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純、i。 ※休載中  作者: ゆうまに
独りの美少女
10/31

Episode-10 修正


 翌日、佳織は学校に来なかった。


 担任の幕野内曰く、風邪を拗らせてしまったらしい。

 だが、昨日の様子だと、風邪は嘘だろう。


 あいつのことだから、「学校には行きたくない」だとか「どんな顔をして行けばいいの」とか、昨日のことを気に病んでることだろう。


 「…………」


 しかし、これはこれで面倒な事だ。手早く解決しないことには逃げようがない。

 

 だがそうは言っても、あいつが学校に来なくちゃ手の施しようがまるでない、つまりあいつが自分で解決しなければならないということだ。


 ……まあ、実を言えば、俺が助けることも出来る。


 ただ、面倒くさい。

 

 そう思うだけだ。




 

 ──その翌日、また翌日と、佳織は姿を見せなくなっていた。


 とうとう担任の幕野内も、佳織がなぜ休んだのか一々言うこともなくなって、クラスは当然、不思議に思い始めていた。


 もちろん俺も、その中の一人だった。


 「…………」


 いい加減、来てもいいと思う。

 来なくちゃなんの解決にもならないし、これから何も発展することがない。


 あいつが言っていた当初の目的さえ、今じゃ手が届かない。これじゃ本末転倒だ。


 

 

「(あいつは言っていたよな……『純一くんが私を救ってくれた』って)」


 なんだよそれ。

 それ全部嘘だったってことかよ。


 これじゃ何の意味があって俺はあいつに加担したんだ、一体どうして俺に悩みを打ち明けたんだ、何で俺が今悩まなくちゃいけないんだ。


 あいつは一体‘何’がしたいんだ……!


 俺は、学校でも家でも、佳織の事が頭の隅に張り付いていてそれ以外の事を考える余裕がなくなっていた、

 

 ──学校に来い、まだ何も終わっていないぞ。


 そういう想いだけが俺の脳内を渦巻いている。


 「…………」


 ……なんだか、ずいぶん長い間、誰とも会話していないような気がする。

 

 あいつが居なくなるだけで、俺はまったく喋らない人間になってしまっているか。


 今思い返せば、俺はあいつと話していて、とても楽しい気分になれていた。

 あいつも、俺と一緒に居て、よく笑顔を見せてくれていた。


 そんな日々が今、消え去ろうとしている。目の前から、去っていこうとする。


 いいのか、それで──。


 「……いや」


 ──‘良い'訳がない……!


 あいつは、俺に、何も返していない……! 

 俺はあいつに、何もしてあげてないじゃないか!


 こんなんで終われる訳がない……!!


 「ッ……!」


 ──俺はその瞬間、勢いよく教室を飛び出した。


 「ど、どこに行くんだ! おい!」


 後ろから地学の先生が追いかけてくるのが見えたが、俺は立ち止まることなく、職員室へと向かった。


 「(またあいつのことだから、転校するとか言うんだろ……!)」


 させない。絶対にさせないぞ……!


 俺は今まで以上の強い意志で、あいつをここに連れ返そうと思った。


 「幕野内先生は居てますか……!」


 「……ん? なんでお前がここにいるんだ?」


 ちょうど良く職員室の入った所のすぐそばに、幕野内はのんきにコーヒーを飲みながら立っていた。


 「今は……それどころじゃないんです! それより、どこですか!」


 「ど、どこって……何がだ?」


 「決まっています! 佳織の……‘錦戸佳織にしきどかおり'の家です!」


 俺が怒鳴り散らすように叫ぶと、幕野内は一瞬は驚いた表情になったが、すぐさま事情を把握したのか「ちょっと待っとけ、調べてくる」とだけ告げて、飲みかけのコーヒーをそばの机に置いてどこかへ行ってしまった。


 「(きっと、幕野内も佳織の事を気にしてたんだろう。でなきゃあんなに必死な顔にはならない)」


 しばらくして、幕野内が戻ってきて、メモの切れ端を俺に手渡してきた。


 「錦戸の住所だ。そこに行けば、あいつも居るだろう」


 「……ありがとうございます!」


 俺はその紙にかかれた住所を素早く読み取って、職員室から飛び出した。

 

 本当なら、授業中ではなく放課後に行くべきだったのを、幕野内は一切止めなかった。

 あんな強面な教師でも、生徒を思いやる慈悲は少なからずある、ということか。


 

 静まり返った廊下を颯爽と走り抜け、昇降口で靴を素早く履き替え、佳織の家に一直線で向かった。


 向かっている間、何をどう説明しようか、どう励ましをつけようか、と悩んでいたがもともとそんな事が出来る俺じゃないし、ここは土壇場で乗りきるしかないと腹をくくった。


 「はぁっ……! はぁっ……」


 だんだんと胸が張り裂けそうな痛みを感じる。

 体が熱い、足もだるい。


 だが俺は止まらない。

 止まってはいけない……!


 ──結局俺はノーストップで佳織の家に着いた。


 着くやいなやすぐさまインターホンを押し、誰かが出てくれるのを待った。


 「……どちらさまでしょうか?」


 「あの……! 錦戸佳織さんのクラスメートです! 佳織さんは居てますか!」


 インターホンから聴こえるのは、とっても落ち着きのある声だった。


 「ええ、居りますよ。少し待ってくださいね」


 「はい……!」


 インターホンが切れて、しばらくして、家の玄関から佳織のお母さんらしき女性が出てきた。


 「あなたが……純一さんですね。どうぞ、お入りになってください」


 「あ、はい! お邪魔させていただきます!」


 意外と快く入れてくれたのはとてもありがたいんだが……。


 「……ってなんで俺の名前を?」


 「あの娘から、よくあなたの話を聞かされるんですよ」


 「そうなんですか。」


 佳織のお母さんは、なぜか少し嫌味っぽく、迷惑そうにして話す。

 

 「ここが、佳織の部屋です。私は下に居りますので……ごゆっくり」


 「はい。ありがとうございます」


 俺が案内されたのは二階の一室、佳織の部屋の前だった。

 

 当然っちゃ当然だが、やっぱりこういう時になると緊張してしまう。

 

 「お、おい……起きてるか?」


 それでも黙っているわけにいかない、俺はドア越しではあるが声をかけてみることにした。


 「……起きてる」


 心なしか、いつもの迫力を感じないか細い声がドア越しに聞こえてくる。


 「ならよかった。お前、最近学校来てないだろ、どうかしたのかと思ってさ」


 「…………」

 

 返事が返ってこない。

 きっと、この前の事があったから言葉を詰まらせているのだろう。


 「お前さ、風邪なんてひいてないんだろ。なんで嘘ついてまで、学校に来ない?」


 「そんなの、純一くんが一番分かってるでしょ!」


 「……まあな」


 急に怒り立った声で、佳織は叫んだ。

 それに、至って冷静な態度で苦笑いしそれを受け止める。


 「もう、これ以上は無理だよ……」


 「…………」


 「どうせ私には出来ないんだよ、出来ないように神様が仕組んでるの。だから私には、もう、出来ないんだよ……」


 「──じゃあ聞くけど、なんでお前は俺と話せるんだよ」


 「それは……だって……」


 「神様が仕組んでるって言うなら、何で俺はお前と話せてるんだよ。」


 「…………」


 ドア越しに、鼻をすする音がきこえる。

 

 「お前な、勝手な理由つけて逃げようとしてんだろ、それ本末転倒だから。面倒な事から逃げ出そうとして、結局また面倒に付きまとわれる。……俺が言えたことじゃないが、面倒な事は必ず解決させろ。そうでなきゃ、お前、どこに行っても悩みつづけるんだぞ」


 「そんなの分かってる……!!」


 「──分かってるなら、何で学校に来ないんだよ! 心配するだろ!」


 佳織に対抗するように、俺は大声で反論した。

 

 「もう、いいから……!」


 「よくねえだろ! 大体、お前から俺に──」


 すると突然、ドアが開かれる。


 「──私の事なんか放っておいて! どうせ純一くんだって私のことどうでもいいって思ってるんでしょ!」


 部屋の中からは、涙で顔をぐしゃぐしゃにした佳織が出てきた。

 

 「んな訳ないだろ!」


 「ウソ! ウソに決まってる!」


 「ウソだったらわざわざお前の家まで出向いて、連れ戻しにくる訳ないだろッ!!」


 俺は今日一番の大声で、目の前で泣きじゃくる佳織に向かって怒鳴った。


 「ウソ……ウソだよ……そんなの」


 佳織は、溢れ出る涙を拭いながらもぺたんと床に腰を下ろした。

 そして幼い子供のように、なきじゃくった。


 俺はそんな佳織を見て、不覚にも可愛いと思ってしまった。


 いつも笑顔で居る佳織だが、やはり顔が整っているだけあって、泣いていてもその美少女っぷりは失われていなかったんだ。


 「ウソじゃない。お前は、俺の『大事』な友達だ」


 「……友達……?」


 「ああ。悩みを共有する、大事な友達なんだよ」


 我ながらなんて恥ずかしい台詞を……とも思ったが、あながち間違いではなかったようで……。


 「……純一くんと、私が……友達?」


 途端に泣き止み、純潔した目とほのかに赤い頬で、上目づかいを俺に向けてくる。

 

 「お、おう」


 さすがに、そんなものを直視出来る訳がないので目をそらしながら、俺は言った。


 「…………」


 「な、なんだよ……急に、黙るなよ……」


 「……フフッ」


 佳織はそんな俺を見て、失笑した。

 

 「なにがオカシイんだよ、何もおかしくないだろ」


 「ううん、オカシイよ純一くんは」


 首をふるふると振った佳織は、いつもどおりの笑顔でちゃんと話せていた。

 

 「……はあ、まあ……そうかもな」


 なんで俺はここまで本気になっていたんだろう。

 それが不思議に思えてしかたがなかった。


 「私、ね。あの時、もうダメだと思ったの……絶対話せるようにならないって」


 「…………」


 「そう考えてたら、なんだか勇気が出なくなってさ、学校にいくのも億劫だった。だから、何日も学校休んでたの。風邪なんてウソ、きっと純一くんにはバレると思ってたけどね……」


 「バレた結果が、これだ」


 「そうだね。結局また、純一くんに救われちゃったよ。私」


 ニコッと、佳織は自慢の笑顔を申し訳程度に見せつける。


 「いや、まだ何も解決してないだろ。勝手に終わらそうとするな」


 「……そうだね」


 「んじゃ、早く着替えろ。学校行くぞ」


 「うん……あのね、純一くん……」


 「なんだ?」


 佳織は恥ずかしがっているのか顔を俯かせている。


 「あの、ありがとね……来てくれて」


 「……礼なんかいいって、それより早く……」


 途中まで喋っていたのを、突然、佳織の唇によって口を塞がれる。

 

 ……キス、された。


 あまりにも不意だったので、俺はどうすることも出来ず、なされるがまま。

 

 秒数にして五秒くらい、佳織は俺の顔から離れなかった。

 そして顔を離すと、素早く自分の部屋に戻って行った。


 「すぐ着替えるから、待ってて!」


 佳織の言葉なんて全く聞こえていない俺は、肝を抜かれた魚のようにただ無言でその場に立ち尽くすのであった……。


 

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