物知りミック
「ミック、噂は本当だったようだ。」
クロスは自分のステータスを見た結果を伝える。
「そ、それは本当でありますか!是非、吾輩にも見せて欲しいであります!」
ミックは興奮し店内に響き渡るほどの大声で叫んでしまい、周りから注目を集めてしまう。
「ちょっ!ちょっと落ち着けよ、みんなが見てるだろ。」
そう言ってミックをなだめると、クロスは周りにうるさくした事の謝罪と何でもない事を伝え椅子に座る。
周りは興味をなくしたのか、クロスの弁解を聞いて自分達の仲間との談笑や食事に戻る。
中には気になるのか、ちらほらとクロス達の方を盗み見てる人達がいる。
「も、申し訳ないであります。それで、吾輩にも見せてはもらえないでありますか?」
ミックは少し声を落として聞いてくる。
クロスは周りの様子を伺い、少し考えてから答える。
「こういうゲームって他人にステータス見せるのは、リスクがあるんじゃないのか?もし、見せるにしたって親しい友達だったり、よっぽど相手を信頼してないとな。それに、ギルドっていうのか?そういうチームに所属するメンバー同士じゃないと色々と問題があると思うんだが?」
「そっ、それはそうでありますが・・・」
「まぁ、ミックなら見せてもいいかな?あの時、止めに入ってくれたし、悪い奴じゃあなさそうだしな。」
クロスがそう言うと、最初は落ち込んだミックだったが、目を輝かせて喜ぶ。
「ただし、ここだと人目があるし誰が見てるか分からないからなぁ?」
「でありましたら、スクリーンショットに撮って吾輩に送ってくれたらいいであります。ただ、送るには吾輩とフレンド登録しなければならないでありますが?」
「なんだ、そんな方法でいいのか?」
そう言うとクロスは、システムメニューを呼び出して、ミックにフレンド申請を送る。
「えっ?!」
「なんだ?嫌だったか?」
「い、いえ、そうではないであります。クロス殿は吾輩とフレンド登録していいでありますか?」
「良いんだよ。それにさっきも言ったが、悪い奴じゃあなさそうだしな。」
「そっ、そうでありますか。では、よろしくお願いするであります。」
ミックは照れながらも、申請を受諾する。
クロスは登録されたのを確認すると、さきほど撮ったスクリーンショットをミックに送る。
「!?しゅて―『モガモガ』」
ミックが思わず声に出そうとしたので、慌てて口を塞ぐクロス。
「馬鹿っ!声に出すんじゃねーよ!」
「これは、失礼したであります。しかしこれで噂は本当だったと証明された訳でありますね!掲示板に載せてもいいでありますか?」
「う~ん。・・・それは止めてくれないか。身バレして騒がれたく無いし。仮に掲示板に載せたとして、スクリーンショットとかの証拠が無いと信じもらえないだろ?」
「それはそうでありますな。残念ではありますが、仕方がないであります。でありましたら、レアアバターを出した方法だけでも載せていいでありますか?」
「それは、誰かに検証してもらうって意味でか?」
「その通りであります。クロス殿は何か特別な事でもしたでありますか?」
「その事だったら別にいいかな?特別何もしてないが、種族選択の時にランダム選択をしただけだ。」
「それだけでありますか?・・・なるほど、ランダム選択なら、何になるか分からないでありますからレアアバターが出る可能性もあるでありますな。でありましたら、ランダム選択にレアアバターが出る可能性があるのと、その確率の検証をしてもらう事を載せるって事でいいでありますか?」
「ああ、そんなとこだろ。」
それから二人は注文した料理を堪能し、店を後にするのだった。
*****
店を出て二人は街を散策していた。
「クロス殿はこれからどうするでありますか?」
隣を歩くミックが話しかける。
「とりあえず、武器と防具を買いたいな。いや、その前に服をなんとかしないとな。」
そう答えたクロスの服は、先程の戦闘で斬られた場所が裂けていて、まるで浮浪者の様な有り様だった。
「防具と武器ならアイテムボックスに初心者の鎧と武器が入ってると思うでありますが?」
ミックが疑問に思いクロスに聞くと、クロスはため息をついて答える。
「さっきメシ食ってる時に見たんだが、武器と防具は殺られた時にドロップされたらしい。」
「そうでありましたか。ならば、先ずは服屋に行くでありますよ。吾輩が、案内するであります。」
そう言ってミックは、クロスを案内して服屋に向かうのだった。
*****
ミックの案内で訪れた服屋でクロスは悩んでいた。
「う~ん、どれも良い品なんだが、武器と防具を買わなきゃいけないから少し節約したいんだよなぁ~。」
「確かにそうでありますが、この街に服屋は此処だけでありますよ。それに服といっても、耐久値はもちろん、ここの服は少しではありますが防御力が付いてるでありますからなぁ。この値段は妥当であります。」
「マジか。」
それでもクロスは、少しでも安い服を探すが値段はどれも一緒だった。
クロスは諦めて服を買おうと思ったが、店の隅に積んである布地を見つける。
「なぁ、店員さん。コレは売り物か?」
「はい、そうですよ。」
そこでクロスは少し考えると、ミックを呼ぶ。
「お~い、ミック。コレ買おうと思うんだが、どう思う?」
「コレでありますか?服を買うよりかは安いでありますが、裁縫のスキルが必要でありますよ?」
「そうか・・・そういえば、スキルってどうしたら取得出来るんだ?」
「はぁ・・・それも知らなかったでありますか。スキルは、特別なNPCに伝授してもらうか、そのスキルの行動を繰り返しすると取得出来るであります。それと、スキルの取得上限は無いであります。」
「わかった。ありがとう。」
クロスはそう言うと、積んである布地の中から二種類選んで購入する。
丈夫な布(黒) 500E
普通の布より丈夫な布
丈夫な布(白) 500E
普通の布より丈夫な布
「毎度ありがとうございました~。」
店を出た二人は、次に武器屋へ向かう。
「そういえばさ、ミックはこのゲーム詳しいみたいだけど、もしかしてβテスターなのか?」
並べてある武器を手に取って見ながら気になっていた事を聞く。
「そうでありますよ。」
「やっぱりそうだったのか。・・・おっ、この刀良いね。コレにするか。」
クロスが選んだのは、黒鞘に納まった直刃の刀だった。
無銘刀 3800E
攻撃力 75 耐久値 100
二人が店から出て次に防具屋へ向かおうとしたところで、ミックが口を開く。
「クロス殿、さきほど吾輩に外からメールが来まして、用事が出来たであります。申し訳ないでありますが、今日はここまででログアウトするであります。」
「そっか、ありがとなミック!せっかくフレンド登録したんだ。時間が合うなら、一緒に冒険しようぜ。」
「はい、であります!こちらこそよろしくであります。あっ、それと裁縫のスキルは工房に居るNPCに教えてもらえるであります。それから、防具買う前に服を作った方がいいでありますよ!今の格好、まるで浮浪者でありますよ。」
そう言い残すとミックはログアウトしていった。
因みにいうと、街の中ならどこでもログアウトが可能である。
しかし、HPやMPが減っている状況で宿屋、もしくはホームのベッドからログアウトしないと、次回のログイン時にHPとMPは全回復しておらず、前回のログアウト時と同じとなっている。
クロスはミックに言われて先に服を作る為、工房に向かうのだった。