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第二十九話−一番目の計画−


「おはよう! レンディ、昨日のデートはどうだった?」


 僕が教室に入った瞬間、ケビンはまるで昨日のことなど、無かったかのように調子よく話し掛けてきた。

 僕はケビンの問いかけになど、答える気にもなれなかった。

 だから、彼を無視しつつ、席につく。

 そして、リュックから教科書とレポート用紙を出して宿題の続きをした。


「おい、なんとか答えたらどうなんだよ?」


「ケビンには関係ないだろ」


「は……?」


 ケビンは、僕を上から下までにらみつけて、何様のつもりだ?とでも言うように、舌打ちをした。


「てめえ、なめてんのかよ。え?」


「別にそんなつもり無いよ。 それよりも……ねぇ、ジェシー!」


 僕はケビンを通り越して、後ろの席に座っているジェシーに話し掛けた。

 すると彼女は、真っ黒のノートから顔を上げ、一体何事? という顔をし、僕を見たあと、ケビンを見た。


「話があるんだ」


「何?」


 僕は、前に立ちはだかっているケビンを押しやり、ジェシーの方へ歩み寄った。

 そして、彼女の手を引きながら教室を出て行くとき、ケビンが「おい、みろよ!」 等と、皆のほうに何度も目配せをしながら僕とジェシーのことをからかった。

 なんて、おせっかいな奴だ!


 立て付けの悪い教室のドアを、勢いよくしめても、ケビンに煽られたクラスメイトの騒々しい声が聞こえてくる。


 僕とジェシーで廊下を歩いていくとき、ジェシーは「追いかけられないかしら?」 と、何度も心配そうに振り返っていたが、僕は、それにかまわず先に進んだ。

 僕たちのいる、八年F組から十メートルほど離れた階段の一段下がったところに、僕とジェシーは腰をおろした。


「そんなに秘密にしたいことを話すの?」


僕はうつむいて、


「別に。 ただ、ケビンがうるさかったから……」


と、言った後、ジェシーに向き直り、本題に入った。


「あのさ、今度ジェシーの家に遊びに言ってもいいかな? ジェシーのお父さんとお母さんにお礼が言いたくて。この前のハロウィンのことだよ」


 僕達の目の前にある大きな窓から、曇り空の白い日差しが、ジェシーの髪を青白く照らしていた。

 最初はなにがなんだかわからない表情をしていたジェシーだが、次第に事がわかった様子で、顔をほころばせた。


「ああ、あれね? お礼なんていいのに!」


「ううん、そんなことないよ。 たくさんご馳走してもらったんだし。 それに……」


 ここから先のことは、本当は口にしたくなかった。 しかし、


「それに?」


と、ジェシーに聞き返されたので、僕は言葉に迷ってしまった。


「……やっぱり、そのことは気にしないで」


 僕がぼそりと答えると、ジェシーは肩をゆすってせがんできた。


「いいから! それに、なんなの? 友達同士なら隠し事はしないはずでしょ?」


 僕は、ばつが悪くなって、思わず苦笑いした。

 そして、しばらく考え込んだ後で、僕はジェシーにこう告げた。


「……ほら、もうすぐクリスマスじゃない。 だからジェシーにプレゼントを渡したくて」


 するとジェシーは青い目を輝かせて、満面の笑みを浮かべた。


「本当に? 嬉しいわ」


「えへへ、楽しみにしてて……それよりも、もう戻ったほうがいいかもしれない」


 僕の言葉を聞いて、ジェシーは自分の腕時計に目をやった。


「あら、いけない。 あと5分で先生が来るわ!」


 僕は、ジェシーを先に行かせて、そのあとをつきタイミングをずらして教室に入った。


 僕が適当についた嘘に、彼女は本当に嬉しそうに反応してくれていた。

 あんなふうに言ってしまったからには、僕もちゃんとプレゼントを用意しないと、彼女をガッカリさせてしまうだろう。

 それにしても、彼女は何が好みなのな。

 僕なら本を買ってもらえれば、それで大満足だけど……でも、ジェシーもそうとは限らない。

 第一、ジェシーは誕生日の日でも参考書を買ってもらっているような女の子だ。

 だから、本では僕もあの子の親と同じになってしまう。


 女の子へのプレゼントか――……。


 ここはクラスメイトに相談したほうがよさそうだ。

 まず、女子の生態系に詳しそうな、ジョーに聞いてみよう。


「僕だったら、シルバーのリングかな? もちろん、名前も彫ってもらうよ」


 そんな高いの、僕には無理だ! 結婚するわけじゃ有るまいし。


「俺は――……キスをプレゼントするよ」


 そういったのは、クラスで一番キザなマックだ。

 この臆病な僕には絶対に無理! 第一に、そんなことしたらジェシーになんていわれるかわからない。 怖すぎる。

 そして、そのとなりで


「歯ブラシは?」


 といっていたマーフィーは論外だ。


「やっぱりカードを渡すしかないのかなァ……」


 僕がそうあきらめかけていたとき、ふと、となりの席に座にいた女の子が、アドバイスをしてくれた。


「ねぇ、手作りのものなんてどう? 私がもらったとしたら、とても嬉しいと思うけどな」


 そうか! 手作りという手があった! 僕は、なんでそんなに身近で、それも簡単なことに気づかなかったんだろう。

 早速、何かを手作りしなくちゃ!


 ……でも、何を作れば良い? 僕が、何か作れるものなんてあったっけか……


 うーん……―――そうだ。 編物なんてどうだろう。 ベタだけど季節的にも合ってると思うし。

 それに、昔よく母さんが僕に毛糸で編んだセーターや帽子を作ってくれていた。 だから、母さんが編物に関連する何かを持っている。


 家に着いてから、僕は母さんの使っているクローゼットの中をあさった。

クローゼットの中は思ったよりも整頓されていた。しかし、そこには、昔、親戚の結婚式の時に着た古いワンピースやブラウスがところ狭しと収納されている。

 それらを、やっとの思いでかき分けていくと、棚の奥底に大き目のケーキの缶が眠っていた。

 クローゼットの中に身を乗り出して、それをひっぱりだすと、同時に埃が舞い上がり、そのせいで僕はしばらく咳き込んだ。


 ケーキ缶は、少なくともニ、三年は手をつけていないといった感じだ。

 ベタベタと薄汚くなった缶のふたをあけると、中には、赤、オレンジ、青の毛糸と、何本かの編み棒、それと、黄ばみがかった、子供用のニットの帽子を作るための説明書が入っていた。


 赤い色の毛糸は一握りしかなく、オレンジと青の毛糸は、そこそこ残量がある。

 女の子なら、きっと暖色系の色を好むだろう。

 しかし、これではオレンジと青の毛糸を使うしかない。

 きっと、大丈夫さ。 ジェシーは青い色が、好きだし。


 オレンジと青のしましま模様にしようかな。

 ……僕は、マフラーのデザインをあれこれ考えながら、編物のケーキ缶を自分の部屋へ持っていった。


***


 僕は、子供用ニット帽の作り方説明書を見ながら、基本的な編み方を一つずつ覚えていった。

 あーあ。 こういうときに、母さんが教えてくれたら手っ取り早いのだろうけど。

 でも、編物をする理由をせまられたとき、なんて答えたら良い?

 まさか、ジェシーのためにマフラーを編むんだ、なんて言えるわけがない。 第一に、恥ずかしいじゃないか!


 ここは一人で頑張るしかない……。


 そう考えていたとき、「レンディー!」 という女の姦しい叫び声が聞こえてきた。

 僕は、編物をそっとベットの上へ置いて、一階のリビングに降りていった。

 どうせ母の頼みごとに違いない。


 リビングのドアを開けると、そこにはソファーで雑誌を見ている母の姿があった。


「猫はどうしたんだい?」


「あ……」


予想外の質問に、僕は拍子抜けした。


「まさか、まだあんたの部屋で飼っているんじゃないだろうね?」


 母はそう言って、雑誌の影から目を光らせる。

 何で今ごろになって猫の話題を持ち出して来るんだ!

 今まで、ずっと母は猫のことを言ってこなかった。 だから、うっかり飼っても良いものだと思っていた。


「ごめん。 ……でも、ちゃんと世話はしているよ! トイレだってしつけたし、毛玉をはいたら毎回片付けている! 猫の毛だって、ちゃんと取ってるし……」


 理由を並べていけばいくほど、声に力が入らなくなった。 本当は、全部嘘だ。

 すると、母はことごとく、僕の言い分を踏み倒した。


「まあ、猫に対する思いやりは文句なしね。 でも、母さんに対する思いやりはどうだい? あたしは猫が大嫌いなんだよ! 私が家にいる間は、ずっとつきまとって来るしね」


 そうだ。 そういえば、彼女は昼間の間はほとんど家にいるらしいが、僕が学校から帰ってくると、すぐにどこかへ遊びに行ってしまう。 もしかして、嫌われているのかな……。

 母さんは、一通り鬱憤をぶちまけた後、持っていた雑誌をテーブルの上に叩きつけ、キッチンへと姿を消した。

 どうしよう……母さんの目が血走っていた。

 そろそろあの猫をどうにかしなければ、まずいことになりそうだ……




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