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純、i。 ※休載中  作者: ゆうまに
幼心と今と明日
16/31

Episode-16 分岐


 ちょうど、校門をくぐった辺りで見知った顔があることに気がついた。


 「あ……どうも、こんにちは」


 「あ、ああ」


 そこには、礼儀正しくお辞儀しその凛とした顔で話す里桜ちゃんがいた。


 ……俺に声をかけてきたあたり、用があるんだろう。


 俺は、一緒に帰るはずだった竹良に、すまなさそうな顔をし「悪いが急用ができた」とだけ言って、竹良を先に帰らせることにした。


 「……分かった。じゃあな純一」


 「おう。」


 意外と素直に承諾した竹良は、俺に背を向けさっさと帰って行った。


 ……このところ、竹良とあまりつるんでいないように思えるが、いかんせん連続で面倒に巻き込まれてしまって、しかたがなかった。

 

 「……で、何か俺に話すことでも?」


 夕陽に照らされ茜色になった道にたたずむ一人の女の子も、どうやら俺に面倒をもたらしにきたようで。

 なんでか、もじもじしている里桜ちゃん。

 

 ……俺が声をかけても、なかなか口を割ろうとしない。


 「(そっちから話しかけてきたのに……)」


 話の内容は、大体分かっているつもりだが、やはり聞いてみなければ何について話せばよいのか思いつかない。


 しばらく沈黙の間が俺と里桜ちゃんとあいだに流れる。


 「──純一先輩、でいいですか?」


 「……呼び方なら、なんでもいいよ」


 「なら、純一先輩って呼ばせていただきます。」


 不意に、「先輩」と呼ばれると背中がかゆくなってしまう。

 だが、案外悪い気分にはならない。不思議と。


 「それで、何の話をしにきたの? 茜のこと?」


 「はい。」


 やっぱり、な。


 里桜ちゃんもあの場に居たわけだし、わざわざ校門で待ってるなんてよほど重要な事を話しにきたんだろうとは思っていた。

 今日、俺が面倒に巻き込まれたのは……まあ朝からずっとだったような気もするが、昼休みの茜の件。それしか思いつかない。


 「…………」


 その件に関しては、俺自体、何も分かっていない状況だった。

 

 なぜ茜を怒らせてしまったのか。泣くほど嫌なことを言っただろうか。

 なにせ性別が違うし、あいつがどう感じていたのかなんて分かりっこない。


 俺は自然と、顔が険しくなっていた。


 「あ、あの時の茜ちゃんは、ちょっと調子が悪かったんです。だからあんなに、その……怒ってしまって……」


 里桜ちゃんの目は、至って真剣に、かつ怯えているような……そんな目で俺をとらえていた。


 「調子が悪かった?」


 いや、調子が悪いなんてこと……むしろ、絶好調だったのではないかと疑うくらい今日のあいつは快活だった。

 なのに、調子が悪かった、って……


 「はい。だから、その……今日は、いわゆる……お、お」


 「『お』?」


 「お、おっ……!」


 夕陽のせいでかすかにしか見えないが、里桜ちゃんの顔は紅潮していて、一生懸命なにかを俺に伝えようとしているが、なかなか『お』の次の言葉が出てこない。

 その次の言葉が聞けないと、俺も何を言いたいのかさっぱりなのだが……


 「…………」


 「お、お……! 『女の子の日』なんですっ!」


 ……女の子の日、って……。


 「ようするに、せい──」


 「──きゃぁぁ! それ以上はダメですっ! どんとすぴーくです!」


 里桜ちゃんは、突然、大声をあげて必死に俺のことを止めようとする。

 

 よほどその言葉を言われたくないのか、さっきよりも増して顔が赤くなっていて、その二つくくりした髪が逆立つんじゃないかと思うくらい、オーラが出ていた。


 ……まあ、『せい』の二文字で80パーセントくらい出たようなものだけど……


 「わ、分かった。言わないよ」


 「……ふぅ。どうしてそんな恥ずかしい事言おうとするんですか!」


 「別に恥ずかしくないよ……ただの、せい──」


 「──あぁぁぁ! いやぁぁ!」


 「…………」


 いい加減そのリアクションは周りの視線が痛くなってくるから、やめてほしいのだが……。

 

 里桜ちゃんは、これでもか、と言わんばかりにムスッとした顔を見せつけてくる。


 「──もうっ、純一先輩って、そんな人だったんですね」


 そしてすぐ不機嫌な様子で、腕を組み、あたかも「謝れ」と言っているような態度を示す。


 「(意外と面倒な性格なんだな……)」


 類は友を呼ぶ。茜はおそらく、自慢の性格をいかしてこの子と仲良くなったんだろう。

 『磁石』のように、互いにひかれたんじゃなかろうか。


 「……まあ、ごめん。別にそんな悪気はなかったんだけど……」


 何で謝らないといけないかさっぱり分からんが、これ以上話が逸れてしまったら面倒だし、ここは素直に謝ることにした。


 「別に、怒ってはいませんけど。」


 いやいや完全に怒ってますよ、その態度。


 ……俺が素直に謝ったのを折に、里桜ちゃんは軽く咳払いをし、また淡々と話し始めた。


 「ようするに、茜ちゃんは今日が『女の子の日』だったから、とても調子が悪かったんです。だからあんなに怒ってしまって……」


 そういえば、そのような説をどこかで聞いたことがある。

 女性特有のあの日は、いつもより怒りっぽくなったり、怠慢な態度をしたり、色々内面上に変化が見られる、とのこと。

 

 もし茜が、今日がその、いわゆる『女の子の日』だったなら、あんなに激怒してもおかしくはないな。


 「(……だが、たとえそんな状況だったとしても、あそこまで泣くことなんてあるのか……?)」


 なにか、他の要因があるようにも思う。


 「ですから、純一先輩はあまり気にしないでくださいね。女の子って、そういうイキモノなんですから」


 「……ふーん」


 「ちゃんと聞いてますか」


 「聞いてるよ。ようするに、茜は今日せい──」


 その言葉の半分以上を口にした瞬間、里桜ちゃんのさきほどまでの落ち着きはなかったかのように、再び血相を変えて俺のことを睨みつけた。


 「そ、れ、い、じょ、う。言わないでくださいね」


 「はいはい……」


 「では、私はこれで失礼します。」


 そしてまた、丁寧に一礼してから、さっさと帰って行った。


 「(……たったそれだけのこと、なのか……)」


 今回の件、ただの思い違いならいいのだが、もし俺が何かを『しでかして』しまっていたら、後々面倒なことになりかねない。


 俺は午後の授業の時と同じ要領で、頭を悩ましながら、帰路についた。






  

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