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たちきす  作者: 鷹玖
3話 「オエステ・九条」
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3話 「オエステ・九条」 その2

 水曜日。妹たちの色仕掛けになんとか耐え、坂を登っていると、目の前には、ピンク攻撃があった。


「今日は色仕掛けの日かよ」


「ピンクの時に、よく会うね!」


「なぜなんだろうね!」


「知らん」


 いつもなら2人は走り去るのだが、今日は僚をはさむように、並んできた。


「昨日、オエステちゃんと帰った時、なにもしてないですよね?」


 そう野田が云ってくる。


「なにってなんだよ?」


「なにって……」


 そう云って、さらに赤くなる。


「なにもしてないよ。ちょっと話しただけだよ。実は同じ小学校で幼馴染だったってのが判ったぐらいかな」


「「え?!」」


 野田と京橋が大声で叫ぶので、周りの生徒に注目される。


「幼馴染?」


 ――と京橋。


「また、強力なライバルに新しいステイタスが! どーするケーちゃん」


「私に振らないでよ! 私関係ないし!」


「その席は、俺の席だったのになー」


 後ろから鴫野が話しかけてくる。


「席って」


「まぁ、お前はいいヤツだから譲るよ!」


「意味判んねって」


「幼馴染って、誰と誰とが?」


 鴫野がそう質問する。


「僚クンとオエステちゃん」


「オエステって野田んちのアルバイトのハーフ?」


「うん」


「へぇ、意外と世間様ってのは狭いんだな」


「幼馴染っても、九条のいた小学校には、1年ぐらいしかいなかったからなぁ」


「ホント、よく転校してるのね」


「ああ」


「でも偶然ってあるもんなんだね」


「幼馴染って強力なステイタスなのか? なら俺とケーケーだって、相当な関係になってないとな」


「あんたとは、腐れ縁って感じよね?」


「つれないなぁ」


「あはは」


 水曜は野田んちの喫茶店が定休日だったので、必然的にアルバイトも休みになる。


  ◆


「ただいまー」


 久しぶりに日の明るい時間に家に帰ってきた。


「おかえりー」


 2人の妹と見知らぬ女の子がいた。


「ん?」


「あ、この娘は、弁天ちゃん。弁天はるかちゃん」


「あ、おにーさん、お久しぶりです」


「はるかちゃんか。よろしくね」


 妹と同じ中学の制服を着ている。


 ショートカットでジャギーが入ってる感じだ。


 ボーイッシュな髪型にしては、大人し目な感じがする。


 妹たちは既に私服に着替えていた。


「え? お久しぶりって?」


 違和感のあるフレーズだ。そのことを弁天に訊こうとしたら、


「今日は早かったのね?」


 と、美加がさえぎる。


「あぁ、アルバイトが休みだったんだ」


「なんだ。ならお外で遊べばよかったね。はるかちゃん」


「え、いいよ」


「うち狭いし」


「あ、なら俺が出ていくよ」


「え?」


「この狭い部屋に4人は、息苦しいだろ?」


「そ、そんなことないです」


「おにーちゃんは、自分のベッドにいて」


「判ったよ」


「な、なんで服、脱いでいるの!」


「え? 制服からジャージに着替えないと」


「はるかちゃんのいないところでやってよ」


「どこで着替えるんだよ。そんなとこねーだろ」


「お外!」


「あほか」


 僚はそう云いながらも、無理矢理着替えた。


「もー、セクハラで訴えてやる」


「ね? はるかちゃん」


「そ、そんなこと」


 弁天はそういいながら顔を真っ赤にしていた。


「そだ、はるかちゃん。お兄ちゃんに絶対触っちゃだめだよ?」


「え?」


「うんうん、変態がうつっちゃうからね」


「変態?」


「誰が変態だ!」


「お兄ちゃん」


「兄貴!」


「はいはい」


「返事は1回!」


「うふふ」


「どうしたの?」


「いいな、やさしいお兄さんがいて」


「え? やさしい?」


「タダの変態さんだよ」


「変態はよせ」


「うふふ」


 うちにはテレビゲーム機みたいな高級な遊具はないので、トランプや人生ゲームをして遊んだ。


 当然弁天には触らないようにしていた。


 トランプでババ抜きやポーカーをしても触らないように細心の注意をはらう。


 その違和感を弁天は感じ取ったんだろうか?


「トイレいってくる!」


「私ジュース取って来る」


 美加と由加がそれぞれ席を離れると、


「あの、おにーさん?」


 と、弁天が話しかけてくる。


「ん?」


「なんで、私に触れようとしないんですか?」


「なんでって、そう簡単に女の子に触っちゃまずいだろ?」


「でも、お兄さんは、意識してわざと触らないようにしている感じがします」


(鋭いな)


「そうかい? 気の所為だと思うよ」


「触ると、どうにかなっちゃうんですか?」


「なにを云って?」


「由加ちゃんたちも、いきなり触るなっていうの、なんか違和感があったし」


「え?」


(あの会話で違和感を覚えるのか。鋭いな、この娘)


「なんか、秘密の臭いがします」


 そう云いながら、ベッドに座っている僚に、迫ってくる。

 四つん這いになりながら。


「なにか、兄妹して、私に隠してません?」


「な、なにも隠してないよ」


「触っちゃおーかなー」


 前言撤回。この娘は大人し目じゃねー。


「はるかちゃん?」


「お兄ちゃん! なにやってるの?!」


 そこへ2人の妹が戻ってきた。


「なにもしてませんよ」


「ふー、助かった」


「お兄ちゃん!」


「兄貴っ!」


 2人が同時に叫ぶ。


「「な・に・を・し・て・い・る・の・か・な」」


「なにもしてません!!」


 僚はあわてて部屋を出ていった。


(ちょっと意地悪しちゃったかな?)


 弁天はそう思いつつ舌を出していた。


  ◆


 僚は部屋から飛び出し、あの丘の階段を登っていた。


「えらい目にあったな」


 そう考えつつ、いつもの癖で、段数を数える。


「101。やっぱ101あるよなぁ」


 そう云って、頂上の小さな公園を眺める。

 あの白いワンピースの娘はいなかった。

 初日、この町へ越してきた初日に会って以来、あの娘には会っていない気がする。

 クラスの梅田とあの白いワンピースの娘とは同じ娘なのか。

 ちゃんと本人の口から聞いてない。

 援交のことも、ちゃんと聞いてない。


「梅田のぞみか」


 僚は思わず口に出していた。


「え?」


 声がしたので、その方向を見てみる。

 そこには、梅田が時計台の下ので人待ちしている時に着ていた制服と同じ制服を着た、ポニーテールの少女だった。この娘の制服のスカートも短い。


「のぞみ先輩を知っているか?」


「え? 誰?」


「質問しているのは、ボクだ」


(女の子なのに、ボクかよ)


 僚はそう思いつつ。


「知ってるよ。同じクラスだ」


「本当か?!」


「ウソついてどうすんだよ」


「毎日学校に行ってるか?」


「ああ、毎日きてるよ(放課後はなにやってるか知らないけどな)」


「え?」


「いや、なんでもない」


「そうか」


 そう云いながらそこ娘はさびしそうな顔をした。


「そう云う前は誰なんだよ?」


「誰でもいいだろ?」


「おいおい、そりゃないだろ」


「ならお前から話せよ」


「たく、口の悪いちゅーがくせいだな。俺は青陵院僚。最近ここら辺に引っ越ししてきて、巻場高校に通う1年生だ」


「ふーん」


「お前は?」


「内緒」


「なっ!」


「あはは。個人情報は大事にしろよ!」


 そう云ってその少女は、踵を返して101段ある階段を降りていった。


「そりゃないだろう」


 僚はそうつぶやき、その少女を見送っていた。


 ある程度階段を降りたところで、その少女は振り向き―


「あいつが、青陵院僚か」


 ――そうひとりごちた。


  ◆


 木曜日。毎日のエルボー攻撃から、色仕掛けに変わって、別の意味で苦労するようになった朝。


「なぜ狭いベッドで寝るんだ?」


 夜は上の段で寝ている2人が朝起きると、左右にいる。

 ベッドにもぐりこまれても気づかない僚も僚であるが、血のつながっている妹が好いてくれてもあまりうれしくない。

 萌えてはいるがな。


「「どっちだよ」」


 と寝言で妹たちが突っ込む。


「寝言で心を読むな!」


  ◆


「おはよ。阿部」


「おはよ」


 僚が挨拶をすると、今日の阿部は挨拶を返してくれた。


(少し進展したかな)


「昼休み、また頼むな」


「え?」


「校舎裏!」


「え、ええ」


 僚が離れていくのを見送りって居ると、


「阿部はよく判らんな」


 鴫野がそう話しかけてきた。


「あんなにラブラブ光線出してたのに、ちょっと前は無視してて、今は普通に話してる」


「なによ?」


「青陵院となんかあったのか?」


「なにもないわよ」


「そうなのかなぁ」


「なによ」


「あまりにもお前の態度がおかしくて、俺のラブラブレーダーが壊れているかと思うぜ!」


「なによ、ラブラブレーダーって」


「誰が誰を好きになっているかってヤツさ」


「バカ?」


「そうバカにすんなよ。結構当たっているんだぜ」


「で? 私は、青陵院君に、ラブラブ光線を出しているってわけ?」


「そう」


「バカらしい。ほかに判るの?」


「そうだな。野田が青陵院だろ。それでケーケーも青陵院だな。あれ、あいつばっかりじゃないか」


「そんなにライバルが?」


「ほれみろ」


「ちっ」


「話術にはまったな」


「なにが話術か。冗談よ。会話で女がそうそう男にだまされるわけないでしょ」


「そうなのか」


「そうなのよ。まぁ、その2人とは話したことあるし、青陵院君のこと気になっているのは確かね」


「あ、やっぱし? 俺のラブラブレー」


「でも、それは誰でも判るでしょう。すごいことじゃないわ」


「え? そうなのか?」


「……」


(男ってどうしてこう)


 そこまで思って、阿部は、なにか引っかかった。


(そうよ、私と野田で、まだなにかあるんだわ。鈍い青陵院君のことだから、まだ気づいてないなにかが)

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