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たちきす  作者: 鷹玖
4話 「弁天 はるか」
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4話 「弁天 はるか」 その1

 金曜日の朝。 妹2人は自分のベッドで寝ていた。

 僚は久しぶりに普通に起きることが出来た気がした。

 適当に朝食をすませ、家を出る。

「おはよう阿部」


「おはよう」


「また昼休みな」


「うん」


 僚から会話が聞こえないだろうところまでいくと、


「なぁ、いいんちょ」


「なに?」


 鴫野が阿部に話しかける。


「毎度毎度、昼休み、なにを話しているんだ?」


「え?」


「青陵院とよく校舎裏いってるよな?」


「じ、人生相談かな?」


「人生相談? 今流行の?」


「流行? はやってるの?」


「さぁ」


「……」


  ◆


 僚が後者裏へいくと、既に阿部がいた。


「九条とキスしてきたんだけど」


「唐突に恥ずかしいこと云うわね?」


「だめだった」


「え?」


「ちゃんと事情を説明して、キスしたんだけど。解除されなかったみたいだ」


「そう。やっぱり見当違いだったのかしらね」


「ごめん」


「別に……、あんたの能力のことだし、私は関係ないし」


「そ、そうか」


 その会話に割り込むように、


「そう云うわけにはいかないんじゃなくて?」


 その声は、この場所にはありえない少女のものだった。


「九条……」


 九条は、自分の学校――お嬢様学校の制服を着ているので、この巻場高校ではかなり浮く。


「あんた学校はいいの?」


「サボり」


「いいのか?」


「いいのよ。私、成績優秀だし」


「そんな問題じゃないだろ。その制服は目立つし、どうやってここまできたんだよ?」


「別に? 鴫野くんを見つけて、僚さんはどこ? って訊いたらここを教えてくれたよ」


「あ、あいつ。盗み聞きしてないだろうな?!」


「そこは、信用してあげてよ? 彼はそんなことする人じゃないよ!!」


 僚と阿部はわざと大きな声でいう。

 カサカサ……


「でかいねずみだなっ!」


 もう音は聞こえない。ヤツもここまで云えば、盗み聞きはしないだろう。


「もしものために、小声でいくかな……」


「あらためて自己紹介するわ。私は九条オエステ。スペイン人と日本人のハーフなんです。よろしく」


 九条は、その独特な碧眼を輝かせる。


「よろしく。私は、阿部つかさ」


「阿部さんね。僚さんの能力を解けた唯一の女の子ね」


「そう云うことになるのね」


「私はまだ解けてないの。かれこれ僚さんを好きでいて8年になるわね」


「じゃぁ、小学生のころ?」


「うん。やり逃げされちゃった!」


「ちょ、おま!」


「やり逃げって、青陵院君っ!」


「小学生が、やり逃げなんてするか!」


「冗談ですよ。まじめなんですね、阿部さん。委員長みたい」


「実際、委員長だしな」


「あ、そうなんだ」


「別に、お堅いとか思ってないし、学校ではキャラ作ってるし」


「あはは、そうなんだ。で、僚さんは、阿部さんのファーストキスを奪っちゃったわけね」


「ば、ちょ」


 阿部は顔を赤くし、


「九条さんは、どうなの?」


「もちろん、ファーストキスだったよ。昨日したほかほか」


「ってことは、ファーストキスが条件とかもないのね」


「んでも、8年間好きな人がいるんだもの、ほかの人を好きになれないわ」


「え? じゃ、ほかの人も、ずっと青陵院君を待っている人がいるってことなんでしょうか?」


「そうかもしれないね。私は偶然、再会出来たけど、僚さんが、触りまくった女の人は、一途に僚さんを待っているかも」


「……」


「それは、ある意味、やり逃げよりひどいかも」


「考え方によってはそうねぇ」


「下手したら、人生台無しになってるかもしれないわね」


「……。俺、今まで自分が逃げることしか考えてなかった」


「え?」


「そんなに思いつめなくても……」


「いや、確かに、俺の所為で、人生台無しになっているかもしれない女性がいるかもしれないんだな」


「いや、確かにそうだけど、私はそんなに思いつめてなかったよ?」


「ごめん、九条。8年もほったらかしにして」


「いや、そこまで責め立ててるわけじゃ……」


「なんとか解除の方法を見つけて、みんなに会いに行くよ」


「え?」


「覚えている限り……。みんなのところへいかなくちゃ」


「……」


「天王寺に、平野ちゃん、加美さんに、久宝さん、東部に八尾だろ? それに……」


 九条のパンチが先に当たったので、阿部のチョップは当たらなかった。


「こいつはいっぺん死んだ方がいいな」


  ◆


 土曜日。勉強するために、早めにアルバイトを切り上げ、自宅への帰路の途中。


「おにーさん」


 そう声をかけてきたのは、妹たちの友達の弁天だった。


「確か弁天だっけ?」


「そんな苗字なんて、他人ぽいのいやです」


「えっと、はるかちゃんだっけ?」


「です。覚えてくれてありがとう。私は、おにーさんって呼びますね」


「まぁ、別にいいけど」


「今日はどちらに?」


「アルバイトの帰り。来週は期末試験なんで、早めにあがらせてもらったんだ」


「へぇ。ってことは、帰る途中ですか?」


「そうだよ? うちによっていくかい? 妹たちがいると思うよ?」


「由加ちゃんたちがいると、おにーさんをガードされちゃうので、いいです」


「そうか」


「それより、これからどこかいきません?」


「話、聞いてた? これから試験勉強しないと……。なんのためにアルバイトきりあげたからなくなるよ」


「そっか残念です。おにーさん、知的な感じですから、少しぐらいサボっても大丈夫だと思ったんですけど。そうですか、勉強ですか。大変ですね。折角こんなかわいらしい娘が誘っているのに」

 そういいながら胸の辺りを広げる。


「そんなんで誘ってもだめだよ。おにーさんはね、もっといろいろな色香に惑わされないように、いろいろ修行したんだ」


「しゅぎょーですか?」


「そう、だからうちの妹たち程度のプロポーションじゃ、なんにも反応しないんだよ?」


「そうですか、なら!」


 パンといった感じで足払いをされる。

 あ、触った?


 僚がそう持った瞬間空が見えた。

 その空が見えたと持った時、ふさっとした感じの音がしたかと思うと、目の前が真っ暗になった。


「な」


 やっちゃったか?


「兄妹でなにを隠しているのか判りませんけど、そんなこと、どうでも良くなりました」


 顔の上の方から声がする。真っ暗でよく判らないが。


「なにがどうなって」


「今、もっとおにーさんが大好きになりました!」


(ああ! やっちゃった)


 だんだんと暗闇に目がなれてきた。


 僚の目の前にあるのは、ピンクと白のストライプ柄のパンツだった。


 弁天は倒した僚の顔の上をまたいで座っていた。スカートのまま。

 しかもここは高校近くの坂道だ。

 やばい、この状況は非常にやばい。

 そして身体は正直で、間近で甘酸っぱい臭いを感じると、高校生なら当然の反応が。


「お、おにーさん。お外ですよ! 私は構いませんが」


「なにを云ってんだ、早くどけ!」


 僚が無理矢理起きるので、鼻が大事なところに当たる。


「やん」


「なにが『やん』だ。早く帰れ!」


 スカートがまくれないように、気を付けながら立つ。


「え? おにーさんちに?」


「俺んちには、『帰る』とはいわん。お前んちだ」


「えー、もー、こういう仲じゃないですかー」


「どういう仲だ」


「こういう仲ですよー」


 そういいながら腕を絡めてくる。

 ヒソヒソ

 周りからはなんか変なウワサを立てられている気がする。

 今日が土曜日でよかった。

 学校の連中に見られたらもっとまずいことになる。

 どんどん最短記録を更新しそうな勢いだ。


「あーもう!」


 僚はそう云って、弁天を振りほどき、全力で駆け出していた。


「今日は許してあげます。うふふ」


 ゾクゾク

 僚の背中に悪寒が走った。


(まずいな、弁天は、うちのアパートを知っているじゃないか)


 能力の解除方法を探しているのに、被害者を増やしてどうする。

 そう考えたが、


(サンプルが増えたと考えてもよさそうだ)


 ちょっと、鬼畜な考えも浮かぶ僚だった。


 日曜日。試験勉強の気分展開に、丘を上る。朝から昼になりかけの7月の空気は涼しかった。

 そこには、あの個人情報泥棒少女がいた。


「誰が、ドロボーか」


「なにも云ってないが、ってお前、人の心よめるのかよ!」


「んなこと、あるわけないぞ」


「俺の名前を教えたんだから、お前も教えろよな」


「えー、それナンパ?」


「ナンパじゃねーよ。お前中学生だろ?」


「なんで判るんだ?」


「前に会った時、中学校の制服着てたじゃないか」


「あれ、そうだっけ?」


 今日はタンクトップ1枚でスポーツブラがちらりと見えてる上半身と、ホットパンツ姿だった。

 肩から二の腕が全部露出している上に、太ももから下も全部、見えている。

 少し褐色の肌をしていて、日焼けしている感じだ。


「なかなかボーイッシュだな」


「だろー。えへへー」


「ポニテがいい感じだ」


「そうか?」


「ああ」


「のぞみ先輩みたいになりたくてな」


「梅田か」


「ああ」


「お前、あいつ知っているのか?」


「知っているもなにも、ボクの命の恩人だよ」


「え?」


 命の恩人とはまた大仰な。


「いろいろあってな。ボクを助けてくれたんだ」


「……」


「今は学校にいっているんだろ?」


「ああ」


「ならいいんだ」


「梅田が、休んでいる間。なんかあったのか?」


「……内緒だよ」


「お前の名前もか?」


「大正」


「え?」


「大正つーんだよ」


「名前は?」


「そっちは内緒だ。まだな」


「まだ……か」


「じゃ、な」


 そういって大正は階段を降りていった。

 梅田が学校を休んでいた3ヶ月間。なにかあったのは確かだ。クラスの連中は梅田のことを悪く云うが、入学式になにかがあって以来、学校に来ていなかったことを考えると、クラスのこととは、関係ないなにかが起こったのかもしれない。

 担任の城園の反応もクラスの問題児が登校してきたという雰囲気ではなかった。

 それは城園の性格から来ているのかもしれないが、少なくともクラスの連中が梅田を阻害している感じを城園は持っていない。

 クラスの雰囲気を感じてはいるだろう城園があえてなにも云わないのは、クラスを尊重しているのか、梅田が解決するのを望んでいるのか。


「俺のいなかった入学式になにかあったのか調べる必要があるな」


 月曜日。期末試験初日。

 得意の数学Iと苦手の英語文法、どちらでもない漢文そして美術の試験があった。

 僚はジャイアンクラスの音痴なので、専攻は美術を選んでいた。


「英語は赤点ギリだな」


 僚は、簡単に編入したよう云っているが、実は英語はぎりぎりだったらしい。

 試験は午前中に終わった。学食は、お昼を学校で摂る人のために開放されている。

 しかし僚はお昼を摂るために、商店街へ向かった。

 天一のラーメンをお昼とすることにした。

 試験週間なので、当然、阿部はいなかった。


「いらっしゃいませ」


 阿部より愛想のいい女性店員がカウンター席へ案内してくれた。

 阿部ならいつも自分も座るためにテーブル席へ案内してくれるのだが。

 よく考えれば、店員としてあるまじき行為である。

 がんっ!

 と、そんなことを思っていると、水の入ったコップを勢いよくテーブルの上に置かれた。


「ご注文は?」


「え?」


 そういってきたのは、ごついにーちゃんだった。


(さっきの愛想のいい娘は?)


 店内を探してみると、別の客の応対をしている。


「あ、こってりの大盛りで」


「ありがとうございます。こってり大盛りでございますね?」


「はい」


「なぁ、にーちゃん」


 その店員が話しかけてくる、


「つかさちゃんの彼氏なのか?」


「え?」


「彼氏なのか?」


「ち、違いますよ。彼女はクラスの同級生ですよ」


「本当か?」


「はい。それ以下でもそれ以上でもありません」


「そんな仲で、き、き、き……」


「きき?」


「キスなんてするのか?」


「は?」


「お前たち、この前、話していた」


「ああ、たぶん聞き間違えだと思いますよ?」


「本当か?」


「ええ、タダの同級生が好きでもない相手にキスしないでしょ?」


「そ、そうか」


 ふう。

 僚はそう安心していると、いきなり胸倉をつかまれて持ち上げられる。


「いいか! あんないい娘! ほかにいなんだ! いくら同級生と云え、あの娘を泣かすようなことをしたらタダじゃおかないからな!」


「は、はい……。肝に銘じておきます……」


 そう答えると、どんとお尻から椅子に落ちる。

 そういや、むかし間違って触っちゃった彼氏ずれの女の人いたよなぁ。よく今みたいな状態になったもんだ。


「にーちゃん、すまなかったな。今日は俺のおごりだ。食べていきな」


 今日のラーメンはあまりおいしくなかった。


「阿部ってここでは人気あるんだな」

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