Episode-3 初めての昼食・初めての雑用
迎えた昼休み。
俺は、特に誰かと昼食を一緒にとるとは考えていなかったため、今日は校内にある『学食』を利用することにした。
俺の隣の転校生──もとい、佳織は、数名の女子に誘われ中庭で一緒に食べるらしい……別に、盗み聞きをしていた訳ではない。
「さあて、今だけ伸び伸びできるな」
あの教室から出ると、まるで違う世界にでも来たかのような浮遊感を覚える。
俺の事を睨む者は居ない。話しかけてくる厄介者(佳織)も居ない。
もしかしたら、この昼休みだけが、俺の安らげる時間なのでは?
「……あれっ、純くん?」
「ん?」
後ろを振り返ると、そこには俺の良く知る茜が居た。
「やっぱ純くんだ。おはよう」
「おう、茜か。おはよう」
「なんか、疲れてる?」
「え? なんで?」
茜は、心配そうに俺の顔にそのつぶらな瞳を近づけた。
「だって……隈があるもん。寝てないの?」
「ああ、それはまあ、そんなとこだ」
「ふーん……」
しかしこいつ、相変わらずの髪色だな。よくそんな色で高校入ったな。
「…………」
俺がまじまじ茜を見つめていると、少し頬を赤らめ、顔をうつむかせた。
「純くん、あたしの入学式来なかったじゃん。どうして?」
ああ。
そういえば、入学式があったのか。すっかり忘れてた。
「すまん、忘れてた。」
俺は至って真剣に謝った。が、茜はまだ頬が少し赤いまま怒った表情で俺に向き直った。
「許さないよ、いつか埋め合わせてもらう」
「そんな怒らなくても……あ、じゃあ、せっかく学食に居るし何か奢ってやるよ。どうせ、茜もここで食べるんだろ?」
「んんー、いや、それはいいや。友達待ってるし」
「友達? お前、高校入って一日で友達出来たのか?」
「そだよ。」
……こいつがそんなコミュニケーション能力を持っているとは、全然知らなかった。というか、こいつとは昔から『兄妹』みたいな付き合いだったから、俺以外に友達が居るのかなんて気にしたことなかった。
「……あ、来た来た。おーい! 里桜ちゃん!」
茜が読んだ里桜という子は、茜の隣に立っている俺の事をチラチラ気にしながらも、小走りでこっちに向かってきた。
「ごめんね、茜ちゃん。ちょっと、先生に呼ばれてて……で、この人は……」
「ああ、この人は純くん。あたしの……幼なじみ? みたいな人。」
「みたいな、じゃなくて幼なじみだ。はじめまして、里桜ちゃん」
「あ、はいっ。はじめまして……!」
腕白な茜とは違って、とても落ち着きのある良い子だ。
容姿は、あまり茜と変わらないくらいの背丈で、学校指定の白のセーターを着ている。髪は後ろで二つ括り……ツインテール、というやつだ。
「んじゃ、純くん。またね~」
「おう。」
いつも通りな茜と、その隣で俺に会釈する里桜ちゃんを横目に、俺はさっさと学食の券売機へ向かった。