表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たちきす  作者: 鷹玖
4話 「弁天 はるか」
14/17

4話 「弁天 はるか」 その3

 試験2日目。



(弁天の所為で、あまり勉強出来なかったな)


 僚は自分の能力を棚にあげて、人の所為にしてた。


「よう、調子はどうだい?」


 そう話しかけてきたのは、鴫野だった。


「いろいろあって、なかなか進まなくてな」


「やばいんじゃないの? うち進学校だから、1年の試験からやっておかないと、2年から大変になるぜ?」


「そうなのか、やっべーなぁ」


「お、そんなことより、今日もピンクだぜ?」


 よく考えると、鴫野が居る時にピンクな気がしてきた。


「今日は和馬と一緒なのね?」


 野田と京橋が振り向きながらそういう。


「偶然だよ」


 僚がそういうと、いつも反応する鴫野は黙っている。


「どうしたんだ?」


「いやな。そこは普通、『今日は青陵院君と一緒なのね?』じゃね?」


「え?」


「なにがだ?」


「や、判らないんならいい」


 鴫野はそういって、小走りに走っていった。


「お、おい」


「坂だから、おいつけねーよ」


 僚は鴫野の背中に叫ぶ。


「……」


 今度は、京橋が黙る。


「どうした?」


「あのバカ……」


 京橋もそう云って、坂を駆け上がっていった。


「なんなんだ一体?」


「僚クン」


 そういって野田が腕を絡めてくる。


「え?」


 野田はそういうことをしてこないタイプだと思っていたので、僚はびっくりした。


「ケーちゃんは、なんって云いました?」


「え? 確か『今日は和馬と一緒なのね?』かな?」


「そうですよ。それはつまり、僚クン目線なんですよ?」


「あ……」


「鈍い僚クンでも気づきましたか? 幼馴染の自分より、高々1週間程度の僚クン目線で、ケーちゃんは話しかけたんですよ?」


「あいつ、気のないこといって、やっぱり京橋のこと好きだったのか?」


「それもちょっと違うと思います」


「え?」


「鈍感ですね」


 野田はそう笑いながら絡めた腕を放して、坂を駆け登っていく。


「スカートは押さえろよ」


   ◆


 なんとか四教科の試験をなんとか終え、校門へ向かう。


(やばいなぁぜんぜん出来なかった)


 僚はそう考えながら、梅田のあとをつけていく。初めて尾行した時は、まかれてしまったが、今度は確実に成功した。

 梅田は巻場の制服のまま、最初に援交の現場を見つけたホテルに入ってく。


「ここはあのホテルだよな」


 ラブホテルではない普通のホテルだ。梅田とオジサマが最初に見たホテルだった。見た目はビジネスホテルといって良いだろう。


「毎日こんなところに来ているのか」


 そうひとりごちていると、ロビーから大正がきていたのと同じ中学の制服を着た梅田が出てくる。

 梅田に見つからないように再び尾行を開始する。

 梅田は例のあの時計台の下でとまった。


「……」


 まだ昼を少し廻った程度である。サラリーマンを客にするにはまだ時間が早い気がする。

 そんな心配をよそに、梅田は駅から出てきたオジサマに、今まで見たこともない笑顔で、手を振りながら近づいていった。


(なんでだよ)


 ぎゅっと、僚は拳を作る。


「なんでだよ!」


「え?」


 僚は声を出して叫ぶ。

 僚の横を通った人が、何事かと声をあげる。しかし自分に話しかけられたのではないと気づくと、すたすたと歩いてく。


「……」


 僚は梅田とそのオジサマの前に立つ。


「お前……」


「なんでだよ?」


「え?」


「なんで、そんなに自分の身を削れるんだよ?!」


「お前、なにを云っているんだ?」


「どうしたのかね? 君?」


 そのオジサマの声がどうにもむかつく。


「こ、この!」


 僚はそのオジサマに向かって、なれない拳を振るった。

 パシっ

 僚の拳はオジサマに届くことはなかった。


「お前っ!」


 梅田は軽く左手で、僚の拳をとまていた。


「なにやってんのか判ってんのか!」


 梅田はその体勢のまま膝を僚の鳩尾へ叩き込んでいた。


「ぐふ」


 僚はその場にうずくまる。


「……。いこう」


「あ、ああ」


「……」


「いいのかい?」


「いいんだよ」


 そんな会話がだんだん遠ざかっていく。


   ◆


 僚がとぼとぼ歩いていると、すっと腕を絡めてくる娘がいた。九条だった。


「な? なんだよ」


「私もこうしてみたかったの」


「『も』ってなんだよ?」


「今朝のこと知ってるよ。彩さんと腕組んで歩いていたって」


「『知っている』ってことは、見たわけじゃないんだな。ってことは、お前の知り合いがこの学校にいるってことだ」


「お、なかなか切れるねぇ。恋愛ごとには疎いのに」


「云うなよ」


「さっきはおじさんに殴りかかってたけど」


「見てたのか?」


「あれ、援交の相手かな?」


「……」


「でもあの人も昼間っからお盛んよねぇ」


「……」


「あれ? 無口ね? もしかして僚さんの本命ってあの娘なのかな?」


「……」


「まぁ、だめだった時には、また私で我慢してね」


「お前はいいヤツだな」


「でしょ? うふふ」


「でも、家までは連れていかないぞ?」


「あ、ばれてた?」


「俺の能力に捕らわれたヤツってのは、俺んちに来ようとすんのな」


「確実にいるからじゃないの?」


「その所為で何回引っ越ししていると思ってんだよ?」


「えーー。私の所為じゃないもん」


「まぁ、そうだな」


「でもいいじゃん、妹の同級生の娘も毒牙にかけたんでしょ?」


「毒牙って……。なんで知ってんだよ」


「えへへ……、内緒」


「その娘、もう家、知っているんでしょ?」


「ああ」


「なら、今日はもういるかもね」


「あ、そうか」


「私も一緒に能力解除の方法を探してみる」


「ち、物は言いようだな」


  ◆


 アパートの階段を2階へ上ると、玄関の扉に寄りかかって、弁天がいた。


「あ、おかえりなさ……い……」


 弁天は腕を組んでる九条を見つけると、ちょっとどもった。


「私、九条オエステ。僚さんの恋人っ!」


「違うだろ」


「んじゃ、正妻っ!」


「こらっ!」


「な、なら私は愛人でいいですっ!」


「なにを云っているんだはるか」


「あら? もう名前で呼ばれているんだ? 私はまだ“九条”なのに?」


「いいだろ別に」


「だーめ。オエステって呼んで!」


「判ったよ」


「うれしー」


 家はまだ妹たちが帰ってきてないようだ。


「で、2人して俺に抱きつかないでくれる?」


「しょーがないじゃん、取られちゃうんだもん」


「はぁ」


「そうだ、はるか。昨日言い忘れていたことがあるんだ」


「なんですか?」


「あ、ばらしちゃうんだ?」


「仕様がないだろ? まずは話さないと、話が進まない」


「そうねぇ」


「話ってなんですか?」


「今からいうのは、ウソじゃないぞ?」


「判りました」


「俺には、生まれつき変な能力があって、俺が触ってしまった女の子は、俺のことを好きになってしまうっていう力だ」


「あはは。ウソくせー」


 そう九条が笑いながらいう。


「お前が云うな」


「……」


「信じられないと思うけど……」


「信じるよ。おにーさんのいうこなら。なんでも」


「あら、一途」


「そ、そうか?」


「うん、私が触ったから、私がおにーさんのことを好きになったと、云うんだよね?」


「まぁ、そうなるな」


「でも私は、8年前からおにーさんを好きだったの」


「あら。私と一緒。私は触られてちゃったんだけどね」


「私は、そんな能力が原因じゃなくて、本当に好きだった。でも昨日触ってから、もっと好きになったの」


「そうか。あと、これはオエステにも話してないことなんだけど」


「え?」


「俺に触れたヤツ同士は、いがみ合ったりしないんだよな」


「あら。都合のいい能力」


「普通なら、この現場は修羅場だよな?」


「まぁねぇ」


「私、九条さんのこと、好きになりそうですよ」


「私もはるかちゃん、大好き!」


「んで、それはともかく、今、オエステと協力して、この能力を解除する方法を探しているだ」


「そんな方法あるんですか?」


「ああ。実は、もう一人、俺のクラスの委員長に触ってしまったんだけど、なぜか解除されちゃったんだよな」


「ホントですか?」


「ああ。それがこの場所なんだ」


「あきれた。あの阿部さんもここへ連れ込んだの?」


「違うよ。あいつが勝手にここに来たんだよ」


「まぁいいわ。で、そこでキスしたら、解除されたのね?」


「ああ」


「ってことは、場所も条件にあるかもしれない?」


「ああ」


「まぁ、やってみる価値はあるわね」


「ちょっと待ってください」


「どうしたのはるかちゃん」


「私、ここでキスしましたよ? 昨日」


「あっ!」


「あきれた、もう忘れてるの?」


「す、すまん」


「ってことは、場所は関係なのか」


「あのすみません。その、キスして解除されたとして、おにーさんを好きだという感情が消えちゃうんですよね?」


「記憶は残るから、触る前の好きだという感情は残ると思うけど?」


「本当ですか?」


「まだ、1人しか解除されてないし、阿部は俺のこと、嫌いに、は、なって、たかな?」


「なら私、いやです。キスしません」


「え?」


「おにーさんを好きでいたいの。だから解除したくない」


「でもなぁ」


「私はいいよ。新しい条件ではまだだしっ!」


「なんでうれしそうなんだよ?」


「たぶん解除されないし! はい!」


 そう云って九条は唇を突き出す。


「バカか」


「はーい!」


 唇がどんどんとがっておちょぼ口になる。


「あ、そうか!」


 僚は、阿部と九条、弁天との差を思い出した。


「そんなこと云って惚けてもだめー。ぶちゅー」


 しかし、僚はそのまま押し倒され、床に転がる。

 その激しいキスを見て、弁天は顔が真っ赤になる。

 九条はそのまま僚のシャツを脱がしていく。


「むーむー」


 僚は抵抗するが、九条の力は強い。


「これは以上はだめですーー」


 そう云って弁天は九条を突き飛ばした。


「ふー」


 僚はようやくまともに息が出来た。


「もうちょっとでいただけたのに」


「お前は大胆すぎるぞ?」


「えへへ」


「んで?」


「は?」


「『は?』じゃねーだろ、解けたのかよ?」


「解けてるわけないじゃん」


「ち、だろうと思ったよ」


「んで、あんたはなにを思いついたの?」


「え?」


「私がキスする前、誤魔化すようになんか思い出したじゃん」


「ああ。そうだ。俺が野田にキスした時は、俺からしたんだった」


「「なんだってーー!!」」


 弁天と九条が同時に叫ぶ。

 なんつー近所迷惑なやつらだ。


「ならそれもテストしてみよう。はい!」


 九条はそう云って唇を突き出す。


「だめです。今度は私です」


 そうって、弁天は割り込んでくる。


「あれ? はるかちゃん、キスで解除されちゃうのが怖いんじゃないの?」


「大丈夫です。おにーさんへの愛の力が勝ちます。はい!」


 そうって弁天も唇を出す。


「お前ら」


「うきうきわくわく」


「なんで、お前はわくわくしてんだ?」


「そりゃこういう現場なんて、そうそう立ち会えないじゃん」


「意味わかんね」


 僚はそう云いながら、弁天と唇をそっと重ねた。


「……」


「……」


「……」


「なにも起きないじゃない」


「……」


 僚は唇を話し、弁天の目をじっとみる。


 おっけぇの目だった。


 僚が躊躇していると、今度は弁天から唇を押し付けてくる。


「むーむー」


「あーずるい。私も激しいキスしたい!」


 九条そういって、ズボンのベルトに手をかける。


(そこはだめだー)


 ごごごごごごご


 なんか激しいオーラを感じる。


「お兄ちゃんは、よっぽど死にたいようね!」


 その殺気を感じたのだろう。2人は飛び跳ねて、後退りする。


「今度は、2人も連れ込んでっ!」


「どうなるか判っているんでしょうね!」


 僚はしばらくしゃべることが出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ