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純、i。 ※休載中  作者: ゆうまに
新しい日々の始まり《プロローグ》
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Episode-1 新春新学年新クラス

 俺のような『平凡』な奴には、時の流れというものに対して関心がなく、ただただ過ぎ行く毎日を追いかけもせず呆然と眺めていることしか出来ない。

 一秒、一分、一時間が俺の時間であり、この世界の時の流れだ。変わることはない。

 ただ、どうも不可思議な点が一つある。

 

 それは、戻れないということ。


 なぜ戻れないのか。どうして先へ先へと進んでいくのか。

 誰も知らないだろう。






 ──公立大和高校。設立から五十年以上経つこの学校は、昔はエリートが集う場として名が高かったが、今は普通の……いや、普通以下かもしれないが、ただの──どこにでもある高校だ。

 俺がこの高校に入ったきっかけは、『家から近い』『行事があまりない』『目立たない』の三拍子に惹かれたからで、どんな授業をするのかどんな教諭が居るのかなど『真面目』に考えた訳ではない。


 「しかし、一年経つのがこんなに早いなんてな……純一じゅんいち


 「ああ。ホントに。何でお前がここに居るんだろうな」


 「水臭いじゃないか、僕は純一のすぐ側──いや、いつも心の中に! 居る!」


 こんな奴でも、一応、入学当初からの友人で色々世話になった……気がする。

 こんな性格とは裏腹に、頭が良く、運動もそこそこ出来るがうまく話が噛み合わない時もある。


 「……御託はいい。何でここに居るのかって聞いてんだ、竹良たけよし


 「何でって、今日は新春新学年新クラスの日だからに決まってるだろ」


 「始業式って言えよ。竹良もこのクラスか?」


 少し呆れた顔をして、学生服の第一ボタンを開けた竹良は、ポケットの中から一枚の紙を取り出し俺の机の上に広げて見せた。


 「ほら、ここ。純一の二個後ろが僕の席。んで、ここの担任は……」


 「……ここの担任、は……?」


 何故か途中までしか話そうとしなかった竹良は、幽霊でも見たかのよう青ざめた顔をして自分の席に戻って行った。


 「(一体どうしたんだ)」


 内心不思議に思いながらも、担任が来るまで静かに待つことにした。


 



 そして、時は来た。

 

 「改めて、自己紹介する。担任の、幕野内まくのうちだ。これから一年間、よろしく頼む」


 「…………」


 よりによって、あの『熱血』で定評がある幕野内が担任になったとは……。

 竹良はこのせいで、か。何とも表現しにくい感情が渦巻いているぞ。


 「さっそくだが、お前らに良い知らせだ。耳の穴よくかっぽじって聞けよ」


 良い知らせ、か。担任が幕野内だけあって、にわかに信じがたいが……。

 なんとなく想像はつく。


 「おい、純一」


 「ん?」


 ふと、急に後ろから俺の名前を呼ぶ声が聞こえたので振り返ると、さっきの青ざめた表情とは打って変わって、とても嬉しそうな顔をした竹良だった。

 

 「これって、アレ、だろうな? な?」


 「だろうな。それしかないだろ」


 竹良も……ていうか、俺たち以外のやつらもきっと分かってるだろう。


 「おいソコ! HRホームルーム中は静にしろ!」


 ……何故か、俺だけが指をさされる始末に……。


 「ゴホン。さて、その良い知らせというのはだな……」


 一瞬の沈黙が流れる。


 「『転校生』が、ウチのクラスに来ることになった」


 その瞬間、さっきまで静かだったやつらが、急に騒ぎだし始め、担任の幕野内も困った表情を見せた。


 「純一! 女、だろうな!」


 「かもな。」


 ここにも一人、騒がしいやつが居た。


 「お、おいお前ら。そんなに騒いだら、転校生の子も入りにくいだろうが」


 幕野内の一声で、ざわつきは収まったが今度は、今か今かと教室の入り口を凝視し出した。

 

 「はあ、まあいい。じゃ、入ってきてくれ」


 その言葉が切れると同時に、入り口のドアは開かれた。

 

 そのドアの向こうから現れたのは、人形のように整った顔でパッチリとした目、しっとりした長い黒髪の、いかにも『清純』の二文字が合う、少女だった。


 その可憐さ、美しさあまりクラスは凍てつくよう言葉を失うやつが続出していた。

 それほど、その転校生──少女は美しかった。


 「それじゃ、自己紹介してやってくれ」


 「はい。」


 教壇の上に立ったその少女は、一息つき、その美声で淡々と自己紹介を始めた。


 「~~佳織かおりです。昨日越してきたばかりで、ここら辺の事はあまり詳しくありませんが、これから一年間、どうぞよろしくお願いします」


 声がどもっていたせいか、名字が上手く聞き取れなかったが……、名は佳織というらしい。

 

 佳織の自己紹介が終わると、俺は──いや、俺 だけ がパチパチと拍手した。特に深い意味はなかったが……、それが嬉しかったのか、佳織はこっちを見てわずかに微笑んでくれた。優しい奴なんだろう。


 「よし。それじゃ、転校生の紹介も終わったし……後は……、ん? どうしたお前ら?」


 幕野内は、クラス全体を見て首を傾げた。

 

 「…………」

 

 俺も、首だけ曲げるようにして、クラス全体を見渡すと……。

 一人、一人(主に男子)が、ものすごい形相で俺のことを睨んでいる。


 「ど、どうしたんだっ……」


 尋常じゃない殺気を感じ、唯一このクラスで顔見知りの竹良に助けを求めようとするも……。


 「…………」


 こいつも、何故か俺の事を睨んでいる。というかこいつの目が一番殺気を感じるんだが……!


 「……あの、先生。私はどこに座れば……」


 その時、天使のような声がクラスに響き渡った瞬間に、みんなの顔(主に男子)は一変、一斉に手を上げ始めた。

 『俺のとなりへどうぞ!』『いや、俺の隣へ!』『いやいや俺の隣に!』

 競りでも始まったのかと思うくらい、四方八方から声が飛び交う。


 「いや! 絶対に僕の隣がいいと思います! ってか僕の隣じゃないとダメです!」 

 なかでも、竹良の声はよく響いていた。気持ちいいくらいに。


 「……って言ってるが、どこでもいいぞ。お前の好きな所に座れ」


 幕野内は、至って冷静に、佳織に言った。

 それを聞いて、佳織は少し悩むようにしてから、こちらの方を指さしながら幕野内に何かを耳打ちしている。

 

 「(こんな中途半端な所に座るのか? 物好きだな)」


 俺だったら、窓際の一番端っこか、一番後ろに座るけどな……。


 「……よし。分かった。」


 幕野内は大きく頷き、名簿を少し見てから、その堂々とした目付きで俺を見た。


 「そこの……ナントカ純一。の隣の席に、こいつが座りたいそうだ譲ってやってくれ」


 「……えっ」


 瞬時に俺は考えた。

 ナントカ純一、というのは俺で間違いないだろう。そしてその隣、顔も知らない女子だが、黙って席を立ち上がった。ということは、そこに佳織が座るということだ。しかしなぜ俺の隣に? いやその前に、この俺に浴びせられている殺気をなんとかしてほしいんだが……!


 「よろしくね。」


 気づけば、佳織が俺に向かってまた微笑んでいる。


 「あ、ああ……よろしく」


 少し呆気にとられながらも、返事をした。満面の『苦笑い』で。






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