新しい服
「ほほう、これはまた、珍しい服を作ったねぇ。」
クロスが作った服はAFLOの世界では珍しいかもしれないが、現実世界に存在する服で尚且つ日本人なら一度は着たことがあるであろう、和服である。
丈夫な長着(白)
防御力3 耐久値100
製作者 クロス
丈夫な袴(黒)
防御力3 耐久値100
製作者 クロス
丈夫な改造袖無し羽織(黒)
防御力3 耐久値100
製作者 クロス
クロスはシステムメニューを呼び出し、装備のウィンドウを開いて着替える。
着物に着替えたクロスは職業の通り、格好が侍っぽくなってきたが、靴だけが初期装備のままである。
その事に気付いたクロスは、工房の外にあった丸太をマチルダ嫗の許可をもらい加工する。
出来上がったのは、二本歯の下駄だった。
早速履き替えると、完璧な和装の出来上がりである。
但し、裁縫スキルの技能デザインで付けたフレア模様が無ければであるが。
上半身は白地の長着で袖口にフレア模様。
下半身は黒地の袴で裾にフレア模様。
さらに長着の上から袖無し羽織を着て、その羽織にフードが付いておりフレア模様まである。
ここで技能について説明しておこう。
技能とは、生産系スキルを取得すると使える様になる技能である。
つまり、戦闘系のスキルを取得すると武技が使える様になるのと同じである。
この技能を使うと生産工程を短縮したり、今回の裁縫で使用した技能デザインで模様を付けたり、外見をいじったり等のアレンジが出来るのだ。
マチルダ嫗が日が暮れた窓の外を見て言った。
「おや、ずいぶんと日が暮れたねぇ。夕飯の支度するから、出来るまでゆっくりしてな。」
「手伝いますよ。料理するの好きだから。」
「へ~え。そうなのかい。だったら、おかずを一品作ってもらおうかね。」
そう言って母屋に戻る二人。
因みに、クロスの料理の腕は、普通だったらしい。
*****
夜、食事が済むと部屋に案内される。
部屋の明かりも点けずにベッドに腰掛けると、先程の話しについて考える。
その話しというのは、これから向かう交易都市と鉱山都市に住む人物に手紙を届けてほしい、といったものだった。
暫く考え込んでいたが、これ以上悩んでも仕方がない、というより、答えは既に決まってるといった感じで、考えるのをやめる。
ふと、時計を見ると、現実世界の時間がちょうどお昼だったので、一旦ログアウトして食事を取ることにする。
*****
修司は自室のベッドで目覚めVRドライバーを外すと、起き上がって自分の体の感触を確かめる。
「うん、問題無いみたいだな。」
ゲームの中とは違い、現実では身長も体格も大きくない。
どちらかといえば、痩せ型で身長も170㎝あるかどうかのラインだ。
アバターと生身の体の差になんらかの支障が出るのではないかと心配したが、異常は無いようだ。
「さて、メシでも食うか。」
部屋には修司以外誰もいないのだが、声に出して呟く。
近くのコンビニでカップ麺を買ってきて食べ終わると、後からやって来る友達、政臣に自分のアバターネームとIDを伝え、ログインしたら知らせる様にメールを入れる。
そして、片付けと家事を済ませると再びログインする。
*****
マチルダ嫗に借りた部屋で目覚めると、既に朝になっていた。
部屋を出てリビングに行くと、マチルダ嫗が朝食を作って待っていた。
「おはよう。よく眠れたかい?朝食出来てるよ。」
「はい、おかげさまで、朝食まで用意してもらってありがとうございます。」
テーブルに着くとマチルダ嫗が用意したサンドイッチとスープをいただく。
「昨日の話しなんだけど、引き受けるよ。マチルダ婆ちゃん。」
「おや、そうかい。じゃあ、よろしく頼むよ。届ける相手の名前は手紙に書いてあるからね。」
マチルダ嫗から届ける手紙を二通受け取る。
【クエスト 手紙の配達 を受けました。】
(あっ、コレってクエスト扱いになるのか。)
クロスが突然流れてきたインフォメーションに驚いていると、マチルダ嫗が怪訝な表情で尋ねてくる。
「どうしたんだい、クロスちゃん?」
「い、いや、このスープが美味しくて、おかわりしても良いのかなと思ってさ。」
「なんだい、そんな事かい。遠慮しなくて良いよ。」
そう言って、空になったクロスのスープ皿に、おかわりのスープを入れる。
「そうそう、報酬の代わりと言ってはなんだけど、離れ部屋を好きに使っていいからね。」
「へっ!?本当に?迷惑じゃないの?」
「構わないよ。騒いだりしないならね。」
「じ、じゃあ、使わせてもらいます。」
手紙を届けるだけなのに破格の報酬で驚くクロス。
【ホーム(仮)を入手、使用可能になりました。】
(!?)
またもや流れてきたインフォメーションに驚く。
いや、インフォメーションというよりその内容に驚いていた。
(ま、マジか。この事は、他の人には黙っといた方がいいかもしれない。)
クロスはトラブル回避の為、秘密にしようと決心する。
「ところで、クロスちゃんは今日はどうするんだい?」
「えっ、今日?防具買ったら友達と待ち合わせて街の外に行くと思うけど?」
「そうかい。街の外へねぇ。クロスちゃんはせっかく裁縫スキル持ってるんだから防具くらい自分で作ったらいいのに。」
「ん?裁縫スキルで防具作れるの?」
「作れるわよ。革を使った防具限定だけどねぇ。もし、興味あるなら教えてあげるよ。」
クロスは少し悩んでから返事をする。
今後、防具の修理は必要になってくるので、知っておいて損は無いだろうと。
「それじゃあ、お願いします。」
「はい、分かったよ。じゃあ、動物の皮が手に入ったなら持って来なさいな。」
【称号 最後の弟子 を手に入れました。】
【クエスト 動物の皮を手に入れろ を受けました。】
「う、うん。それじゃあ、行って来ます!」
クロスはそう言うと、食事を済ませて街の方へ駆けていった。
決して、聞こえてきた称号という単語に動揺してパニクった訳ではないのだ。
そう、違うったら違うのだ。
(この称号の事も黙っておこう!そのうち掲示板で情報公開されるだろうから。)
*****
【フレンドよりコールが入っています。繋ぎますか?】
街の中心まで来たとき、フレンドチャットが入る。
『おーい、修司!聞こえてるか?』
『ん?政臣か?』
声に出さず、頭の中で話す。
『おう、政臣だ。こっちの世界じゃ、アルフレッドって名前だから。それで、今どこにいる?』
『今か?ちょうど、西の城門の方に向かっている所だけど?』
『そっか。じゃあ、先に西の城門の所で待っててくれ。すぐ行くから。』
『分かった。じゃ、早く来いよ。』
クロスはそう言ってチャットを切ると、城門の方へ歩いて行くのだった。
名前 クロス 性別 男 職業 侍 Lv1
種族 鬼人族 格 酒呑童子
スキル 格闘技Lv1 気配察知Lv1 索敵Lv1 威圧Lv1 裁縫Lv3 料理Lv1(New)