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第四十八話−告白−

僕は今、彼とキスをしようとしている。

これは、ケビンが命令したからだ。 自分の好きでやっているわけじゃない。

だが、あまりにもひどすぎる!


リトルだって、流石に引いたらしい。 困惑した表情を見せている。


「おい! こんなことは、話に聞いていないぞ!」


彼が僕に向かって耳打ちすると、僕は邪険になって答えた。


「仕方が無いだろ? 彼はいつでもそういう奴なんだ。 自分の都合のいいように、事を持っていこうとしているんだよ」


「お前とキスすれば返してくれるつもりなのか?」


「どうだか……」


時間が流れる。 刻一刻と、時計は分を刻み、それにつられるようにして周りの衆は動揺する。

いつまでもこうしているのか? 選ぶべき道は、今のところ二つだ。

一つは、彼の言ったとおりに、キスをして、認めてもらい、合理的に日記を返してもらうこと。

そして、もう一つは、非合理的に、無理矢理日記を奪うか、それとも……?


「早くしろよ。 ただでさえこんな時間になるまで待ってやってるんだからよ」


そう言って、ケビンは腕時計を指差した。

イライラしている彼に対して、無理矢理な方法で日記を奪い返すことは、したくない。

相手が怒っていると分かっていて、武器もなしに立ち望むライオン狩りでもしているみたいだ。

でも、そんなの僕には無理。 死んだって、やりたくない。

それなら、一層の事、彼の(リトルの)正体をばらして、ここは和解したほうが良いに決まっている。僕は、きっぱりとこう告げた。


「ケビン? 落ち着いてよく聞いてくれ。 この人は、 男 の 人 なんだ!」


すると、彼はあごを落として、僕とリトルを順に見渡した。

しばらくすると、彼は正気を取り戻したらしく、いつもの調子で


「おい! どういうことだ」


と、わめく。


「でもそんなの、どうだっていいんだ。 日記を返せよ!」


僕は彼に立ち向かった。 和解するためである。

だがやはり、ケビンは言う事を聞かないライオンであった。


「嫌だね! 返すものか」


ケビンはテーブルに積み上げられたお菓子の残骸の中から、箱を取り出すと、その中にしまってあったらしい、黒い塊を取り出した。 あれは、僕の日記だ!

それを、あたかも大切な宝物のようにして、抱きか抱えている。

ケビンのエキスがくっついてるみたいで嫌だ。


「お前の日記とは、あのことか?」


すかさずリトルが僕に訊いた。


「そうだよ! 返して」


だが、ケビンは一向に返す気配など見せなかった。

それを察したのか、リトルは彼に迫った。


「貴様、それはレンディの所有物だぞ」


「な、なんだよ。 脅そうっていうの? ハハハ、お前なんか警察に突き出して、訴えてやる!」


「煩い、返せと言うのがわからんのか、小僧」


今ので、ケビンは一歩ひいた。 愉快だ!

僕は見ているだけである。 きっと、彼なら返してくれるハズだ。 少し、ケビンが可哀相だけど。


「ケッ。 そんなに欲しいのかよ……。 それなら、こんなもの、くれてやる!」


ケビンは、日記を窓に向かって、放りなげた。 まさか!

ページがめくれる。 そして、窓を突き破った!

無数にはじけた窓の破片とともに、僕の日記が落下する。


「カギを閉めろ!」


次の一瞬で、ケビンはとっさの判断を下した。

男女達は、一目散にカギを閉め始める。 僕はどういうことなのか、よくわからなかった。

ケビンは、僕等の方を振り返って、不気味に笑みをこぼした。


「どういうことか、わかるか?」


わからない。

しばらくして、カギを閉め終えた男女達が元の位置に戻ってくると、僕等に迫り込んだ。


「少しの間、おねんねさ!」


ケビンはそういうと、どこからか持ち込んだビニールの袋を自慢気にゆすった。

ビニール袋の紐は結わいてある。

中に、ふわふわとした何かが詰め込まれているようだ。 あれはなんだ……?


ケビンは調子に乗って、えらそうに僕を見下した。


「さあ、理科の問題だ。 少し吸うだけで、眠ってしまうもの。 なーんだ!」


「クロロホルムか?」


リトルはすかさず、彼に噛み付いた。

クロロホルムって……?


「ケッ。 レンディに答えてもらおうと思ったのによ。

 まあ、正解したことだけは認めてやる。 そうだ。 この中には、クロロホルムを含ませたハンカチが入っている。 それで一発。 お前等はグースカピーなのさ!」


そう言って、ケビンは爆笑した。

さっきとは、立場が真逆だ! 今度は、彼が愉快な気分に浸っているらしい。


「僕達をだましたんだね? 日記を返して欲しいなら、といって、いずれの方法を選んでも返してもらえない罠に貶めた」


「そうだ。 日記を奪うことは本当だ。 だが、そのためには、どうしても仲間が必要になったのさ」


「仲間?」


そうか。 だから、カップルたちはケビンに協力していたんだ。 でも、何故?


「今回もたくさん儲けた。 だが、一番価値があるのはお前の日記だな」


「まさか! お金で釣ったの……?」


するとケビンは冷酷なまなざしで僕を睨みつけた。


「俺のビジネスの邪魔はしないで欲しいね」


どうしようもない。

カギというカギがしめられ、密閉されている。 ケビンはクロロホルムを含ませたハンカチを持っている。それを吸わされたら、確実に奴等に日記を奪い返されてしまう!

出口は無い。 いや、無いに等しい。


リトルは拳を握り締めた。


「取り押さえろ!」


ケビンの一言により、男達三人が僕等に差し迫った。 羽交い絞めにして、身動きを取れなくさせる。

僕には一人が、リトルには二人が取り押さえに就いた。


「さあ、良い子は寝る時間だ!」


「寝て、たまるもんか!」


僕は必死で抵抗した。だが、力が叶わない。 何せ、奴等は上級生だ。 力で勝てないなら、頭を使うしか……


だが、どうしたら良いのかわからない。 冷や汗がじっとりとほほを伝った。

リトルは必死に何か策を練っているのか、じっとして動かない。

ケビンが、今まさに袋を結び目を空けようとした瞬間、リトルは男共二人を一蹴した。

そして、再びリトルにとってかかろうした瞬間、リトルはすかさずスカートを捲くって隠しておいた拳銃を取り出した。


「貴様等、それ以上近づくな。 近づいたら、引き金を引く。 それでお前等は、眠っちまうのさ」


恐ろしい発言に、僕は寒気がした。


「汚ねえぞ、お前」


ケビンたちは、悪態をつきながら、手を上げて僕等から遠ざかった。

しばらくの間、きつく腕を縛られていたものだから、肩の感覚がおかしい。

僕はリトルのところへ駈け寄った。 冷や汗が余計に冷える。

そして、ケビンの様子をみると、悔しそうにリトルのことを睨んでいる。

僕も含まれているのか。


「レンディ……私が銃を打ったら後ろの窓から、逃げろ」


「へ?!」


後ろの窓……僕は振り返った。 さっき、ケビンが日記を放り投げて割った、窓だ。

割れた隙間から、夜風がすうすうと入り込んで、かなり寒い。 しばらく窓の外を見つめていると、アパートの頭上をとおり越して、真っ直ぐと僕の前へ進んでゆくヘリコプターが見えた。 その音が嫌な予感をさせる。 気味が悪い。


「大丈夫、弾は入っていない」


「いや、そういうことじゃなくて……」


しかし、僕がそういうか言わないかの内に、リトルは銃の引き金を引いた。

音だけであると分かっていても、すごい銃声が鳴り響く。

当然、彼等はまさか銃弾が込められていないものだと知らないわけだから、リトルが引き金を引いた瞬間悲鳴をあげて、立ち退いた。 混乱している。


その隙に、僕はリトルに担ぎ上げられ、窓の縁から外の世界へと、飛び出した……。

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