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裁縫スキル

 クロスは裁縫の工房へ向かう。

 その工房へ向かう途中、大きな荷物を持った老婆が階段の下で立ち往生していた。


 (あの荷物を抱えて階段を上がるのは危ない!)


 「お婆ちゃん、良かったら手伝いましょうか?」


 声をかけられた老婆は、声をかけられた方を向くとギョッとしたが、すぐに優しそうな笑顔を浮かべて話す。


 「おやおや、ありがたいねぇ。それじゃあ、お願いしようかしらねぇ。」


 クロスはなぜ、この老婆を助けようと思ったのか。

 それは、クロスこと修司シュウジの育った環境にある。

 修司シュウジは小学二年生の春に両親を事故で亡くし祖父母に引き取られた。

 祖父母は修司シュウジを可愛がり、そして修司シュウジも二人に大変なついた。

 それから暫くして祖父が亡くなりその後、祖母が病に倒れてからは看病と学校、そしてアルバイトの日々を送っていたが、中学を卒業した頃に亡くなった。

 それからは親戚の叔父の家でお世話になっている。

 この老婆が、亡くなった祖母と重なって見え、ついつい出来なかったお婆ちゃん孝行をしたくなったのだった。


 「はい、それじゃあ行きましょうか。」


 クロスはそう言うと荷物を担ぎ、老婆の手を引いて階段を上がって行った。


 「どうもありがとねぇ~。もう大丈夫だよ。」


 老婆は階段を上がるとクロスに預けた荷物を受け取り担ぐが、足元がフラフラと危なっかしい。

 それを見て心配になるクロス。


 「お婆ちゃん、本当に大丈夫?家まで荷物持つよ?」

 「大丈夫と言いたい所だけど、ちょっと買い物の量が多かったみたいだねぇ。すまないけど、お願いしていいかい?」

 「もちろんだよ。任せといて。」

 「じゃあ、よろしく頼むよ。それから、あと少し必要な物買うからそれもお願いするよ。」


 そう言うと老婆は荷物をクロスに預けて歩いていく。

 クロスは再び荷物を担ぐと、老婆の後をついて行った。



*****



 「さぁここだよ。お入り。」

 「お邪魔しま~す。」


 買い物を終えて老婆の家に来ている。

 街の外れにある二階建ての家だ。

 中に入りキッチンのテーブルに買ってきた荷物を下ろす。


 「お婆ちゃん、ここに置いとくよ。」

 「どうもありがとう。助かったよ。疲れただろう?お茶くらい出すから飲んで行きな。」


 クロスは老婆の好意に甘え、リビングで待たせてもらう。

 暫くして、老婆がお茶とお菓子を持ってやって来る。


 「はい、どうぞ。今日は本当にありがとねぇ。お陰で助かったよ。」

 「いやぁ、大したことじゃないですよ。」


 クロスは照れ隠しに、出された紅茶をいただく。


 「そう言えば、名前を名乗ってなかったねぇ。私の名前はマチルダだよ。宜しくねぇ。」

 「あっ、俺はクロスっていいます。どうぞよろしくですます。」


 突然のタイミングでの自己紹介に、慌ててお辞儀をする。

 若干、言葉がおかしい。


 「最初、話し掛けられらた時はビックリしたよ~。ボロボロの服着た大男がいたんだからねぇ。」

 「す、すみません。」

 「いえいえ、こっちこそ悪かったねぇ。驚いちゃって。クロスちゃんはストレンジャーだね?」

 「ストレンジャー?」

 「そうだよ。違う世界から流れ着いた人達で、その腕輪をしてる人達の事をこっちじゃ、ストレンジャーと呼んでるんだよ。」

 「へ~ぇ、そうなんですか。」


 クロスはその話を聞いて、しきりと感心している。


 「その腕輪の機能は知ってるかい?」

 「ええ、友達?に教えてもらいましたから。」


 それを聞いたマチルダ嫗は、クロスの姿をしげしげと眺める。


 「そうかい。それは良かったねぇ。それはそうと、何でそんなボロボロな服を着てるんだい?」

 「ああ、これは・・・かくかくしかじかで・・・」


 クロスはここに来るまでの出来事を、色々と省略して簡潔に話す。

 ついでに、これから裁縫スキルを取得するために工房に行くことも。


 「そんな事があったのかい。大変だったねぇ。・・・そうだ!お礼と言っちゃなんだけど、私が裁縫を教えてあげるよ。」

 「いいんですか?」

 「いいよ、いいよ。ついでに家に泊まっていくといいよ。教えるのに時間かかるからねぇ。夜になっちまうよ。」

 「えっ、さすがにそこまでは・・・」

 「いいんだよ。家には私一人だからねぇ。遠慮する事無いよ。」

 「それじゃあ、お言葉に甘えて・・・お願いします。」

 「ふふふ、いいんだよ。それじゃあ、庭に工房があるから案内するよ。」


 そう言うと、マチルダ嫗は庭に向かう。

 クロスは慌てて紅茶を飲み干すと、マチルダ嫗の後を追いかけて行った。



*****



 「お婆ちゃんって一体何者?」

 「ホホホホホ。私はただの老婆だよ。」


 クロスがポツリとこぼした疑問に、マチルダ嫗は何でも無いように返す。

 クロスがそう思ったのも無理はない。

 案内された庭が、桁違いに広かったからだ。

 表から見れば左右を木々に囲まれた、ただの二階建ての家なのに、家の反対にある庭に出ると広大な敷地、幾つかある建物に遠くに見える湖、その対岸の山の麓までがこのマチルダ嫗の土地だというのだ。

 しかも周りを木々で囲まれている為、表からは見えない様になっている。


 「ただ、人よりちょっと広い庭を持っているだけさね。」


 そう言ってウィンクするお茶目なマチルダ嫗。


 「さあさあここだよ。入りなさいな。」


 そう言われて案内された場所は、庭の一画にある建物。

 中は、裁縫の工房になっていた。


 「それじゃあ、初めようかね。とりあえず、一緒にやってみようか。その都度説明していくからね。」


 そう言うと、工房の奥から布地と二人分の道具を出してくる。


 「ほら、コレ使いな。」

 「ありがとう。マチルダさん。」

 「他人行儀みたいで嫌だねぇ。今まで通り、お婆ちゃんでいいよ。」

 「えっ、いや、でも・・・」


 そんな事を言われて戸惑うクロス。

 今までお婆ちゃんと呼んできたのは、名前を知らなかったであって、きちんと自己紹介して名前を知っている今は名前で呼ぶのは当然である。


 「いいから、いいから。呼んでみな。」

 「じ、じゃあ、マチルダ婆ちゃん?」

 「はいよ。」


 照れながら言うクロスと笑顔で答えるマチルダ嫗。


 「じゃあ、話しはここまでにして、始めようかね。」

 「は、はい!」


 突然、別人の様な表情で真剣になるマチルダ嫗。

 その変化にとまどいながらも返事をして気合いを入れる。


 「最初は、練習でエプロンでも作ろうかね。まずは採寸してから型紙を作るよ。」


 それからゲーム内時間で一時間後、エプロンを完成させる。


 「できた!」

 「うん、クロスちゃんは筋が良いね。こんなに早く出来るなんて。これで裁縫のスキルは覚えたはずだよ。」


 そう言われてステータスを確認すると、確かに裁縫スキルを取得していた。


 「ありがとう。マチルダ婆ちゃん!」

 「それは良かったねぇ。次は自分の服を作るんだろ?私はそこで見てるから、好きにやってごらん。」

 「わかった。」


 そう言ってクロスは、アイテムボックスから布地を出して、自分の服の製作に取り掛かる。

 その様子を椅子に座って見届けるマチルダ嫗、その表情は真剣そのものだ。

 クロスの服が出来上がったのは、それから三時間後だった。

名前 クロス  性別 男  職業 侍  Lv1

  種族 鬼人族  格 酒呑童子


  スキル 格闘技Lv1 気配察知Lv1 索敵Lv1 威圧Lv1 裁縫Lv1→3(New)

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