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純、i。 ※休載中  作者: ゆうまに
幼心と今と明日
17/31

Episode-17 縁の下の力持ち


「里桜ちゃん! き、昨日はどうだった!?」


 朝、教室に入るやいなや、突然茜ちゃんが私の元によってきては、必死な顔をして迫ってくる。


「昨日、は……えっと……」


 茜ちゃんが聞きたいのは、昨日、私が純一先輩にどう接触したか、について。

 だけど昨日、やり過ごせたのは確かだったけど、少しやり方を間違えたような気もする。このことをどう茜ちゃんに説明したらいいのか……


「昨日は? どうだったの?」


「えっと……まあ、大丈夫だったよ? 上手くごまかせたと思う。けど」


「けど……?」


 言葉を濁らせた私に、茜ちゃんは首をかしげた。


「けど、またあの時みたいに怒っちゃったら、さすがにバレると思うよ」


 次も、同じように誤魔化すことができるとは限らない。

 ああ見えて、結構勘が良さそうだったし。


「(変態だったし……)」


 少しムスッとした表情になった里桜は、正面に立ちふさがっていた茜を避け、自分の席へとスタスタと歩いていく。


「そ、そうだよね。あたし、次も怒っちゃったら……」


 それに続くように、いつもとは違った弱気の様子の茜がついていく。


「でも、次は気をつけてさえいれば大丈夫なんじゃない?」


「そうかなあ……」


 ここまで弱気になられると、逆にどうフォローしようか迷いが生じてしまう。

 だけど私は、茜ちゃんの『友達』として、しっかりサポートしてあげなくちゃいけない。


 私こそ、恋愛経験なんて皆無に近いくらいだけど、それでも、客観的に物事の判断は出来るし多少の励ましくらいなら出来る。


 昨日みたいに、上手く誤魔化すことだって出来る。


「(私がしっかりしなくちゃ……)」


 いつもなら、太陽のように明るい茜ちゃんが言うような事だけど、今ならその代理になれると確信していた。


「……さっそくだけど、茜ちゃん。また今日のお昼、あの人と一緒に食べない?」


「えっ、そんな……だって、顔、合わせにくいし……」


「大丈夫。私が、なんとかしてみる」


 少々強気な姿勢を見せた私を、茜ちゃんはじっと見つめて、そしてゆっくり口を開いて「……ありがとう。」とだけ言って、さっさと自分の席へ戻って行った。


「……ありがとう、か。」


 いつぶりかな、そんな事言われたの。

 ……むしろ、私が茜ちゃんに感謝しないといけないくらいなのに。


 そんなことを考えつつ、私は、今日のお昼休みに向けて作戦を練ることにした。




 ──俺の長所は、上手く面倒をしのぐこと。

 反対に、俺の短所は、面倒にすぐ出会ってしまうこと。


 妙なことだが、自分の長所と短所の利害は、上手いこと一致している。


 だが、結論を言ってしまえば、俺の長所は嘘だ。

 いつも面倒に巻き込まれては、頭を悩ませ、試行錯誤した結果あえなく失敗に終わることが多い。

 

 ……そう、俺はただ、面倒に取り憑かれた不幸な人間だ。


 逆境に強いやつほど、現実に打たれ強く、俺みたく逆境にまとわりつかれてるやつは、端から現実なんて見ようともしない。

 そのことがあって、人間は堕落する。


 かくいう俺も、その中の一人であるのは間違いないが、少なからず、面倒と向き合うことはしばしばある。それは褒めよう。


 だが、今、こうして頭を悩ませ、長時間同じ事に思考を巡らせるのは、ひどく辛い。


「…………」


 おかげで、寝る間も惜しむ結果になる。

 

 ……今日の午前は、昨日の午後に比べまだマシなほど授業を受けられた。

 しかし、例の茜の件が、俺の思い違いだったとするなら、そもそも頭を悩ませることもなく、まともに授業を受けることができる。


「(まあ、それ以外にも、やっかいなのが残ってるいるんだが……)」


 横目で、楽しそうに友達とご飯を食べる佳織を見る。

 

 授業中、あんだけべらべら喋ってたのに、よくまだ喋れるな……

 まあ、それがあいつの取り柄なのかもしれないけど、そろそろ先生達もお手上げって感じだったぞ。


「さて、と。」


 この場にいると、どうも気分が良くない。


 俺は昨日と同じ、食堂で昼食をとることにした。

 

 ……もしかすれば、茜が居るかもしれない。

 その時は、昨日の事、早め早めに謝っておこう。


 そう思い立って、足早に教室から出る。


 しかし教室を出てすぐ、見知った顔があるのに気づき、食堂へ向かおうとしていた足をとめた。


「里桜ちゃん?」


「あ、純一先輩。」


 俺の姿を見て、里桜ちゃんは二つくくりにした髪を揺らしながら、こっちに近寄ってくる。


「……まだ、何かあるの?」


 昨日のことで何か責め立てようとして、俺のとこに来たのだろうか。

  

 そんな不安が頭の中をかき回す。


「昨日のことじゃありません。」


 少し頬を膨らませて、ムスッとした表情で言った。


「じゃあ、何か他に?」


「はい。今日は、その、一緒にご飯でもどうかと……」


 ……ほう。まさか、里桜ちゃんが俺のことを誘いにくるとは思っていなかった。

 こういう時、おおかた決まって、茜が俺を呼びにくるんじゃないかと思っていたが……

 まあ、お昼を誘われたのは意外だった。


「……ふーん。」


 どういった了見なのか定かではないが、里桜ちゃんが俺を誘うとなれば、茜は必ずからんでいる。

 むしろ、茜の方から来ると思っていたくらいだったし、里桜ちゃんの控えめ……っぽい性格から、それだけはないなと思っていた。


 しかし、これは好都合。


 わざわざ茜を探さずに済むし、そっちから話す気になったのであれば断る理由もない。


「ダメですか?」


 心配そうに俺の顔を覗き込む里桜ちゃん。

 

 俺はそのパッチリした目を見て、「いいよ。」とだけ言った。


「分かりました! では、茜ちゃんも一緒でいいですよね。」


「うん。」


 最初からそのつもりだったのだが……


 変に、嬉しそうに笑顔になる里桜ちゃんを見て、ただ一緒に食べて、一緒に話しましょうということだけではなさそうだと悟った。


「では、行きましょう……あ、それと」


 俺の前を歩き出した里桜ちゃんが、数歩歩いたところで立ち止まる。


「ん?」


「あの……、昨日のアレ、茜ちゃんには絶対に言わないでくださいね!」


「アレ、ね。はいはい……」


 まだ昨日のアレを引きずっているらしい。

 ほんとに、礼儀正しい子なだけあって、とてもギャップを感じざるを得ないな。


 少し頬を赤らめた里桜ちゃんは、再び歩きだし、俺もその小さな背中を追うようにして、食堂へと向かった。




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