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純、i。 ※休載中  作者: ゆうまに
幼心と今と明日
15/31

Episode-15 大役


 「茜ちゃん!」


 「……里桜、ちゃん……」


 女子トイレの洗面台の前に、目を赤くした茜ちゃんが立っていた。

 

 「茜ちゃん、そんなに泣かないで……」


 私の友達である茜ちゃんに、起きたこと。それは、女の子にとってとても心が痛むことだった。

 だからこそ、私には今の茜ちゃんの気持ちが分かる。


 「うん……」


 いつも快活で、太陽のように明るい性格をしている茜ちゃんでも、そんな事の後だと、どうも弱々しく見えてしまう。


 「…………」


 私はしばらく、茜ちゃんが落ち着くまで、隣にいてあげよう。

 それが今、私に出来る唯一の手助けだと思うから。


 しだいに茜ちゃんは、鼻をすすっていたのをやめ、落ち着きを取り戻していた。


 「あのね、里桜ちゃん」


 まだ少しふるえている声で、茜ちゃんは私に話しかけてきた。

 泣いた後で純血した目をしながら。


 「うん、大丈夫、ゆっくりでいいから」


 「……うん。あたし、やっぱりね、あの人の事好きなんだよ」


 茜ちゃんはきっぱりと、しかし照れるようにそう言った。

 『あの人の事が好き』

 茜ちゃんは今、恋をしてるんだね。


 「そうなんだ。それじゃあ尚更、頑張らないとね!」


 ──私はあくまで友達として、茜ちゃんから相談を受けていた。

 『あの人の事が気になる』『話したい』『一緒に居たい』

 茜ちゃんはいつも、そんな事を私に言っていた。

 その言葉を聞いて私が「好きなんじゃない?」って聞き返すと、決まって、「そうなのかなあ」なんて曖昧な返事ばかりした。

 しかし今となっては、もう言葉を濁すこともしない。

 ただ純粋に「あの人の事が好き」と言えるようになった。


 ……それに気づかされた形は最悪だったけれど、それでも、こんな状況でも私は茜ちゃんを応援したいと思える。

 それが友達として、出来る事だと思ったから。


 「──でも、あたし、あんなヒドい事言っちゃったし……絶対怒ってるよ、純くん」


 「そうかな。そんな直ぐ怒るような人には見えないけど」


 「それもそうだよねぇ……」


 お昼休み、茜ちゃんはあの人に対して、周りに人がいっぱい居たのにも関わらず大声で怒った。

 怒られてたあの人はキョトンとしていて、不快な表情すら見せなかった。


 「──あ、じゃあ、私があの人に話しかけてこようか?」


 「……里桜ちゃんが?」


 「うん。私が事情を説明すれば、きっと分かってくれると思うから」


 「す、好きだって事は言わないでよ……?」


 「もちろんっ。」


 茜ちゃんがあの人に直接会うのは、ちょっと難しいだろうから、私が代理になってあの人が怒ってるかどうか確かめにいく。

 よし、私ながら、良い作戦かもしれない!


 「そ、それじゃあ、お願いしようかな。でも、いつ行くの?」


 茜ちゃんは、なんだか不安そうな顔をしていたけど、なんとか私に一任してくれるようだった。


 「うーん、二年生の教室に入るのは恥ずかしいから、放課後に校門の所で待ち伏せとか?」


 「あっ、あたしはどうしたら……」


 「茜ちゃんは先に帰ってて、ここは大船に乗ったつもりで私に任せ……」

 

 「──あれ、そういえば里桜ちゃん、純くんと話せるの?」


 ギクッ


 一気に不安そうな表情をする茜ちゃん。

 

 「だ、大丈夫! ダイジョウブ!」


 そんな茜ちゃんを丸く収めるように私は必死に、大丈夫、大丈夫、とだけ繰り返し言った。


 「……なら、大丈夫だよね。里桜ちゃん、嘘はつかないし」


 「う、うん!」


 ……必死に茜ちゃんを説得し、なんとかその場はやり過ごした。

 

 だけど、茜ちゃんが言っていた事。それは真っ赤な嘘だった。

 

 「(私、あの人とまともに話したことないのに……)」


 私は、初対面の人や普段あまり話さない人とのコミュニケーションは、全くといっていいほど自信がない。

 それでも私は、この学校に入って初めてできた友達のために、嘘をしのんで助けてあげたかった。だから、結果、あんな嘘をついてしまった。


 こみ上げてくる焦燥感を、作り笑顔でなんとかごまかしながら、その日の放課後がくるのを待った。


 

 


 ──俺は、相当悩んでいた。


 午後の授業はまったく頭に入らないし、隣で会話しているあいつの声さえも、耳に入ってこないくらい俺は悩んでいた。

 

 「(……どうして、あんなに怒ったんだろうか)」


 事の発端は、と聞かれたら、どう答えようかと半日考えるくらい難解なことだった。

 それくらい、あの時の茜は怒っていた。


 『どんな風に変わった?』

 あの言葉が頭から離れない。


 ……結局、その日の午後はずっと呆けてしまって、気がつけば放課後が訪れていた。


 「おーい、純一。一緒に帰ろうぜ」


 「あ、ああ。竹良か。ちょっと待っててくれ、すぐ準備する」


 「どうした? いつもなら『我先に!』って感じでパッパと帰る支度してたのに」


 「あ、いや、別に……」


 昼からずっとこんな調子だ。本当、面倒に会うとろくなことにならない。

 

 俺の曖昧な返事に、竹良は首をかしげた。

 そして俺が帰る支度を済ませ、いざ帰ろうと席を立つと、「そうか、まあいいや」とだけ言って先に教室を出て行った。


 「(……これ以上面倒は増やしたくないな……)」


 平穏、安寧、無事故を祈りつつ、騒がしい女子達の群れから逃げるようにして、教室を出た。


 

 

 




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