Episode-5 初めての昼食・初めての雑用 3
キーンコーンカーンコーン
「それじゃあ今日はここまで、予習しておくように」
最後の授業・英語が終わって、やっと帰れると思った矢先──
「純一、ちょっと顔貸せよぉ」
なんとも悪そうな顔をした竹良が、急に顔を出してきた。
「なんだよ。俺はお前に用なんてないぞ」
「僕にはあるんだよ!」
いつにも増して面倒くさい様子だ。
きっとろくでもない事だろう。
「お前にあっても知らん。俺はHRが終わったら帰る」
「な、なんで!? 話だけでも! ね?」
しつこい奴だな……。
「ハッキリ言うけどなあ、めんど──」
「──お前ら、席に着けHRを始める」
タイミング悪く担任の幕野内が教室に入ってきたため、俺はそのまま言葉を飲み込み前へと向き直った。
竹良も、すかさず自分の席へと戻って行った。
「(HRが終わったら、ソッコーで逃げるか)」
内容が分からない用事に付き合わされるくらいなら、走ってしんどい思いをして家に帰ったほうがマシだ、と俺の直感が告げる。
「……HRっつっても、今日は特段連絡することがない。なので、今日はこれで……」
その言葉を聞いた直後、俺の足ははやぶさの如く動いた──。
「──あ、おい純一! 逃げんなぁ!」
竹良の呼びかけには目もくれず、俺は一目散に教室から走り去った。
「(学校内で撒いてみるか……!)」
俺は普段から運動なんてしていない、が、竹良は何かと運動が出来る。
そんなやつから追いかけられれば、捕まるのは時間の問題だ。
俺はとりあえず、人気が少ない体育館裏の物置き部屋の近くまで走った。
「はぁっ……はぁっ、ここまで来れば、見つからんだろう」
汗が一滴一滴、額から垂れる。
「誰に、見つからないんだ?」
「──ッ!」
誰も居ないとばかり思っていた物置部屋の中から、昼に見た顔が出てきた。
「おいおい、『万事休す』みたいな顔はよしてくれよ。なんか傷つく」
「し、雫先輩……」
「こんな所でかくれんぼでもしてるのか、純一」
その小柄な体系とはそぐわない仁王立ちで、雫先輩は俺の前に立ちはだかった。
「かくれんぼだなんて、子供じゃあるまいし……」
「……そうか、かくれんぼは子供の遊びなのか……」
「雫先輩?」
なにやら悔しそうな……いや、今にも泣き出しそうな堪え顔で、俺の事をじっと見つめる雫先輩……。
なんだ? なんだなんだ?
「所詮、『子供』の遊びか……」
やけに『子供』の部分だけを強調して……って、あ。
「いやいやいやっ! 会長の事を思って言ったわけじゃないんで!」
全生徒の頂点に立つ人でも、やはりコンプレックスは存在した。
しかも、そのコンプレックスが体系となると、事は深刻だ……!
「……おい純一、正直に答えろ。私は幼稚体系か?」
「えっ!」
「答えろ!」
雫先輩は俺を睨みつけるように迫って、もう後がないような……そんな雰囲気になってしまった。
というか、何で俺はこんなハメに?
「……はい、そうです。」
「…………」
俺の言葉を聞いた雫先輩は、その場に崩れるようにペタンと座り込んだ。
「あ、あの……会長? 大丈夫ですか?」
「…………」
俺の呼びかけに、雫先輩はピクリとも反応を見せない。
「(これは……竹良の件より面倒なことになったぞ……)」
まさか災難から逃げて、また災難に遭遇するとは……。
最近の俺は、ちょっと……どころではなく、ついてないような気がする。
化石と化した雫先輩をよそに、俺はこっそり息を潜め帰ろうとしたが……
「どこへいく」
落胆ムードから一変、鬼のような形相でこちらを睨みつける雫先輩になす術もなく、俺はその場に居つづけることになった。
「仕事を手伝え。じゃないと家まで帰さない、というか着いていく」
「……ようするに、俺に雑用を任せる。ってことですよね。っていうか、家まで着いてこられたらホントに面倒なんですけどっ」
……雫先輩の話によれば、生徒会の雑務で物置の整理を任されていたそうだ。
だが、他の生徒会のメンバーは既に帰ってしまっていて、会長の雫先輩だけが居残って整理をしていたそうだ。
こんな小柄な人に任せっきりの生徒会もどうかと思うが、一般生徒に手伝わせる雫先輩もどうかと……。
「ちゃんと仕事すれば、家までは着いていかん。というか端からそんな気はない。じゃ、ちゃっちゃと済ませてくれ。」
「って、雫先輩は帰るんですか?」
「当たり前だ。面倒なんだよこの手の仕事は。あ、あと言っておくけど途中で帰ったりでもしたら先生に『辱めを受けた』と報告しに行くからな。じゃ」
「……悪魔だ」
その、小さく恐ろしい……しかし、どこか哀愁を漂わせる背中を俺はただ呆然と見送り、立ちすくんでしまっていた。
俺を見つけた最初から、きっとこうするつもりだったのだろう。
「やっぱ、先輩って何かと面倒だな……」
そう愚痴を漏らしながらも、俺は、撒かされた『雑用』にとりかかっていった。