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第三十話−リトル・ビニーの特技−

僕は家からケケ(実は、この前猫に名前を付けた。モモとルシーとケケが候補だったけど、ジェシーがケケが良いと言ったから、それに決まった)を連れ出して、シルヴァニア公園へ向かった。第一に、あんなにカッカしている母のそばにはいたくない。ジェシーからあずかった紺と緑のチェック柄をしたペットケースを木製のベンチの上において、そのとなりに僕が座り、マフラーの続きを編んだ。


ケケはどうしよう。このまま捨てるというワケにもいかないし。ジェシーに返すのも、なんだか気が引ける。

家で飼わなく、かつ捨てるというワケでもない方法はないものか。


そんなことを考えながらマフラーを編んでいたが、一向に良い考えが思いつかなかった。

しかも、何度も同じところで躓いていた。

時間が経てば経つほど、頭がイライラしてくる。


「あー! できないよ、こんなの……!」


とうとう僕は勢い余って地面をかかとで蹴飛ばした。

しかし、衝撃が上手いこと骨に響いたので、地面にカウンターを食らってしまった。

だめだ。ずっと同じ事ばかりしていると、ストレスが溜まる。

気分転換にケケと遊ぼう。


「おい、でてこいよ」


ペットケースのふたを開け、中を覗き込むと、奥のほうで二つの目がキラリと光った。

ケケは瞳孔をまん丸く開いて、僕の顔をじっとみつめている。


僕が舌でチッチと合図を送ると、いそいそとケケが飛び出してきた。

しかし、そいつは、僕の腕に飛び込んでくるのかと思いきや、なんと僕の腕を飛び越えて、広場のほうへ駆け出していった!


「わ、ちょっと待てよ!」


そいつは、仔猫のクセに妙に足が早くてあっという間に追いつけなくなってしまった。おまけに、植木のところまでいかれてしまい、あっとう間に草の生い茂った影に隠れられてしまった。


残念なことに、広場の花壇は、まったくと言って良いほど、管理が行く届いていなく、植え込みに混じって雑草が―――それも、たっくさん生えている。 皆、元々植えられていた花達の背丈を当に越しており、花壇とは、とても言いがたい。

その中に入っていくのは、流石に気が引けた。

しかし、ここで逃がしてしまったらジェシーにあわせる顔が無い。

仕方が無いので、僕はしぶしぶと雑草の生い茂る植え込みの中に入っていった。

長い靴下を履いているといえども、雑草がチクチクと刺さってくすぐったい。

気づいたら、黒い靴下が枯草だらけになっていたので、時々手で払いながら、進んだ。


「おーい! まったく、どこに行ってしまったんだ」


僕は、時々ケケの声真似をしたりしてみたが、一向にケケは姿をあらわさない。

次第にやつれてきて、よれよれになりながら猫を探すようになった。

とうとう上からケケを探すことを断念し、ケケと同じ視線で探すべく背を低くして草の隙間を伸び着込んでいると、背後から用務員らしき人間の声が聞こえてきた。


「おい、そこで何をしている」


僕はつい、起こられるものだと思い、ヒイ!と声を上げて立ち上がり、植え込みから降りた。

そして、ふと振り返ると、そこには、やはり用務員がいた。

茶色いコートを着てた、二メートル近い身長の……


「リトル・ビニー!」


それは、確かにリトル・ビニー本人であった。

僕が叫んだのとは裏腹に、リトルはやはり冷静だった。


「奇遇だな」


「お願いだよ! さっき、友達から預かっている猫を逃がしちゃったんだ。それで……」

僕は、これ以上言わなくても、彼に言いたいことが伝わると思ったが、彼の反応は無かった。


「……それで、そう。 一緒に探してほしいんだ」


すると、リトルはしばらく黙り込んだ後、鼻で溜息をつき、こう言った。


「何故、私がお前に付き合わねばならないのだ」


彼はその一言で僕を一蹴した。冷たいにも程がある!

続いて、彼はさらに説教を付け加えた。


「猫くらい自分で探せるだろう? それに、人と会っていきなり物を頼むとは失礼にも程があるぞ」


僕は、返す言葉が見つからなかったので、しばらく黙りこくった後、彼の言葉に了解を仄めかした。


「……わかったよ。 じゃあ、ひとりで探すから」


僕は彼にそう言い捨て、渋々と花壇へ引き返していった。

リトルはいつのまにか僕の座っていたベンチに座り込み、新聞を広げて記事を読み始めている。


僕は、一所懸命にケケを探したが、リトルはそれには目もくれず、何かと楽しそうに触れ合っている。どうせ、野良猫か何かだろう。

その間にも、僕はケケを探しつづけたが、一向にケケが見つかることは無かった。


「ねえ、リトルも一緒に探してよ!」


「だから、私は探す必要が無いといっているだろうが」


僕は悪態を着いて、リトルの方へ目をやると、なんとそこには、今、まさに探していたケケの姿が。それも、気持ち良さそうに抱かれているではないか……!


「ねえ、ちょっと! それは、僕の猫じゃないか」


「目の付け所を変えないからだ」


そう言って、リトルは鼻で笑った。このクソオヤジが!

僕は怒りを静めるために一呼吸した後、リトルの隣に嫌々座って編物の続きをやりはじめた。

無言で何目編んだのか確認していると、左側からじっと見られるような視線を感じた。

何かと思い、チラッと目を向けると、どうやら、リトルが物言いたげに様子でこちらを見ているようだった。


「……何?」


すると、リトルはビクついて、一瞬僕から視線をそらした後、鼻で溜息をついた。


「いや。 ……ただ、編み方が……ええーい、貸してみろ、レンディ」


彼の腕がぬっと僕の前に現れる。


「ちょ!」


待ってという間も無く、リトルは僕の手の中から網掛けのマフラーを奪い取った。

そして、今まで一所懸命に編み上げてきたマフラーを片っ端から解いてしまった。

僕の編んできたマフラーは、あっという間にただの毛糸の山になった。


「勿体無いな! なんてことするんだよ!」


すると、リトルは僕に向かって、自慢げな様子でにやついてきた。


「私が編み方を教えてやろうではないか」

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