Episode-6 初めての昼食・初めての雑用 4(ずさんな男・純一)
雫先輩の一件が終わり、俺も家へと帰ろうと思い校門の方へ歩いていると……。
「あれ? 純一くん?」
昇降口の前、美少女は夕焼けに灯され一人佇んでいた。
「……よう。転校生がこんなとこで何してんだ?」
「純一くんこそ……、HRが終わるとすぐ教室飛び出して、家に帰っちゃったんだと思ったよ」
「俺は、まあ……トイレに行きたくて……」
「こんな時間まで?」
完全に自爆してしまった。
ここは素直に「竹良から逃げた」って言えばよかったか。
「……そういうお前は? なんでこんな時間まで学校に居るんだ」
もう既に午後五時を短針が回って、辺りは茜色から闇に変わろうとしている頃に生徒が残ってるのは相当珍しい。
……かくいう俺も、こんな時間まで残っていた訳だが。
「私は……残って勉強を……」
「勉強って、家でも出来るんじゃないか? 何でわざわざ学校で?」
「そ、それは……」
俺の問いかけに口をもごもごさせ、なかなか話そうとしない佳織。
あの教室では佳織が俺に、一方的に、話していたが今は俺が佳織に詰め寄っている。あの視線(主に男子)がなければ、こういうふうにちゃんと話せるのに……。
よほど言えない事があるのか、佳織はなかなか口を割ろうとしない。
「(なんかまた面倒な事になりそうだから聞かないでおこう)」
これ以上面倒に巻き込まれたら、俺の命が危ない。
「まあ、別に話さなくてもいいから。それじゃ俺は──」
「──嘘。」
俺が踵をかえし、この場をやり過ごそうとしたが佳織は閉ざしていた口を開き、その一言でその場を制した。
「……嘘?」
「私、勉強なんてしてないの。ホントはただ……」
「…………」
真剣な顔で、佳織は俺の事をじっと見つめる。
そのビー玉みたいに輝く目には、少し涙が浮かんでいた。
とても言いにくいんだろう。佳織はまた口を閉ざし、ただ口をもごもごさせている。
「ただ……何だよ?」
俺は意地悪をするように佳織を急かした。しかし悪意があった訳ではない、ただ早くここから立ち去りたいと思っていたからだ。
「ただ……その……」
そして佳織は、一息つく。
「……やっぱ、何でもないや。ごめんね引き留めちゃって、帰るとこだったんでしょ?」
「え、ああ……うん。別にいいんだけど……」
結局、佳織はそれ以上何も言わなかった。
……いや、言えなかったのかもしれない。
少なくとも『告白』なんてモンじゃない事は分かっている……というか、ありえない。出会ってまだ二日だが、そんな常軌を逸するようなやつには見えん。
「それじゃ、またね」
そう言って、佳織はこちらを見る目もなく小走りで帰って行った。
その横顔には、明らかな『悲哀』の様子があった。
「……なんで、こう、面倒な事に巻き込まれるのか……」
結果として、佳織は何かを隠していた。俺に話せない何かを。
……まあ、出会って間もない奴にあれやこれやと話す方がオカシイわけだが。
「……厄介だな、ほんと」
今日は肉体的な労働(強制)に加え、人の悩める部分に首を突っ込んでしまい身体も精神も疲れ切った。
ある意味、ぐっすり眠れそうだ……。
俺はふらふらした足取りで、帰路に着いた。