第三十一話−リトル・ビニーの特技2−
リトルはそう言って、僕から編み棒を奪い取った。
「いいか? まずは、こうやって持つんだ。 やってみろ」
「え……こう?」
さっき、リトルが握って見せた、手の形を真似ようとする。
「違う違う! まったく、お前は頭が悪いな」
そして、再び、リトルは僕から編み棒をふんだくった。
「うるさいな……」
僕が小さな声で悪態を着くと、リトルは僕を小ばかにするような態度で言い返した。
「どうせ、お前ごときの知能では編物もろくにできまい。 私なんて、普段からロープを編んで、鍛えているほどだ。 フフ、ジェシーへのプレゼントはどうする」
……糞っ、むかつく……ッ!
「わかったよ。 やればいいんでしょ? やればさー」
ロープを編んでいる、だなんて、どういうことだ? 握力がついて、早くなるのかなあ。
あれ? ちょっと待て。
「ねえ、今なんて言った?」
すると、リトルは気まずいことを聞かれてしまったかのように、目を細めた。
「言ってたじゃない。 ジェシーがどうって」
「ふん。 それは、私が未来人だからだ。 お前がこれからしようとしている行動などすべて計算済みよ」
「じゃあ、どうやって調べたんだよ?」
リトルは、僕から目をそらした。
「お前に教えることじゃない。 さ、続きを編むのか? 編まないのか?」
僕は、いまいち納得がいかない。
「わかった。 編むよ。 だから続きを教えて」
***
そのあと、しばらくは、リトルから基礎をみっちりと叩き込まれることになった。
やっとのことで本題に入れたのは、その三十分後のこと。 僕は疲れてやる気がほとんどなくなっている。
でも、リトルが丁寧に一から十まで教えてくれたことが、かえって良かった。
僕は、ほとんど間違えることなく、ジェシーのマフラーを編むことが出来るようになったからだ。
それにしても、どうしてリトルはジェシーのことを知っていたんだろう?
もしかして、僕を魔術師にするために、いろんなことを下調べしていたとか?
ヒャー! 怖い。 だとしたら、きっと僕が今まで"ピー"したことや、"ピー"しちゃったことまで知られているんだ。 そうに違いない!
「ま、せいぜい頑張るんだな」
一通り教わった後、リトルはそう言って、僕から少し離れた。
「……ありがと」
ありがとう、だなんて心の底から言えることじゃない。 さんざん嫌な目にあわせておいて……!
しばらく編んでいると、不意に彼が立ち上がった。
「さて、私はろそそろ帰るとしよう。 レンディ。 こういうところには、決まってカラスが寝に来るからな。 早く帰るんだぞ」
彼はそう言って、帽子をかぶりなおし、帰る仕度をする。
僕は、編むことに熱中しながら
「わかってる」
と、答えた。 そして、一瞬の沈黙――……しかし、それを先に破ったのは、リトルだった。
「おい、レンディ」
「何?」
「真実というものはだな、実に信じがたいのだよ。 ことが上手くいかないのは、お前が自らの過ちに気づいていないからかもしれないぞ」
彼は、そう言い残して、僕の前から立ち去った。
……自らの過ち? 僕が何かしたって言うの?
僕は、マフラーを編みながら、今まで何か失敗していることが無いか、思い出せる限りのことを思い出してみた。 しかし、何も思い当たる点が無い。 一体、何が問題なんだ。
僕は、この先に待ち受ける最悪の事態につながる要因が……まさか、すぐそばにいることなんて知らずに、後の時間をすごした。