?」


「それが判らないんだ」


「……」


「お前の時、お前と俺とで、キス以外にしたことってあるか?」


「判らない……」


「そうか、残念だ」


 ちょっとした沈黙が訪れる。


「私も協力する」


 そう阿部が云う。


「え?」


「あなたのその能力、どうやったら解除出来るのか、協力してあげる」


「あ、ありがとう」


「また、触ってもいい?」


「え?」


「解除された女の子が、再び触ったらどうなるか? 調べる必要あると思わない?」


「いや、それはやめておこう。どうやったら解除出来るか、判明してからじゃないと、阿部の気持ちをまた踏みにじることになる」


「いいのに」


「え?」


「私がまたあなたを好きになるだけでしょ? 別に構わないよ」


「なら能力なしで好きになってくれればいいよ」


「え?」


「冗談だよ」


  ◆


 放課後、阿部は天一のアルバイトを休んでくれた。


「こんなこと、一度だけよ」


「悪い」


 2人して野田の喫茶店に入る。


「あれ、変な組み合わせね」


 先についていた、京橋が云う。


「ちょっとね」


 僚はそういって、事務室にエプロンを取りにいく。

 阿部はテーブル席についた。

 京橋は水をテーブルに置きながら、


「あんたたち、どういう関係?」


「一応、お客さんなんだけど?」


「いらっしゃいませー」


 すごい棒読みである。


「いまさら」


「なんにします?」


「コーヒーを」


「かしこまりましたー。おばさーん。コーヒーひとつー」


「ちょっと、ケーちゃん、お客さんでしょ?」


「おばさん、あの娘、彩のライバルよ?」


「え? ライバル?」


「青陵院君狙ってるっぽい」


「狙ってませんっ!」


「あーこわー」


「ケーちゃんの方が怖いよ」


 野田がそういって出てきた。


「でも、強力なライバルねっ!」


「あ、野田さん、ちょっといいかな?」


「え? あ、はい」


 阿部はそうって、テーブルに座らせる。


「質問いいかな?」


「え? ええ……」


「まず、聞くけど、青陵院君のどこがいいわけ?」


「ええ?! 僚クンですか?」


「あら、もう名前で呼んでるのね」


「う、うん?」


 そんな会話を、僚は陰から見ていた。


 それを京橋が見つける。


「ちょっと、あんたどう云うつもりよ?」


「どうって?」


「あんた、彩の気持ち知っているでしょ?」


「ああ」


「なら、なんであの娘連れてきたのよ?」


「連れてきたんじゃなくて、途中で一緒になって、のどが渇いたっていうから」


「じゃ、なんなのよ、あれ? まるで尋問じゃない?」


「そーよねぇ、正妻が、愛人を責め立ててるみたいねぇ」


 その会話に、野田のお母さんもはいってくる。


「あの娘、僚クンの彼女なの?」


「ち、違いますよ!」


「じゃ、なんで、彩があんな目になってるのよ!」


 野田は、なぜか涙目である。


(阿部はなにを話しているんだ? 俺の能力の話は伏せるように云ってあるけど)


「んじゃ、いつから好きになったの?」


「廊下で押し倒された時」


「おし……、あいつ……」


「その時初めて会ったのよね?」


「うん」


「押し倒されて、好きになったの?」


「うん」


「おかしくない?」


「なんかおかしい? かな?」


「いや、おかしいでしょ(自分のこと云えないけど)」


「なんかね、押し倒された時、ぱきーんって頭の中で鳴ったきがしたの」


(私と一緒ね)


「それでね、急に身体が熱くなって、僚クンのことばかり考えるようになったの」


「……」


「もう毎日。だから今一緒に、お仕事出来てうれしいの」


(まったく同じ状況で、好きになって、同じ気持ちなのに、キスしても私は解除されて、この娘は解除されない。一体なにが条件なんだろう)


「……」


「もういいかな?」


 野田はそういって席を立とうとする。


「あ、最後にひとつだけ」


「うん」


「あなたの今の気持ち、本当に自分の気持ちだと思う?」


「え? どういうこと?」


「催眠術とか、変な力にかかっていたりしてるとか思わない?」


「どうしてそう云うこと云うの?」


「え?」


 涙目の野田がさらに涙目になった。


「もういいだろ」


 僚はそう云って2人の間に入った。


「あなたが……」


 阿部はそう云いかけて、云うのをやめた。


「青陵院君、ちょっときて」


 阿部がそういって、喫茶店の外へ出る。


「っと」


 そこで九条とぶつかった。


「あ、ごめんなさい」


 そうって、九条が、頭を下げて、喫茶店へ入ってく。

 僚を見つけて顔を真っ赤にしながら。


「あなた、あの娘にも?!」


「九条はまだだよ」


「”まだ”って、触る気まんまんね!」


「そんなことないよ。自分の能力を変なことに使ったことはないよ」


「そこだけは妙に正義感があるのね」


「そう云うのはフェアじゃない」


「はいはい」


「んで? なんだよ」


「野田さんと話していて、ひとつだけ判ったことがあるわ」


「え?」


 それは大きな収穫である。


「あなたの能力を知っている状態でキスしたかどうかよ」


「え?」


「私は、あなたの能力を知っている状態で、それでもいいからって、キスしたでしょ」


「ああ」


「あの娘とは、違うわけでしょ? 今でも内緒なわけだし。どう?」


「や、でも、能力の話をしたことはあるよ」


「そう……」


「あ、でも、キスの前に、その話をしたかどうかまでは覚えてないな」


「やっぱり。で、彼女には話してないんでしょ?」


「ああ」


「なら、ちゃんと説明した上で、もう一度キスすればいいんじゃない?」


「そんな――こと、なのか?」


「さぁ、私の問題じゃないもの。協力するのは、これだけよ。なんかこれ以上すると、京橋さんにも嫌われそうだし」


「え? なんであいつが、お前を?」


「判らないの?」


「野田の友達だからか?」


「あんた、ホントにニブチンね。自分の能力つかって、好きになってもらってるから、本当の恋ってしたことないんじゃないの?」


「本当の恋?」


「やっぱり、判ってないのね」


「なにがだよ?」


「だめだわ、こりゃ」


「とにかく嫌われるのはごめんだから、協力はここまでよ」


「ああ、ありがとう。京橋の誤解は解いておくよ」


「あの娘の感じた誤解は、誤解じゃないと思うけど?」


「え?」


「じゃーねー。朴念仁」


「朴念仁?」


  ◆


「今日は、そんなに混んでないし、オエステちゃん、もうあがって良いわよ」


 野田のお母さんが、云う。


「え? あ、はい」


 九条は残念そうに、云う。


「オエステちゃんは家が遠いしね」


「判りました。あがります」


「駅までだけど、僚クン、オエステちゃんを送ってあげて」


「「え?」」


 2人同時にそう云う。


「いいでしょ、たまには?」


(なにがいいのだろうか)


 僚はそう思いながら、事務室へ向かう。


 エプロンを置いていると、九条が入ってくる。


 事務室といっても狭い部屋なので、着替える場所はここしかない。


「あ、すぐに出るよ」


「いいよ」


「え?」


 僚はなにがいいのか判らなかった。


「ロッカーの扉で隠れるし」


 九条からは、衣擦れが聞こえてる。

 見てはいけないと思っても、見てしまうのが男の性か。

 ロッカーの扉で隠れるわけもなく、白と赤のストライプのパンツが見え隠れする。

 九条はロッカーの扉の鏡と事務室の鏡で、僚が自分の着替えを見ているのを確認していた。

 わざとお尻を突き出すようにしてみると、僚は赤くなって目を背けるのだが、また見てくる。

 その仕草が九条にとってたまらなかった。


「お待たせ」


 九条は自分の学校の制服に着替えていた。


「ああ」


「んじゃ、いこ」


 そういって、事務所を出る。


「では、おばさま、みなさん、お先に失礼します」


「お母さん、送ってきます」


「はいはい」


 それを見送る、3人。


「おばさん、どう云うつもり?」


「どうって?」


「駅なんてすぐそこなんだから、別に送る必要なんてないでしょ?」


「彩の気持ちは確かめたから」


「え? わ、私?」


「今度は、オエステちゃんの気持ちをね?」


「意味判んない」


「そうしないとフェアじゃないでしょ?」


「フェアねぇ」


「今度は、ケーちゃんも、確かめてみる?」


「な、なにを云って……」


「え? ケーちゃん?」


  ◆


 僚と九条は無言のまま、駅に向かう。

 僚はそんなに接点がないから、会話も出ない。


「ねぇ」


「ん?」


「私の下着、どうだった?」


「な、なにが?」


「さっき、見てたでしょ」


「見てな……。ごめん」


「正直でよろしい」


「……」


「んで、どうだった?」


「どうって、かわいらしかったよ」


「ありがとう。折角だし、もっと見ていく?」


「なにを云って」


「おばさまが、こういうチャンスをくれたんでしょ?」


「チャンス?」


「いつもは、私すぐにわかれちゃうからね」


「そんなこと云っても、俺、九条のこと、ほとんど知らないし」


「私は知ってるよ。あなたも私のことは知っているはずよ」


「え?」


 そういいながら、腕を絡めてくる。

 それは唐突すぎて、僚の警戒心から外れていた行為だった。


「え、あ」


「うふふ。大丈夫だよ。私僚さんの能力知っているもの」


「え? 九条?」


「私、九条オエステだよ?」


「九条……。あ、確か小学生の時の?」


「そう、東宮小学校の時、同級生だった。九条よ」


「思い出した。あの時の娘か」


「うん。久しぶりに僚さんを見てびっくりしちゃった」


「どうして、今まで黙ってたの?」


「あんな人たちと一緒じゃ、云いづらいでしょ」


「そうかな?」


「そうよ」


 そんな会話をしていると、駅から歩いてくる梅田を認めた。


「あ……」


 僚がそう云うと、梅田はちらっと見ただけで、目を背けた。


「……」


 そして、僚とのすれ違い座間に、


「今日は、違う娘なのね」


 と、云った。


「え?」


「あの娘、梅田さん……、時計台の前に立ってる娘ね」


「知っているのか?」


「あ、うん、援交してるんじゃないかってウワサが」


「エンコー? 本当に?」


「うん……」


「隣の学校にまでウワサが……」


「あくまでウワサよ。おじさんと歩いているところを目撃されている程度だし」


「そ、そうか」


「んじゃ、私、ここでいいよ」


 そこはその時計台の前だった。


「え?」


「え? なに? 本当に見たかったの?」


「な、いや、ば……」


「まさか、制服でラブホはいけないでしょ!」


「ラブホっておまっ!」


「今度、私服の時にね! んじゃ!」


 そう云って、九条は駅舎に消えていった。


「なんなんだよっ!」


 しかし、確かに九条には、小学生の時に、触れてしまっている。

 当然小学生同士なのでキスはしていないが、能力のことは、教えている。

 つまり、この状態でキスをすれば、解除出来るかもしれない。

 実験といってしまうと、九条に悪い気はするが、野田の状態を解除するにはちょうどいいかもしれない。


「今度事情を話して、協力してもらうか」


「なにを協力してもらうんですか?」


 その独り言を云ったのに、反応したのは、デパートの前であった少女だった。

 パーカーとショートパンツという姿だった。


「お前?」


「あ、ごめん人違いでした!」


 そう云って、その少女は走り去った。


「もう、人違いもなにもないだろう」

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