Episode-14 一難去ってまた一難
「さて、と。いただきまーす!」
「……いただきます。」
「…………」
一人だけ、すごくテンションが高いように見えるこのテーブル。
あまり乗り気がでない俺と、もはや乗る気を感じない茜の友達の里桜ちゃんは、ただ一緒に食事しているだけというのに騒がしい茜のテンションに飲み込まれていた。
「このオムライス、すっごくおいしいよ! ね、純くん?」
「……いや俺が食べてるのカツ丼だし……分かんねえよ」
無理やりこの場を盛り上げようとしているのか、茜は端から俺の答えなど求めていないかのように、パクパク食べ進めては何度も俺に話しかけてくる。
茜の隣では、里桜ちゃんがひっそりサンドイッチを食べている。
……どうも、様子がおかしい。
俺はいつものように直感、勘で、茜の異変に気づいていた。
「うん、やっぱりおいしいよこのオムライス! あ、でも、このグリーンピースはイマイチかも」
「……ちゃんと残さず食べろよ。」
なんて言うか、一人で楽しんでいる感じがする。
こいつが『自己中心的』なことは前からだったが、友達が居る中でもそんな態度をとっているのは見たことが無かった。
茜の性格は、その髪の色と同じように派手で、個性が強い。
……むしろ、その髪のせいで、そういう性格になっているのかもしれないが……。
「…………」
なんにせよ、茜がこんなんじゃ里桜ちゃんも楽しくないだろう。
ここは俺が、大人の接待ってのを……
「──ねえ純くん」
突然、茜が落ち着き払った表情で俺に話しかけてきた。
「な、なんだ」
急に態度を変えた茜は、手に持っていたスプーンを置き、俺の方に向き直った。
「あたし、変わったと思う?」
「……あ、ああ……」
「どんな風に?」
「どうしたんだよ、急に……」
いつの間にか里桜ちゃんも、手を止め、俺のことをじっと見つめていた。
「いいから、答えてよ。どんな風に変わった?」
「えっと……」
俺は必死に答えを探す。
そして過去の茜と今の茜を照らしあわせ、何か少しでも変わった所を探した。
が、当然、そんな事を急に聞かれても、気の利いた答えは出せない。
「髪型、とか……?」
出来れば気に障って欲しくないが、今の俺には、すでに良くない空気が流れ始めていることを気づけずにはいられなかった。
俺の言葉を聞いて、茜は黙り込んでしまった。
そしてその隣に座る里桜ちゃんは、茜の顔を伺うかのように……心配そうな眼差しで茜を見ていた。
「……どうして」
黙り込んでいた茜が、さっきとは一変した弱々しい声で、そう呟いた。
「あ、いや、もちろんその髪型が嫌いとかそういうんじゃなくて……」
「──どうしてそんなに変わっちゃったのッ!!」
突然、茜が大声で怒鳴り散らした。
その大声を聞いてか、まわりの生徒達は声をひそめるようにしてこちらの様子をうかがっていた。
「あんなに……あんなに一緒に居たのに……! どうして……!」
茜の目には、大量の涙が浮かんでいた。
頬は赤く染まり、怒ったような表情をしている。
「お、落ち着けよ、何もそこまで本気にならなくても……」
俺はなだめるつもりで声をかけたが、逆に、癇に障ったのか俺の言葉を聞くわけでもなく席から立ち上がり、急ぎ足でどこかへ行ってしまった。
その茜に続くようにして、里桜ちゃんも席から立ち上がり行ってしまった。
「…………」
どうしようもないこの不安と、後悔。
周りの目線がとても痛く感じる。
……やってしまった。
また俺は、面倒に巻き込まれてしまった。
俺はどうすることも出来ず、ただその場でうなだれるしか他なかった。
「(……なんで、あそこまで怒ったのだろうか……)」
アイツが──茜が、あそこまで俺に対して怒ることは、今まで一度も無かった。
怒ることは、幼い頃よく遊んでいた時に、自前のおもちゃを壊した壊されたで何回かあったが、さっきほど真剣に怒ったことはない。
それに、あいつは泣いていた。
いつも明るくて、涙なんか見せないやつだった。
なのに、あいつは泣いていた。俺に対して、怒って、泣いていたんだ。
……余計に分からない。
髪について触れられたことが原因だったのか、はたまた他にあったのか。
「……はあ……」
一難去ってまた一難。
今置かれている状況に、俺は、頭を抱え悩まずにはいられなかった。