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たちきす  作者: 鷹玖
3話 「オエステ・九条」
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3話 「オエステ・九条」 その3

 僚が校舎裏にいくと、既に阿部がいた。


「ごめん、待たせたみたいだな」


「いえ、そんなに。それより話って?」


「あの九条って娘いたろ? 野田んちのアルバイトの娘」


「うん」


「実はあいつ、小学生のころ、俺が触ってしまった娘の1人だったんだ」


「え?」


(またライバルが増えた?)


「どうした?」


「いえ、こちらのことよ。で?」


「そこでだな。あいつには、その小学生のことに、俺の能力を話してあるんだ」


「ほう」


「だから、この状態でキス出来れば、解除出来るかどうか判る」


「確かに、能力の説明が条件なら、そうかもしないわね」


「なんだよ。阿部がいい出したんだろ?」


「あの時は、そう思っただけよ。でも実際、いろいろ考えたんだけど……」


「なんだよ?」


「あなた、過去何人の女性に言い寄られたの? あなたのその能力、触っただけで、虜に出来るのなら、もう相当数よね? 16年近く生きているわけだから」


「そうだな、下手をしたら俺が生まれた時、取り上げた看護婦とかも、虜にしてるかもしれないな」


「バカね」


「な、仕様がないだろ?」


「つまり、能力の話をしている人も相当数?」


「ああ」


「ってことは、能力の話をしてからキスしたってこともあるんじゃないの?」


「その可能性も否定出来ないけど、当時はそれを考えてキスしてたわけじゃないからなぁ」


「もう、変態ね」


「変態ゆーな」


「――あなたが、その能力に気づいたのは、いくつぐらいの時なの?」


「んー、小2ぐらいの時かなぁ。なんか妙に女の子が迫ってくるなって思ったのが」


「女の子の方がおませさんだからね。男子は気づかないでしょうし」


「そう考えると、幼稚園の時も、保母さんにいじられていたきがする」


「え? なにを?」


「なにって、身体をだよ?」


「そ、そうよね? ヤダ私……」


「園児の股間は面白くないだろ?」


「直球すぎ!」


 阿部は思わずパンチを出してしまった。


 慣れている僚は軽くかわすのだった。


「この! また触ってやる!」


 そう云って、阿部は僚に駆け寄る。


「よせ! いんちょ!」


 僚は逃げる。


「いいんちょはよせ!」


「仲いいよなぁ」


 その光景を鴫野は見ていた。


  ◆


「九条、ちょっといいか?」


 野田の喫茶店。事務所で待っていた僚は、九条を見かけて、そう話かけた。


「なに?」


「ちょっと重要な話なんだ」


「え?」


 そうって、ウェイトレス姿に着替える前の九条を連れて、店に出る。


「お母さん、すぐ戻ります」


「はいはい、がんばってね」


(なにをだよ)


 僚はそう突っ込んでいた。


「野田。ちょっと部屋借りるね」


「え?」


「少しだけだから」


「なんだろ?」


 京橋がそう云うと、野田も疑問符を並べていた。


「うふふ」


 にやけているのは、野田の母親だけだった。


  ◆


「なんです?」


「……」


「アルバイト先の、友達の部屋で初体験ってのもオツなものですな」


「なにを云っているんだ」


「え? それが目的じゃないんですか?」


 そう云って、九条は野田のベッドに座り、スカートとパタパタする。


「残念ながら今日は勝負パンツじゃないんですよね」


「知らんがな」


 白い普通のパンツが見え隠れする。


「実は、九条にお願いがあってだな」


「いいですよ? 童貞卒業のお手伝いでしょ? あ、でもその変な能力があるから、既に童貞じゃないのかな? ならなんだろう?」


「そんな目的じゃないし……」


「え? ならなんなんでしょう? もっとすごいこと? 僚さん。変態さんですし?」


「だから、そっち方面から考えを離せ!」


「え? エッチ方面じゃないの?」


「俺の今後の人生にかかわることだ!」


「今流行の人生相談ってヤツですか?」


「流行? はやっているの?」


「さぁ」


「……。俺のこの能力のことなんだけど」


「うん」


「実は最近、解除出来たヤツがいるんだ」


「え?」


「この前、九条とすれ違ったヤツがいただろ?」


「一昨日ですかね? あの委員長ぽい人」


「ああ。あいつだ」


「ほうほう」


「あいつは、阿部っていうんだけど、阿部に誤って触れてしまって、あいつが俺のことを好きになるってのは判るよな?」


「僚さんのへんてこな能力ですね」


「んで、俺の部屋に来て、キスしたら、その能力が解除されて、今度は嫌われた」


「嫌われた? そんな風には見えなかったけど?」


「いろいろ和解してな。今は、相談相手になっている。この状況を理解してる娘の1人だからな」


「でも、変ですね? キスした程度で解除されるのなら、今まで判明されていてもいいですよね?」


「ああ」


「あ、判りました。私とはキスがまだですから。私で試験したいと?」


「ああ」


「いやですよ」


「え?」


「だって、キスされちゃうと、僚さんのこと、嫌いになっちゃうかもしれないんでしょ? 私、好きでいたいもの」


「でも、今のお前の気持ちは、俺の変な能力の所為なんだよ?」


「んー。そうかもしれないですけど、結果キスされちゃって、僚さんのことを嫌いになったら、僚さんは、こんな風に、私を構ってくれないでしょ?」


「そりゃ、避けるようになるかもな」


「それはいやです。私が僚さんのことを嫌って、避けるようになっても、私のことを構ってくれます?」


「ああ、約束するよ」


「本当ですか? 少し信じられない」


「大丈夫だと思うよ。阿部だって記憶が混乱するとかなかったし」


「え?」


「全部覚えているんだよ」


「覚えている?」


「キスした前後の記憶がなくなるとかなくて、自分の気持ちが、どうだったかも覚えているから、今かわした約束も忘れることはない」


「判りました。説得されちゃいます」


「ありがとう」


「今からファーストキスをするための口説き文句が記憶が残るから大丈夫とか、とてもロマンチックじゃないですけど」


「そりゃすまなかったな」


「でも、小学生時から好きだった男とキス出来るんですから、うれしいです」


「ありがとう」


 九条はそういって、僚の首に手をまわす。


「さよなら、私の大事な心」


 そう云って僚と九条は唇を重ねた。


「……」


「……」


「なにも起きない?」


「どうなれば? 解除されたって判るの?」


「なんか、ぱきんって音が頭に響くらしい」


「そんなことなかったけど?」


「じゃ、失敗なのか!」


「そう、なんでしょうか?」


「えぇぇ。きっとこれだと思ったのに!」


「私はよかったです」


「え?」


「僚さんを好きだって気持ちがなくなっていないこと」


 そう云って、九条がまた抱きついてきて、再び唇を重ねてくる。


「むぐぅ」


 僚は息が出来なく、苦しいだけだった。


  ◆


「あんた、彩の部屋で、いかがわしいことしてなかったでしょうね」


 京橋がそういいながらすごんでくる。


「なんだよ? いかがわしいことって?」


「そんなこと、逆に質問して、嫌みったらしい!」


「京子さん、僚さんとは、なにもありませんでしたよ」


 そう九条がフォローしてくれる。


「ただ」


「……ただ?」


「あなたたちより、ほんの少し、一歩先にいったぐらいですから」


(フォローになってないし)


「え?」


 そう野田は困惑の声をだし、


「一歩?」


「そう、一歩」


「このー!」


 そう云って、京橋はなぜか僚に飛び掛る。


 僚はその攻撃を食らうわけにはいかないので、必死に回避していた。


「もう。ケーちゃんやめてー」


「なんかねー。僚クンの仕草がおかしいのよね?」


「え?」


 そんな変なことを野田の母親が云う。


「仕草っていうか、態度っていうか」


「どう云うこと?」


「私や、ケーちゃんが近くに居る時は、すごい警戒しているんだけど、彩が近くに居る時は、そうでもないんだよね」


「え?」


「だから私はてっきり、彩が本命なんだと持ってたんだけど」


「けど?」


「好きとか嫌いとか、そういうレベルで避けてると云うわけじゃないっぽいのよねぇ」


(さすが大人の観察力)


 事情を知っている九条はそう思った。

 自分を含めて、このままの関係がいいわけがない。


(京子さんが本当はどう思っているか判らないけど、僚さんに触られて好きになった私と彩さんという三角関係は少なくとも、また僚さんの生活を破滅に追い込むかもしれない)


 九条は僚が小学生の時、転校してしまった時を思い出した。

 また同じことを繰り返させるわけにはいかない。

 キスで解除出来なかった九条、出来た阿部。

 この2人の共通点の相違点を調べる必要がある。

 九条はそう考えるようになった。

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