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第四十七話−ケビンたちのアパートへ−

ケビンのいるセントラルアパートには、リップの家から三十分ほどでたどり着いた。

しかし、時計の針は、既に十一時を回っている。

僕は、足早に車から出て、ケビンのいる部屋に向かおうとしたが、リトルは「ちょっと待て」と言って、僕を呼び止めた。

開け放したドアに手をかけながらリトルの方を見ると、彼はどうやらトランクをとりだして、着替えようとしている様子であった。


「外に出るなら、さっさと出ろ。 私は着替えてから行く」


彼がそう言ったので、僕は外に行かないままドアを閉めることにした。

外で待っているのは、寒い。


助手席でリトルの様子を見ていると、彼はトランクの中から女の衣装を取り出して着替え始めた。

目にもとまらない! 車の中だというのに、窮屈さを感じさせないほど、身振りが軽やかだ。


「ほら、さっさと降りろ。 ケビン達を待たせているんじゃないのか?」


リトルは何事も無かったかのような顔をして、僕を促した。


***


ケビンの待っている部屋からは、にぎやかな声が聞こえてくる。

恐る恐るインターホンを押すと、表情をにごらせたケビンが出てきた。


「遅いじゃねえか。 待ちくたびれたぞ」


ケビンは僕の全身をくまなく見渡すと、次にリトルの方へ視線を移した。

すると、ケビンは口のヘリをゆがめ、


「まあ、あげれよ」


と言って、僕達を部屋に通した。

部屋はざっと見渡した限り、十二畳くらいの広さだ。

男女のペアが三つ。 食べ物や飲み物が所狭しとテーブルの上を埋め尽くしている。

僕は椅子に座る前にケビンのところへ寄り、早速日記のことを訊いた。


「僕の日記は?」


「待てよ。 そう急ぐなって。 それよりも、そこにいる女は一体何者だ?」


やはり勘付かれたのか? リトルの変装はすばらしい。 だが、声だけは変えられないようである。 そのためか、僕に説明しろ、と彼の目訴えかけていた。

僕はキョロキョロと辺りを見回して、もっともらしい紹介を考えた。


「えっと……そうだな。 うん。 僕の彼女」


そう言って、僕はさも慣れ親しんでいそうに、リトルの背中に腕を回した。 本当は肩を掴みたかったのだが、あいにく、僕の身長では彼の肩にまで、腕が回らない。

ケビンは、顔をにごらせた。


「で……そう。 他の学校に通っているんだ。 ロンドンのパブリックスクールだよ」


自分で居ったあとに、まさかこんなにデカイ女の子がパブリックスクールに通っているのか? という疑問が湧いてきた。

すると、ケビンはうなずいて


「なるほど。 じゃあ、お前等が本当に恋人どうしであることを証明してもらおうか。 そうしたら、日記を返してやるよ」


と、ニタニタしながら答えた。


ケビンの奴は一体、何を考えているんだ?!

何処までいっても、ずるがしこいやつだ!

彼に、リトルの正体を知られていたら、なおさら……。

いつバレるのかわからなくて、僕はハラハラした。


「本当の恋人同士かどうかなんて、本人達にしかわからないじゃないか!」


僕はヒステリックに言い返したが、ケビンはきっぱりと


「恋人同士なら、キスのひとつくらいできるだろ? それで認めてやる」


といった。


時間が止まる。

僕達はしばらく凍りついた後で、目を合わせた。

周りの男女達が、僕等に注目している。


ちょっと待てよ。 確かに、彼は女の人の格好をしている。

変装が完璧なのだから、ケビンや他の人たちに気付かれていないのだろう。

だが、あんまりだ! 中身は、自分の親ほど年の離れた男である。 しかも、リトル……。


僕はもう一度、ケビンの顔を見つめ直した。


「どうしても……か?」


ケビンはのどの奥で笑うばかりだ。

ケビンが笑い始めると、周りの男女達も釣られて笑い始めた。


「どうした? 人前じゃできないってか!」


彼は、きっと僕が適当に間に合わせた女の子を連れてきたものだと思っているのか。

それとも、まさか彼の正体に気付いていたのか……?


「……わかったよ! キスすればいいんだろ? キスくらいできるよ!」


僕は躍起になってリトルに向き直り、覚悟を決めた。

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