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たちきす  作者: 鷹玖
2話 「野田 彩」
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2話 「野田 彩」 その1

 次の日、けだるい身体を引きずって、坂を登る。


「今日もピンクだな」


 僚の肩を重たくして、鴫野はそう云った。


「……」


 京橋は、カバンで隠して走るので、変な格好になっていた。


「来週は期末テスト週間だな」


「ああ」


「部活がなくなるんで、楽になるぜ」


「お前部活やってんの?」


「知らなかったのか? サッカー部だよ。俺?」


「へぇ、だからやけに体格がいいのか」


「お、判る?」


「ああ」


「1年にして、巻場高校のエースとして期待されているのさ」


「ほう、すげーな」


「まぁな」


「そんなエースになろうかというヤツが、練習サボれてうれしいとか、あんのか?」


「ま、まぁな。突っ込み厳しいな」


 本当にエースと期待されているのか、微妙だなと、僚は思った。


 教室に入ると阿部と目が合う。


「おはよう。阿部」


「……」


 阿部はぷいと顔を背け、無視した。


(おかしいな。俺の能力が解除されたことなんて一度もなかったんだが)


 僚はなにが解除のきっかけになったのか考える。


(キスってのは、今までに何度かあったんだよなぁ)


 それでも解除はされなかった。


(なので、キスするってことは、解除のトリガーになるわけではないはず)


 そう考えると、今までいろいろ無理矢理キスされてきたことを思い出し、ぞっとする。


 相手がかわいらしい子ならまだしも、女性には、年下も、年上も、かなり年上もいるのだ。


(しかし、解除の方法が判れば、もし間違って触れてしまっても、もう怖がることはない)


 その方法を探してみようか。


 僚はそう考えながら、梅田の方を見る。


 梅田の方を見ると、必然と今宮と目が合う。


 今宮はまた顔を真っ赤にして、前を向きなおす。


(勉強しろよ)


 今までキスしてきた女性と阿部との差。それは一体なんなのか。


 いやむしろ、最初から効かなかった梅田と、阿部に共通点があるのかもしれない。


 珍しく鴫野に学食に誘われなかったので、僚は1人で食堂へ向かっていた。


 その鴫野が、女生徒と話しているのを見かける。


「よう」


「よう、青陵院。悪い、今日は1人で食べてくれるか?」


「構わないけど?」


 すると、その鴫野が話していた相手が、


「あ、朝のパンツのぞき魔っ!」


 と叫ぶ。


「誰がのぞき魔だよ!」


 僚は思わず、そう言い返していた。


 鴫野の横にいた女生徒は京橋だった。


「お前のことだってよ」


 そう鴫野が笑いながらいう。


「2人で見たんじゃねーか」


「俺は幼馴染だからノーカンなんだと」


「なんだと、卑怯な」


「ねぇ、和馬。この人? 転校生って?」


 京橋はそういいながら、僚の顔を見る。


「そう云えば、ちゃんと紹介してないな」


「青陵院僚って云います。よろしく」


 僚はそう云って挨拶をした。


「私は、京橋京子。よろしくね」


「よろしく。例のケーケーさんね」


「そんなあだ名で呼ぶ人なんて、中学生までだよ? いまはいない。あはは」


 京橋の目は笑ってなかった。あまり気に入ってないらしい。


「ねぇ。なんでこんな短期間で仲良くなっているの?」


 京橋はそう疑問を口にした。


「なんでって云われてもな。ピンク仲間?」


「もうなによ、それ」


 そんな会話をしていると、僚は不思議に思ったことを口にする。


「お前ら付き合ってんの?」


「「な!」」


 2人が同時に叫ぶ。


「俺たちは……」


「た、タダの幼馴染よっ!」


「そうなのか? 俺には幼馴染っていないんだよなぁ。転校ばっかりしてたから」


「あ、そうねぇ」


 京橋はバツ悪そうに云った。


  ◆


 僚はソバ定食を食べ終わり、教室へ向かう。


 廊下の角を曲がろうとすると、死角から京橋が出てきた。


「やばっ!」


 友人の幼馴染に触れてしまうわけにはいかない。


 とっさに横へ飛ぶが――


「きゃ!」


 どさっ


 僚が飛んだ先には、別の女生徒がいた。


(やっちゃった!)


 僚の下敷きになっているのは、知らない女の子だった。


 茶色い髪を後頭部でまとめたポニーテールをし、大人しい雰囲気を醸し出している。


 が、目は既にうるうるになっていた。


「ちょ、彩、大丈夫」


 京橋はそう云って、僚を突き飛ばそうとする。

 その手にまで触るわけにはいかない。

 僚は脱兎のごとく、少女から離れる。


「大丈夫じゃ……、ないです」


「えぇ、保健室にいく?」


「う、うん。なんか身体が熱くて」


「俺もいこうか?」


「いいよ、こないで!」


「判った」


「なんで、彩に飛び付いたのか、あとで問い詰めるからね!」


「え?」


「なぁ、あいつ、突然、女の子に飛び付いていたよな?」


「ああ、白昼堂々と、すげーな」


 周りからそんな声が聞こえる。

 とっさにかわした華麗なジャンプはそういう風に見えたのか。


  ◆


「センセーいますか?」


 京橋はそういいながら、保健室に入る。

 昼休み中なのか、保険医はいなかった。


「彩、センセーいないみたいだから、そこのベッド借りちゃおう」


「うん」


 彩と呼ばれた女生徒は野田彩と云った。

 野田は大人しくベッドに横たわる。


「とんだ災難だったわね」


「……。ねぇ。ケーちゃん」


「なに?」


「あの男、ケーちゃん知っているの?」


「知っているっていうか、毎朝スカートの中をのぞかれてるのよ」


「え……」


「へ、変な意味じゃなくて。なんか和馬の友達みたい。今日ちゃんと紹介されたばかりよ。確か青陵院僚って名前だったかな」


「ふーん。ケーちゃんと付き合ってたりとかしないの?」


「し、しないわよ。ちゃんと話きいてた?」


「うん……、よかった」


「え? あんたなに云ってんの? 突然押し倒されて、どっか、頭でも打った?」


「ケーちゃんひどい。そんなことないよ。ただ、なんかあの男のこと考えると、身体が熱くなるの」


「え……、なんで……」


 京橋には、野田がなにを云っているのか判らなかった。


「好きな人とか、付き合っている人とかいるのかなぁ?」


「本当に大丈夫?」


  ◆


 パンツのぞき魔の次は押し倒し魔のレッテルを貼られそうな僚は、教室に戻る。

 阿部と目が合うも、ぷいと横を向いてしまう。


(どうにか委員長に取り入って、解除のトリガーを見つけ出さないと)


 しかし、なぜか嫌われてしまったようである。

 好きという状態でなければ、こうも女の子に話しかけるのは難しいのかと僚は思った。

 また触ると、同じ結果になるかもしれない。

 今まで解除出来たことはないので、2回目の接触による能力発動は経験がない。

 なので、簡単に触るわけにもいかないのだった。


 学校では避けられてしまうので、僚は放課後、天一に向かうことにした。


「いらっしゃい……、ませ……」


 阿部はあからさまにいやな顔をする。


「テンション下げるなよ」


「なにしに来たのよ」


「ラーメン屋に来る時、することはひとつだ」


「フロア掃除?」


「ラーメン食べに来たんだよ!」


 いつものを注文すると、阿部は厨房に入っていった。


「おまちど!」


 スープがこぼれるほど、どん、という感じでラーメンを置く。


「危ないな」


「んで?」


「あ?」


「こんなところまで、追いかけてくるんだから、なんか訊きたいことがあるんでしょ?」


「ああ。俺とお前、なんでキスなんかしたんだ?」


「「え?」」


 と、なぜか厨房の方から聞こえる。


「ちょ、もうちょっと、静かにしゃべりなさいよ!」


「なぜだ?」


「き、気の迷いよ。私にも判らないわ」


「記憶はあるんだな」


「あるわよ。わ、私のふ、ファーストキスだったんだから」


「そうか、そりゃ悪かったな」


「そ、そうでも、ないんだけど……」


「ってことは、私が育てた恋心とか云々も覚えているんだな?」


「ば、バカ! そんなこと。あ、当たり前じゃない」


「でも、その時と今はとでは、その恋心とかはどうなんだ?」


「確かに、あの時は、すごいどきどきしたわね。ずっとあなたのことしか考えられないぐらいって、なに云わせんのよ」


「今は?」


「大っ嫌いよ!」


「「おお」」


 っと厨房で歓声があがる。


「そうか」


 僚はちょっと残念そうな顔をする。


「あんたあの時、云ってたわよね? あんたに触れた女は、あんたを好きになってしまうって」


「それも覚えているんだな」


「うん。あんたの云っていたことは、本当だったかもしれない」


「そうか」


「倉庫で触られてから、ずっとあんたのことしか考えられなかった。私どうなっちゃうんだろうって、ずっと考えてた。これも本当」


「……」


「でも、あんたの部屋でキスした時から、なんか、ぱきんっ! って感じで、なんか靄がなくなった感じで、それまでの感情が一気に覚めたというか」


「……、そうか」


「なんか残念そうね?」


「そりゃ、委員長のようなかわいらしい娘に好かれていたんだから、うれしくないわけないよ」


「バカ……。ファーストキスの責任とってね」


「え?」


 阿部がそういって出した伝票には、あっさりのラーメンが追加されていた。


「それ、おごってもらって、ちゃらにしてあげる。やさしい委員長さんに感謝しなさい」


「ああ」


 ◆


 時間は20時ごろ。僚は駅前広場の時計台のところを見ていた。

 そこには、違う学校の制服を着た梅田が立っている。

 その短めのスカートの所為で、長い足がより長く見える。

 そこへ、前とは違うオジサマが現れた。


「……」


 僚はその場からすぐに離れた。これ以上見ていられなかったのだ。


 ◆


 僚はパジャマ代わりにしているジャージに着替えて夕飯を食べている。

 母親の帰宅が遅くなるので、夕食は3人で順番に作っている。

 今日は美加の番だった。


「美加の味付けは濃いな」


「な、兄貴が薄味なんだよ」


「俺を醤油付けにして、早死にさせる気だな」


「それはいい案」


 由加がぼそっと云う。


「由加……」


 そんな会話をしつつ、阿部が云っていたことを思い出す。

 記憶はなくなっていない。でも感情はなくなっている。

 好きになったきっかけも覚えている。

 キスのタイミングでその感情がなくなった。


「でもなぁ、キスしてもそのままだったことの方が、多いんだよなぁ」


 僚はそのまま口に出していた。


「うは、お兄ちゃんの変態っぷりが出たよ」


「だよねぇ。複数の女の子にキスされまくっているのを妹の目の前で見せるんだから」


「仕方ないだろう。そういう力なんだから」


「こんな超変態の兄貴を持った妹たちのこともちょっとは考えてよね!」


「なにを考えるんだよ?」


「な、なんでもないよ!」


「でも、そう云えば、あの玄関でぶつかった娘、この家知っているのに、押しかけてこないね?」


 妹たちの経験上、家の場所を知られたらお終いというのがある。もうわんさか訪ねてくるのだ。


「ああ、なんだか知らないけど、あの娘は解除出来たんだよなぁ」


「「え?」」


 2人はびっくりしたように、僚を覗き込む。


「どうやって?」


「それが判れば、苦労しないよ」


「むー。それが判れば、もうこの転校生活もおさらば出来るんだよね?」


「そうだな」


「なんか思い当たる節はないの?」


「ないんだよなぁ」


「この無能兄貴っ!」


 僚は、夕食のリバースを我慢するのに必死だった。

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